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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第2楽章 花一倶楽部編
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23.ヒーローは凄腕のスナイパー

「ああん? 誰だお前はーー」


「わざわざここに来たんだ、分かってんだろうなァ。……まあ肉付きはそこそこ悪くねェようだが」


ーーお前もカルマの使い、いや、こんな小娘が?




 隠し扉はやはり、花一倶楽部の秘密基地アジトに繋がっていたようだ。品定めするような花一と視線が絡み合い、はるは少しニヤッと笑った。





「私、凄腕のスナイパーなんですっ!」



 花一は嘲るように、じろりとはるを見た。


「はっ! お前みたいなのがか? そんな冗談、イマドキ猿でも通じねェよ」


「ーーところがどっこい。分かりませんよお!」


「じゃあどこにあるんだよ銃は」



 はるを見くびっているのだろうか、花一はその場から一歩も動こうとしない。千載一遇のチャンスを逃すまいと、はるは覚悟を決めて全速力で走り出し、後ろ手に隠していた例のブツの正体を、自信満々に明かしてみせる。



(銃は……このコ!)





 花一の耳元で思いっきり響かせたのは、fffフォルティッシッシモのロングトーン。いい目くらましならぬ、いい耳くらましだ。


「ぐわあっ‼︎」

 

 思いもよらぬはるの猛攻に花一は耳を押さえ、拘束されていたセイコが解放される。

 

 仕方がなかったとはいえ、花一の鼓膜を破ってしまったことに対して、はるは何度も心中で謝罪した。



「さ、セイコさん。今のうちに行きましょう‼︎」


 はるは迷わずセイコに手を差し伸べる。


「ヒー、ロー……?」


 瞳はふるふると揺れていた。時間もないので、はるは今度こそ強引にセイコの手を引いて隠し扉を目指す。








 はるは走りにくいかと思い、最初にセイコの拘束具を外してあげた。



「ありがとう、ヨウちゃん。ーーさっきの、銃っていうか……どっちかっていうと大砲っぽくなかった?」


 はるの"トランペット砲"を目の当たりにしたセイコに、クスクスと笑われてしまう。



 はるは顔から火が出る思いがした。トランペットを利用した耳くらまし作戦は、セイコ救出に向かう短時間で思いついたものだった。

 小走りになりながら、セイコはそわそわした様子で告げる。


「アタシね、今までヨウちゃんのこと」


「闇バイト感覚でやってるようなーーもっとこう、フツーの子だと思ってたの」


「ウチってほら……お給料悪くないじゃない?」


ーーもしヨウちゃんがお金目当てで来てるんだったら


「アタシの大好きなカルマファミリーが汚されるような気がして、嫌だったの」



 肩代わりした借金返済を目的とし、カルマファミリーに与するはる。セイコの言い分は強ち間違いではない。

 しかし、今はそんなことよりもーー。


「……セイコさん、どうしましょう。暗すぎて出口がどこだか分からなくなってしまいました」


「は」


「……わーん! ごめんなさい! とにかく明るい方へって必死だったので! その後のことなんてなんにも考えてなかった‼︎」


 アニメや漫画で見るように、来た道にパンくずでもまいておけば良かった、とはるは激しく後悔する。


「分かったから静かに!」


 はるは鬼気迫る表情のセイコに、両手で口を覆われる。


(もがっ。ふぁい、ふぁふぁひはひは)


「花一のジジイに気づかれちゃったら、せっかくのヨウちゃんの勇姿がムダになっちゃうでしょうが!」


ーーどこだあ、ブッ殺してやる


「ほらもう! 言ったそばから……! いい? アタシが囮になるから、その隙に」


「嫌です! セイコさんを置いていけない!」


 はるは食い気味に即答した。

 囮になる、させない論争を繰り広げているうちに、ついに二人は花一に追いつかれてしまう。


「捕まえたーぞお! コイツめ……! へへっ。殺―すだけじゃあ、飽き足りん。死ぬよりツラい目にぃ合わせてやるう!」


 はるは子猫のごとく、花一に首根っこを掴まれた。


「お、降ろしてください……っ!」


(そうだった。鼓膜破っちゃったから、耳が聞こえにくくなってるんだった)


(他でもない、私のせいで)


 これが自業自得というやつか、とはるは敵を前にひとりごちそうになる。


 二度も同じ手は使えない。どうやって事態を切り抜けようかと考えた、その瞬間。


ヨウちゃんっ! 後ろ……!」



ーーゴキゴキゴキ、バキッ


「いッぎゃああああああああ! お、おおお、おでの骨がーー」


 痛みに耐えられず、床にゴロゴロと転がる花一。


 どうやら何者かによって、骨を外されてしまったかのようだった。




「ふう、間に合って良かった。大丈夫ですか? はるさん」


 そう、地上から舞い降りたーー聖田朧ディアボロによって。







 

 助けにきてくれた聖田きよだ影助えいすけ恵業けいごうとも合流し、今は念のため首に痣などができていないか聖田きよだに診てもらっていたはる



『残りのヤツらの捕縛、こっちもやっと終わりやした! 後処理ができ次第アンダーボスたちンとこ、向かいます!』


「いや、いい。先に屋敷戻っとけ。ーーおう、ンじゃまた後で。」


 表情一つ変えずトランシーバーをカウンターに置いた影助えいすけに、はるはそこに直れと告げられる。


 影助えいすけの意図は分からずも、はるは言われた通り素直に正座することにした。





「テメェ、自分がどんだけバカなことしたか、分かってねーみたいだな」


 はるはちょっとギクっとなる。もしかして、花一の鼓膜を破ったのがいけなかったんだろうか。いや、もちろんいけないが。


「……まずは報連相を徹底しやがれ! ここに花一がいるってこと、敵に教えられるってどーいうことだ!」


(……ん⁈)


 はるは真面目に話を聞きつつも、影助えいすけの怒っている内容の八割くらいは理解できなかった。


「あ、あの〜。ほうれん草ってなんですか? 野菜?」


 はるは激しく叱責する影助えいすけに申し訳ないと思いつつも、おずおずと手を挙げた。


「……チッ、これで前の職場がどんだけクソだったか露呈されたな」



「報告・連絡・相談のことですよ、陽さん。」


 戸惑うはるに、聖田きよだがこっそり教えてくれた。


「あっ、なるほど! それが、なんとトランシーバーをなくしてしまったみたいでーー」


 影助えいすけは信じられないという風に目を見開いてカウンターを叩く。


「ああ⁈ もういっぺん言ってみろォ! 何をなくしただって⁈」


「ト、トランシーバー。です。」


はるの声と背中は、だんだん小さくなっていく。


「まあまあそう怒ってやるな、影助。」


 花一の腕をきつく縛りながら、恵業けいごう影助えいすけをなだめる。


「そーだよえいちゃん! アタシなんて、ヨウちゃんが助けにきてくれなかったら今頃あのダルマジジイの腕の中で眠ってたんだから」




「うん。お怪我もなくてたいへんよろしいーーまずは頑張ったはるさんを、みんなで労ってあげるべきではないでしょうか」



「……っ新人のくせに、出過ぎた真似しやがって」


じーっ


「だーっ! ウゼェ‼︎ よく一人で耐え抜いたな()()()()!」


 


 他のみんなにくすくす笑われて、プライドが許さなかったのだろうか。影助えいすけはるの額に容赦のないデコピンをした。



「ダメじゃないですか君守きみもりさん、そんなに乱暴しちゃ。ーーたくさん頑張って偉かったですねえ、はるさん」


 はるは額に強い痛みを覚えたが、その後にくるみんなからの頭なでなで攻撃に耐える方がある意味辛かった。


(あ、でも、なんだろうこの感じ……)


 懐かしい空気にはるはなんだか絆されて、ちょっとだけ出てきた涙を必死にこすった。



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