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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第2楽章 花一倶楽部編
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22.悪役令嬢・文堂 セイコ


 迫りくる影に気づき、顔を上げてみると、そこにはボロボロの白衣を着た男と、カバーをかけられた"何か"が立っていた。白衣の男は咳払いをしながら、影助えいすけたちの方に歩み寄ってきた。


「やあカルマファミリーの諸君! 花一倶楽部を嗅ぎ回っていたというのは君たちかね。」


 白衣の男が自信満々にカバーを取り外す。


「このボク、福池ふくち ひろしがお見せするのはーー」





ーーダァン! ダァンッ! 


 影助えいすけは間髪入れず銃を撃った。




ピー、ピー……ガガガガ、バタン



 影助えいすけの狙った"何か"は、最後に激しく動いたかと思うと、それきり動かなくなった。

 



「コイツは生きモンじゃねーからな。もちろんノーカンですよね? ボス」


「お前、ずうっとカリカリしてたもんなあ。そろそろ"本物"の射的がやりたくなっちまったんだろ」

 

 恵業けいごうはそれなら仕方ねえなあ、と肩をすくめていた。


「まーオレが仕留めたのは"偽物"だったみたいですけどね」


(……しかも死ぬほど要らねェ景品のな)





「……むう⁈ 貴様、ウチの超高性能人型ロボットになんてことを!」


 福池ふくち影助えいすけに、恨みのこもったような眼差しを向けた。


「あー、そーいうのいいからよォ」





「他の仲間はどこにいる?」


 機嫌の悪い影助えいすけの代わりに、恵業けいごうが冷静にボスや幹部の所在・そして組織の真の目的を尋ねた。


「い、言うわけがないだろう! ボクを馬鹿にしているのか!」


「それとも、テメェもコイツみたいになりてェか? え?」


 影助えいすけはロボットの残骸を指差し、瞳孔をかっ開いて福池ふくちに凄む。



 催眠術機能が内蔵されたロボットを使って、誘拐を簡略化していたこと。


 マフィアと正面からぶつかる力など持ち合わせていなかったので、代わりにイタリア国籍の女に怒りの矛先を向けていたこと。


 聞いてもいない内部の事情まで、福池ふくちは洗いざらい話し始めた。





 

「少し疑問があるのだが……君たちはなぜ、復権派でありながらマフィアを自称するんだ」


「……初対面のマッドジジイにそこまで教えてやる義理はねェがーー強いて言うなら、この世は矛盾で満ち溢れてるくらいがちょうどいいってこったな」

 

 影助えいすけは腕を組みながら適当に答える。

 

「ふふ、格好つけちゃって。君守きみもりさんたちはただ、普通の"自警団"を名乗りたくなかっただけでしょう?」


「さてどうだかな」


 聖田きよだは一体どこまでカルマファミリーのことを知っていると言うのだろう。どんな理由であれ、気色悪いものは気色悪い。影助えいすけはその場に唾を吐きつけた。








「ボクたちの野望も、ここで潰えるのか。じんクンーー」


 無念そうな福池ふくちをよそに、影助えいすけたちは花一倶楽部の会長である花一はないち じんが向かったというバーへ急いで向かった。


はるさん、不安で泣いていないといいんですがーーああ心配です」




(……アイツから連絡は来てないし、まあセイコがいりゃとりあえずは大丈夫だろ)



__________________________________________





「この花一はないち (じん)に奉仕できること、光栄に思うがいい。女ァ」



 セイコは今、花一相手に膝枕をしてあげている。いきなり地下に連れて来られたたと思えばこれだ。セイコとしては非常に屈辱的だった。



「じゃあ、こんなに尽くしてあげた代わりに一個だけ質問ね。ーーどうしてアタシをここに連れてきたの? 教えてくれてもいいじゃない。ね、かーいちょ♡」



 セイコは花一の首に手を回し、耳をくすぐるような甘い声で囁いた。

 弱さなんて見せたらおしまいだ。セイコは無理矢理にでも笑顔を作ってみせる。


「……ああ教えてやるさ。ーーお前の全部と引き換えになァ‼︎」



 研ぎ澄まされた反射神経。服に手を伸ばされかけたセイコは宙高く舞い上がり、花一から瞬時に距離を取った。


「悪いけどアタシ、イイ男としか寝ない主義なの」



「ハッハア! 大根演技したって無駄だぜ? ツラは割れてんだ。ーー文堂ふどう セイコ。お前はカルマの使いだな?」


 どうやらセイコをイタリア人女性と見間違えたわけではなさそうだ。




「……あーあ。最近のジジイときたら。やっぱりけいちゃんとはぜーんぜん違う」


(こっちにだって、選ぶ権利くらいある)


「アタシのお眼鏡にかなわないヤツなんてーー寝首、掻かれちゃえばいーんだ!」



 セイコは握りしめていた愛車の鍵を花一目がけて突き刺そうとする。いつもの武器がないので仕方がない。


(視力さえ、奪えればーー!)


 しかし当然のように花一に攻撃をかわされてしまう。向こうよりリーチが短い分、こちらがどんなに頑張っても花一の屈強な体からしたら赤子のようなもの。


♪勝って嬉しい 花いちもんめ

♪あのこがほしい セイコちゃんがほしい


 セイコはすぐに羽交い締めにされてしまった。






 花一はいわゆる見掛け倒しの男だと思っていたが、実際にやり合ってみると、見た目通りーーもしくはそれ以上の強さを持っていることが分かった。ゆえに、セイコの目にする"よくいる"タイプの男とは一線を画していたのだった。



 ご丁寧に、拘束具として手錠まで用意されている。



 バー店内に形ばかりの仕掛けは施してきたが、あれにまさかはるが気づくとは思えない。花一の手の内で、観念したように目を瞑ったその時だった。





ーーぎし、ぎし

と、誰かの足音が、こちらに着実に向かってくる。


(まさか……!)




『セイコさん、シーッ』


 小声になりながらウィンク(失敗しているが)をかますはるから、静かにというジェスチャーが向けられた。




ヨウちゃん一人でーー!)



「スーッ……初めまして! 私の名前は日楽あきら はる! えっと、なんか強そうなそこのあなた! 今すぐセイコさんを自由にしてくれないでしょうか!」



 正義の味方のように口上を述べるはる。セイコは呆気にとられてしまう。


ーーセイコさん、シーッ!


(さっきの、さっきの意味あったーーーーーっ⁈)


 関西人よろしく、心の中で盛大にツッコんだ。


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