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カルマファミリーのボスとして。

大明32年ーー。


 はじめて子どもを拾ったのは、まだまだ働きざかりの40代の頃だった。



 最初に、季節を売る仕事にせっせと励んでいた、孤独な少女を仲間に引き入れた。

 四年後、プロ顔負けと名高い不良少年との、勝ったら相手の言いなりになる勝負で白星をあげた。


 荒くれ者の2人は、主である恵業けいごうに不思議とよく懐いた。それには子ども好きの恵業もまんざらではなかったーーと。ここまでの流れは、自画自賛するわけじゃないがそれなりに完璧だったはずだ。



 だがしかし。恵業けいごうは頭を抱えていた。なんとセイコと影助は、気付かぬうちに目も当てられないほどの犬猿の仲になってしまっていたのだった。それもひとえに、恵業の寵愛をめぐって。特に、あれほど荒んだ目をした影助の豹変っぷりが、恵業は信じられなかった。なんて末恐ろしい。




何度も何度も、やつらの喧嘩の仲裁に入らされた。


ーーなんだ! 敵襲か⁈

ーー違う! 影助が!



ーーなんだ! 暴発か⁈

ーー違います! セイコが……


 もはやお約束。恒例行事。恵業は肩をすくめる。口喧嘩ではきまって、セイコが誇らしげな顔をしていた。いつからだったか、覚えたての"ネンコージョレツ"という単語をしきりに使うようになって。セイコはレスバが強かった。その強さといったら、あの影助が鼻をすすったほどだ。


 拾った自分をわざわざ棚に上げて言うことでもないような気がするが、毎度のごとく、やかましいったらありゃしない。それでも恵業は何故だか愛情が捨てきれず、2人のことを本当の子どものようにも思っていた。





 そんな日々を繰り返すうち、事件は起きた。まあ事件と言っても、恵業にとっては大したことじゃなかった。


 セイコのチョーカーがなくなったのだ。

 初任務の褒美として与えた、夜空を含んだようにまたたく、小ぶりなアメジスト付きの。セイコは三日三晩泣いていた。見かねた恵業が、また同じものを買ってやるからと慰めても、いっこうに頷く気配がない。セイコからすれば、相当ショッキングでーー下手したら殺人事件よりも重大な事件として捉えていたようだった。


 頼れるアンダーボスはいずこにと思ったが、影助はその時ちょうど、セイコとの大喧嘩が原因で短期家出をしていたのだった。どうしたもんかと、頭を抱える。結局振り出しに戻る。


「や、やだぁ……ヒッ……ク。だってざあ! あれ。思い、出じゃん。あ、アタシと、恵ちゃんにしかないーー」


 セイコの一途な想いを聞き、恵業は己の無神経さを恥ずべきものとみなした。もう、顔から火が出そうだった。かける言葉を懸命に探しているうち、執務室の扉が無機質に開く。アンダーボスが、お帰りになったようだった。影助は、セイコに大股で近づく。よく注意して見てみると、顔や腕に擦り傷ができていた。影助はン、とぶっきらぼうに、包んだ右手を差し出した。セイコが息を呑む。


「ゴロツキどもが売り飛ばそうとしてた。コレ、お前ンだろ」


「あ、ありがと。……影ちゃん!」 


 セイコが、傷だらけの影助に抱き着く。するとどうだろう。影助はまんざらでもなさそうにーーな、わけはなく。ある意味期待通りというか、期待外れというか。影助はセイコを引き剥がすことにのみ全身全霊をかけていた。


「キ、メェ……ッ! 寄んなボケ! オレはただ、ボスの所有物を守ったまでだ」



 "お前の者は俺の物"主義だとでも思われているのだろうか。恵業はあられもない偏見に、軽く衝撃を受けた。影助は、左耳だけに付けられたピアスにせわしなく触れている。あれはたしか、実母の形見の半分だと言っていた。


「……オ、レだって、これが失くなっちまうのは、なんか……だし」


 ぼそぼそ。恵業にしか聴こえない声量で、そう影助は呟く。そっぽを向いて伏せられたまつ毛には、まだまだあどけなさが残っていた。


 珍しく、窓から虹が架かっているのが見えた。





 赤ら顔に、ヘビースモーカー。


「セイコ、それから影助よ……酒・タバコは20歳からだ」


「えーイイじゃあーん! 四捨五入したら20歳なんだし?」


「そうですよ。ここでやめりゃァ、マフィアが廃るってモンです」


 仲がよろしくないはずの2人が、ここぞとばかりに結託している。ついに、恵業の堪忍袋の緒は切れた。


「……いい加減にしろーっ! 重いんだよ、この! 育ち盛りめ‼︎」


 いつ終わるとも知れない、成長期の2人を頑張って下に降ろす。


 せっかく、耳寄りの情報を手に入れていたというのに。初めての幹部会にこの話題を出せば、格好良く決まると思っていた。雰囲気は台無しだが気を取り直し、半笑いの生意気2人組に話し始める。


 ーーどうやら最近、巷じゃ"ジパングの人さらい"が暗躍しているそうだ。なんでも、ハーメルンの笛吹きなんたらよろしく、笛は吹かないらしいが。



「仕事だ。さ、行くぞ。俺の狛犬たち」



 恵業は2匹を引き連れてゆく。出がけに木の葉が、階段を駆け上がっていった。


これにて、過去編Memoriaは終了です!


次回からは……!

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