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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第3楽章 座敷わらしとお遊戯編
34/94

31.オママゴト②



 同行者二名が"かじの"に興じているさなか影助はというと、カヨに付き合ってもいられずフルシカトを決め込んでいた。


チンチロ、ババ抜き、こま回し……。


 やはり、所詮はガキのままごとなのだ。おまけに自称ディーラーのカヨがやっているのは、ディーラーなんて高尚なものなどではなく、あくまで対戦相手である。


 どうやらこの"かじの"では、三連戦、五連戦、七連戦の中から客が好きなコースを選べるらしかった。


「続き、こいこいするっ?」


 顎に手をやり、必死に悩んでいるのは絶賛五連勝中の恵業けいごう。このように、客のセンスしだいでは途中で上のコースに挑戦することもあるのだという。


(こんな、子どもだましにもなんねーモンに村のヤツらは明け暮れてるっつーのか?)


 だとすれば、相当な暇人どもなのだろう。影助はいっそ眠ってしまおうかと考えた。





「……きゃーっ! 恵ちゃん! 同じ手に騙されないでって、アタシさっきも言った‼︎」


意識を失いかけてきた頃、耳障りな声に入眠を阻止された。セイコだ。


「このままじゃアタシたち一文なしになっちゃうよ? 身包み剥がされちゃうよ⁈」


 見れば、七連勝を目指した恵業けいごうが、すでにカヨに負かされそうになっているではないか。それも、よりにもよってババ抜きで。セイコが懇願するようにこちらを凝視してきた。


「ねえカヨちゃん? これって選手交代はできないのかな?」


嫌な予感がする。


「んー……ホントはダメだけど、今回だけはいいよお! あのおにーちゃんでいいよね?」


案の定、こちらに指が差された。


「それじゃ、びぎなーずらっく発動〜っ!」

 

 影助はうんざりしつつも、なかば諦めたようにカヨの前にどかりと座った。




「運だかなんだか知らねーが、この君守影助、ボスの顔に泥を塗るわけにはいかねェからな」


「よっ! 我らカルマのNo.2〜!」


「いつもごめんな影助ーーボスとして面目ねえが、よろしく頼んだぞ」


(調子がいいことこの上ねー……)






ゲームが滞りなく始まったのはいいものの。 

 

 口紅で塗りたくられたような爪を見せつけられた後、影助のスペードのJが引き抜かれた。ワンペア揃わせてしまったようだった。カヨが感嘆の声を上げる。こちらの陣営は悲嘆。影助は負けじとカヨの手札から、真ん中のカードを引っこ抜く。ダイヤの2だった。


(どうしてこうも上がれない……?)



 相手は子ども。ちょっとした工夫さえしておけば楽勝だと思っていたのだが。影助はこれまで、真ん中のカードを上げたり、引かせたい端のカードをカヨからみて一番手前にしておいたり、さらには引かせたい端のカードを一枚だけ少し離したりと、勝つためにそれはそれはさまざまな方法を試してきた。


たかがババ抜き、されどババ抜き。


 賭け事でなければ、この時点で影助はちゃぶ台返しを披露していたことだったろうに。


(つか"身包み剥がされる"ほどやり込むンじゃねェよ)


 どうせいつものように、セイコがボスに甘言でも囁いたに違いない。騙される方が悪い? いいや、騙す方が100%悪いね。


影助は常に、ボス至上主義を崩さなかった。


「あともう少しで、カヨが上がっちゃうよ!」


 また、カヨが真っ赤な爪を見せびらかすように、わざとらしく影助のカードに滑り込ませた。何気ない仕草のはずなのに、さっきから何か引っかかる。



ーーそうだ。この特に気にもならないような仕草の違和感には、神経質な影助だけが気づくことができたのだ。

 影助はハートの10を引き抜かれるコンマ1秒の差で、カヨの右手を掴んだ。

恵業もセイコも欺いた、小さな違和感。その正体はーー


「いたあい! おにーちゃん、なにすーー」「見せろ」


 セイコが後ろで何か言いかけたが、恵業はそれを手で制していた。


「右手、開いてみせろ」


 カヨが嫌とかやめてとか喚いているのにも一切構わず、影助はカヨの握り拳を暴く。固唾を呑む音が、今は耳に心地いい。


「……やっぱりな。お前、イカサマしてたンじゃねーか」


 カヨの人差し指には、遠くから見たらたしかに分からないであろう、小さな鏡が付いていた。



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