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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第2楽章 花一倶楽部編
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26.宅飲み女子会


 セイコを探している途中、通りがかった信濃(しなの)に彼女の部屋がどこにあるのか聞いてみた。聞けば、セイコの部屋は恵業(けいごう)たちと同じく最上階にあるのだという。



(いざ!)


 未開の地に一歩足を踏み入れると、こっちにおいでと手招きするセイコが見えた。


「あ、陽(ヨウ)ちゃんきたきたー! 聖(きよ)ちゃん、伝言しっかり伝えててくれたみたいで良かった」


 自室とは比べ物にならないほど広い空間に、陽(はる)は驚きを隠せないでいた。


 『アリア堂』と刻印が入ったケーキの箱。無数に並べ立てられたワイン。

 どうやら陽(はる)が予想していたお手伝いとは少し違ったようだ。


「フッフッフ、びっくりしちゃった?」


 今日お呼びしたのは他でもございません、と言いたげな様子のセイコ。


「せっかく女子がいるってのに、呑み明かさない訳にはいかないってね!」


 指を鳴らしたセイコがそう言うと、陽(はる)の胸はみるみる高揚感でいっぱいになる。


「花一倶楽部の魔の手からの帰還を祝して〜」


(お疲れ様パーティー!)


「かんぱ〜い!」

 2人は無邪気に口を揃えた。






「デデンッ! セイコちゃんターイム‼︎」


 セイコは司令官のように両手を組みながら、もったいぶって話し始める。


「それでは陽(ヨウ)さん、単刀直入に聞きましょう。……ズバリ! あなたが理想とする恋愛はー⁈」


 笑い上戸のセイコはノリノリで、今にも踊り出してしまいそうな勢いだった。


 初めのほうはちびちびワインを呑んでいた陽(はる)も、セイコに倣いいつの間にかぐびぐび呑めるようになっていた。


一拍置いて、ぷはっと快い音色が奏でられる。


「私……初めて付き合った人と結婚したくて」


 セイコは陽(はる)に注目する。

 やけに目尻が下がっているように見えるのは、陽(はる)の気のせいなのかそうじゃないのか。


「やっぱり"運命の人"とか信じちゃうんですよね……」


 だからーー


(もし運命の人に出会えるなら、その人と添い遂げたい)


 陽(はる)は恥ずかしさのあまり、だからの先が言えなくなってしまう。

 セイコはまぶしー‼︎ と膝をバンバン叩く。豪快なその姿はまるで、逸話に出てくる織田信長のようだった。


「ピュアっこヨウちゃんにはもっと注いじゃいまーすっ!」


 セイコから、次へ次へとワインを注がれる。

 陽(はる)は出された分をぐいっと呑んで、ぐいっと呑んで……







「やべ、これってまさかアルハラってヤツ⁈ まずい! 影(えい)ちゃんにチクられちゃうよー!」




__________________________________________



「あ、聖(きよ)ちゃん、ちょーどいいところに!」



 聖田(きよだ)が恵業(けいごう)へ事後報告をしにいこうと最上階へ赴いた時、唐突にセイコが部屋から顔を覗かせる。


 するとセイコから、一緒に晩酌していた陽(はる)を部屋まで連れていくよう懇願された。


 セイコが介抱すればいいだけの話だが、聖田(きよだ)がその点を指摘すると、セイコは屋敷内でも外泊は禁止されてる、だのアタシもう立てなあい、だのと喚いていた。前者はまだ良しとして、後者は完全なる自己責任だと思うのだが。


「見ての通り、陽(ヨウ)ちゃん完全に出来あがっちゃってるから」


「いや! ここにとまるの。もっとのむー!」


 聖田(きよだ)が部屋の奥を見てみると、なんとへべれけ状態の陽(はる)がいるではないか。


(なるほど下戸ですか)


 酔い潰れた陽(はる)は初めて見たが、なかなかシュールな光景である。



「陽(はる)さん。ワガママ言うんじゃありません」


 両手を腰に陽(はる)を叱りつける姿は、まるでーー


「あは、ウケる。聖(きよ)ちゃんさー、陽(ヨウ)ちゃんのママみたいになってるけどそれでいいのお?」



 漢気見せろー!とセイコから野次を飛ばされる。


 挑発に乗せられるのも癪だったが、聖田(きよだ)は反射的に陽(はる)をお姫様抱っこしていた。


「ひゅー! ……お互い秘密にしとこうね。じゃ、あとはごゆっくりー」





「やれやれ。これだから酔っ払いは」


 ドアを背に非常に厄介だ、と聖田(きよだ)はため息を吐きつつ思う。





「くるま、はやい」




 陽(はる)の頬は紅潮し、目はとろんとしていた。ちょっと指先が触れただけで、泡沫のごとく消えてしまいそうだ。




『その内何かお礼させてください』


 ーーお礼。せっかくだ。それなら今もらってしまおうかと、聖田(きよだ)はほのかに熱を孕んだ唇をなぞる。




「おぼろしゃんはいいこれしゅねえ」


よしよーし、と頭を撫でられた。

 陽(はる)に何をされたのか理解が及ばず、聖田(きよだ)は数秒間フリーズしてしまう。


 ーーいいこ、良い子?


 自分の頬が緩むのを確認した途端、激しい耳鳴りに襲われる。




「は、は……貴女は相当、僕を誑かすのがお好きなようだ」


 そういうところが。




 結局、陽(はる)は一度大きく深呼吸したと思うと、そのまま死んだように眠ってしまった。




 陽(はる)の部屋へ到着した聖田(きよだ)は何事もなかったかのように、陽(はる)を優しくベッドに横たわらせた。





*


 翌日、駿河(するが)から配膳当番の仕事を奪われることになるのを、この時の陽(はる)はまだ知らない。


これにて第2楽章 花一倶楽部編完結です!

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