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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第4楽章 ザンザアラ・マスカレヱド編
56/94

48.身をやつすはお手のもの


 手紙には、以下のようなことが書かれてあった。



〜突然のご連絡となってしまったこと、どうかお許しくださいませ。


 さっそくですが、来たる8月15日木曜日、そして8月16日金曜日。ふた晩限りのマスカレードへ、貴女をご招待いたします。両日のイベント詳細は書面の都合上伏せさせていただきますが、兎にも角にも京都・アマリアス城にてお待ちしております。


 ※ドレスコードに明確な規定などはありませんが、入場時にヴェネチアンマスクを支給させていただくことがございますので、予めご了承ください〜


                                           と。





 テンプレートのようでいて奇抜な内容の文章に、陽は目を見張った。


「とんと呆れちまうだろ? 形式もマナーもまるでなってないんだからな」


 そう、ため息をついた恵業けいごう影助えいすけも乗っかる。


「しかし冗談にしてもタチが悪ィっスね。こんなゴミみてーな子供騙し、一体誰が信じるってンだ…….あ?」


 三人から、一斉に注目を浴びる。



 

ーーそういやお前って、ティッシュ配りのあんちゃんの話だろうが真剣に聞くようなタイプだもんな。そーそー。

しかも、絶対短時間で終わらせる気ねーヤツ(失笑)。



 詐欺師の人たちからしたら、陽みたいな子はいいカモになってしまいがちなんだそうだ。世の中そういうこともあるのか、これから気を付けていこうと関心を持って聞いていたら、せいぜい騙されんなよ、と吐き捨てられる。不本意なレッテルまで貼り付けられてしまって、はるはすごくいたたまれない思いでいた。


 たしかに影助たちの言う通り、ティッシュ配りのお兄さんお姉さんの話を素通りしていったことは、今まで一度もなかったけれど。それの何が悪いのか影助に理由を聞いてみたら、指を指して笑われた。





 そうして陽はそっぽを向いた。みんなからなじられて、実はちょっとだけ拗ねているのだ。



「うわッ、ンなキレんなって。ブサイクなハムスターみてェで面白いけど」


「やめてやれ影助……ふっ、ヨウが。ふふっ……可哀想だろっ」



 陽は、みんなの声が聞こえませんという体裁でいた。だって、さっき人の話を無視しろって言ってきたのはあっちの方なんだから。


 その場に居続けるのもどうかと思ったので、陽は失礼しますと訓練場を後にすることにした。



__________________________________________




「行ったか」


 その場に残ったものたちで、目配せし合う。


 影助は手紙の文面を読み直した。必死に几帳面を取り繕っているが、そこにはやはり、常に根底にあるであろう嫌味ったらしさが、インクとなって滲み出ているだけだった。


 朱華が以前、陽はザンザーラファミリーのボスの"タイプ"なんだとほざいていた。


 この手紙は、ザンザーラファミリーの仕掛けた罠と見て間違いない。

 アジトの居場所がバレた時点で、ヤツらはこちらの出方を窺って楽しんでいるのだ。おおかた、戦線布告というわけだろう。


 無論、いくら内定弟子とはいえど、非力な陽に単独行動を任せるわけにはいかなかった。稽古をつけてみて分かったが、陽は多分、人を殺せるようなタマじゃない。


 次のアクションはとっくに決まってる。


 やられる前に、やらなければ。


ーー代打として、誰が罠に嵌められてやるか。


「オレとセイコじゃ悪目立ちするし………いや違う、主にセイコがな。駿河にでも女装させるっつーのはどうだ」


「ええ。よりにもよってアイツですか? そりゃひでぇ話ですぜ、アンダーボスぅ〜」




__________________________________________






「……あのっ! ごめんなさい! 怒るつもりはなくて……やっぱり私が一番間違ってました!」


 陽は執務室の扉を、申し訳なさで勢いいっぱいに開けると、そこにはなぜか女の子が立っていた。

 スラリと背が高くて、完璧にスーツを着こなしているその女の子はーーもしや同級生のみっちゃんか。


 危うく久しぶりと声をかけてしまいそうになったが、いや、違う。みっちゃんはもう少し声が高かったはずだ。目の前の人物は、地声を悟られないよう、必死に裏声を使っているように感じる。


「ああヨウか。この前の手紙だが、あれ忘れていいぞ」


「ーーえへへへっ。前途洋々ですからね! 私が代わりに頑張りますよう〜! るんるん♪」


 みっちゃん、否ーー陽っぼい概念の何かが、こちらに全力でピースを向ける。


「おい駿河ァ、オレの足を引っ張らねえよう、死ぬ気でダンス覚えろよ」


 背後には、いつの間にか影助が回り込んでいた。顔を見れば、すごく、すごーくニヤついている。陽はたまらず、頭を抱え込んでしまう。


「って、そんなにいつもヨウヨウ言ってるんですか⁈ 私っ……!」


 己の普段の奇行(かも、しれない)に焦り出す陽を、影助はお腹を抱えながら死にそうなくらいに笑っていた。


 どうやら、可愛らしい顔立ちをしている駿河には、女装でさえもお手のものということらしかった。


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