表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第2楽章 花一倶楽部編
29/94

26.宅飲み女子会


 セイコを探している途中、通りがかった信濃しなのに彼女の部屋がどこにあるのか聞いてみた。聞けば、セイコの部屋は恵業けいごうたちと同じく最上階にあるのだという。



(いざ!)


 未開の地に一歩足を踏み入れると、こっちにおいでと手招きするセイコが見えた。


「あ、ヨウちゃんきたきたー! きよちゃん、伝言しっかり伝えててくれたみたいで良かった」


 自室とは比べ物にならないほど広い空間に、はるは驚きを隠せないでいた。


 『アリア堂』と刻印が入ったケーキの箱。無数に並べ立てられたワイン。

 どうやらはるが予想していたお手伝いとは少し違ったようだ。


「フッフッフ、びっくりしちゃった?」


 今日お呼びしたのは他でもございません、と言いたげな様子のセイコ。


「せっかく女子がいるってのに、呑み明かさない訳にはいかないってね!」


 指を鳴らしたセイコがそう言うと、はるの胸はみるみる高揚感でいっぱいになる。


「花一倶楽部の魔の手からの帰還を祝して〜」


(お疲れ様パーティー!)


「かんぱ〜い!」

 2人は無邪気に口を揃えた。






「デデンッ! セイコちゃんターイム‼︎」


 セイコは司令官のように両手を組みながら、もったいぶって話し始める。


「それではヨウさん、単刀直入に聞きましょう。……ズバリ! あなたが理想とする恋愛はー⁈」


 笑い上戸のセイコはノリノリで、今にも踊り出してしまいそうな勢いだった。


 初めのほうはちびちびワインを呑んでいたはるも、セイコに倣いいつの間にかぐびぐび呑めるようになっていた。


一拍置いて、ぷはっと快い音色が奏でられる。


「私……初めて付き合った人と結婚したくて」


 セイコははるに注目する。

 やけに目尻が下がっているように見えるのは、はるの気のせいなのかそうじゃないのか。


「やっぱり"運命の人"とか信じちゃうんですよね……」


 だからーー


(もし運命の人に出会えるなら、その人と添い遂げたい)


 はるは恥ずかしさのあまり、だからの先が言えなくなってしまう。

 セイコはまぶしー‼︎ と膝をバンバン叩く。豪快なその姿はまるで、逸話に出てくる織田信長のようだった。


「ピュアっこヨウちゃんにはもっと注いじゃいまーすっ!」


 セイコから、次へ次へとワインを注がれる。

 はるは出された分をぐいっと呑んで、ぐいっと呑んで……







「やべ、これってまさかアルハラってヤツ⁈ まずい! えいちゃんにチクられちゃうよー!」




__________________________________________



「あ、きよちゃん、ちょーどいいところに!」



 聖田きよだ恵業けいごうへ事後報告をしにいこうと最上階へ赴いた時、唐突にセイコが部屋から顔を覗かせる。


 するとセイコから、一緒に晩酌していたはるを部屋まで連れていくよう懇願された。


 セイコが介抱すればいいだけの話だが、聖田きよだがその点を指摘すると、セイコは屋敷内でも外泊は禁止されてる、だのアタシもう立てなあい、だのと喚いていた。前者はまだ良しとして、後者は完全なる自己責任だと思うのだが。


「見ての通り、ヨウちゃん完全に出来あがっちゃってるから」


「いや! ここにとまるの。もっとのむー!」


 聖田きよだが部屋の奥を見てみると、なんとへべれけ状態のはるがいるではないか。


(なるほど下戸ですか)


 酔い潰れたはるは初めて見たが、なかなかシュールな光景である。



はるさん。ワガママ言うんじゃありません」


 両手を腰にはるを叱りつける姿は、まるでーー


「あは、ウケる。きよちゃんさー、ヨウちゃんのママみたいになってるけどそれでいいのお?」



 漢気見せろー!とセイコから野次を飛ばされる。


 挑発に乗せられるのも癪だったが、聖田きよだは反射的にはるをお姫様抱っこしていた。


「ひゅー! ……お互い秘密にしとこうね。じゃ、あとはごゆっくりー」





「やれやれ。これだから酔っ払いは」


 ドアを背に非常に厄介だ、と聖田きよだはため息を吐きつつ思う。





「くるま、はやい」




 はるの頬は紅潮し、目はとろんとしていた。ちょっと指先が触れただけで、泡沫のごとく消えてしまいそうだ。




『その内何かお礼させてください』


 ーーお礼。せっかくだ。それなら今もらってしまおうかと、聖田きよだはほのかに熱を孕んだ唇をなぞる。




「おぼろしゃんはいいこれしゅねえ」


よしよーし、と頭を撫でられた。

 はるに何をされたのか理解が及ばず、聖田きよだは数秒間フリーズしてしまう。


 ーーいいこ、良い子?


 自分の頬が緩むのを確認した途端、激しい耳鳴りに襲われる。




「は、は……貴女は相当、僕を誑かすのがお好きなようだ」


 そういうところが。




 結局、はるは一度大きく深呼吸したと思うと、そのまま死んだように眠ってしまった。




 はるの部屋へ到着した聖田きよだは何事もなかったかのように、はるを優しくベッドに横たわらせた。






 翌日、駿河するがから配膳当番の仕事を奪われることになるのを、この時のはるはまだ知らない。


これにて第2楽章 花一倶楽部編完結です!

ブクマや評価等していただけますと励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cid=288059" target="_blank">ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ