表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第4楽章 ザンザアラ・マスカレヱド編
66/94

58.ばかしあい



『もう遅いから、お前は一旦部屋で休んでろ。ん、ああ……じきに戻る。あとちょっとで見つけられそうなんだよ。それに、イタチごっこのままじゃ腹立つしな』


 はるはトランシーバー越しに、誠意を尽くして謝った。何度も、何度も。

 入れ違いになるのを防ぎたかったのに。仕事をほっぽり出してきてしまったなんて、ありえない。


「本当にすみませんでした! しかも私、皆さんになんにも言わないで部屋に戻ってしまいまーー」


 言い終わらないまま、虚しく通信は切られてしまう。ああ、と嘆く。銀髪ロングのお姉さん探し。陽が極度の方向音痴でさえなければ、たとえ単身でも協力したというのに。


 だけど。二の舞になったら、かえって迷惑をかけてしまう。


 さっきだって、部屋とトイレを間違えそうになったし。その時、一応あのお姉さんがいないか中をのぞいてみたけれど、やっぱりそれらしき人はいなかった。


 ベッドに腰掛けた途端、一日の疲れがどっと疲れが放出されていった。陽は、そのまま足を放り出す。さらさらのシーツが、湿った肌に心地よい。



 ちょっと声が掠れているみたいだったのは、気のせいかな。夏風邪じゃないといいけれど、心配だ。


 深海に溺れるように、からだが沈んでく。



(ん……蜂蜜レモンが一匹、蜂蜜れもんが二匹、はちみつれもんがさんび……き)








 今朝のアラームは、規則正しいノックの音だった。


 満足に演奏できたのもあって、昨晩は多分……なんというか、そう。浮かれすぎていたのだ。


「ボンジョルノ、陽さん。朝から元気でいいですねえ」


 聖田きよだの出迎えに、陽はベッドから盛大に転がり落ちていた。



「そうそう! 陽さんにも、お三方からの連絡が来ていませんでしたか?」


「……あ、はい! ありましたよ! えーっとですね。早く休むようにっていうのと、あとはたしか……あのお姉さんが、もうちょっとで見つかりそうなんだって。」




 そういえば、と思う。お互いにおやすみなさいを言い合ったあと、聖田はどの辺りの部屋で眠ったのだろうか。小さな好奇心に突き動かされ、陽は尋ねてみることにした、が。


「ああ。昨晩は偶然空き室を見つけたものですから、そちらのほうに」


 聖田から返ってきた答えは、陽の想像を絶するものだった。


(へ、今なんて?)


 陽は頬をつねってみる。当たり前のように、現実世界だ。








「なんかものすごい物音が聞こえてきたと思ったら。やっぱり、あなたの部屋からだったんですね」


 陽は、御早うですと気怠げに挨拶してきた御代みよの顔を、まじまじと見つめる。


「なんですか、その目……お察しの通り、小生は裏ルートから潜入しましたので、独り寂しく一夜を明かしましたよ。ええ、そうですとも。カビ臭い物置き部屋でね! はいココ重要ですッ」


 ーーそうだった、彼らはあくまで招かれざる客だったのだ。昨日といい今日といい、どうして意識が向かなかったのだろう。


 相部屋うんぬんよりも先に、陽の部屋にみんな集まったほうが良かったのではないか。



 申し訳ございませんと、聖田はさして悪びれもしない風に頭を下げていた。


「だって、そう簡単にヒントを与えてしまってはつまらないでしょう? 特にあなたみたいな人種には、ね」


 あと、と聖田が付け足して言う。


「僕は上司からさっさと寝ろと言われたので、それに従ったまでですよ」


「あ〜、はいはい。そういうのいいですから、はっきり言ったらどうなんです。分かってますよ? 見下してるんですよね? いつだってそうだ。どう取り繕ったって小生は、所詮卑屈なはぐれもの……」


 陽はたまらず、御代に駆け寄ってゆく。なんだか、放って置けない危うさが感じられる人だ。



 だけど、御代は陽を突き放した。目が合っただけで、ため息までつかれてしまった。




「いやあの、近づかないでください。さっきから思ってましたけど、なんであなたバスローブのままなんですか? 見苦しいことこの上ないな……」


 なんだそんなことかと、陽は頬をかいた。


「えへへ、すみません……慌ててたものですから。それにですよ。このバスローブ、すっご〜く動きやすくて! 夏にぴったりだなあと思って、つい」


 真っ白のバスローブは、まるでお気に入りのブランケットみたいに肌触りが良かった。




「ついじゃないだろ。パジャマすら持ってきてない小生の気持ち考えたことあんのか。ないな? そういうことです。別にあなたが着たいなら一生着てればいいですけど、マイペースは後で必ず痛い目見るんですからね。ハッ、ドンマイ乙っす」


 陽は直感する。これ知ってる、と。


 案の定、隣で聖田が口を開きかけたのを、陽は躍起となって阻止するしか道はなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cid=288059" target="_blank">ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ