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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第2楽章 花一倶楽部編
24/94

21.捜索、それから秘密の扉。



 カウンターの陰も、お手洗いも、ロッカールームも。


 捜せるところは全部捜したが、セイコはいなかった。本当にどこにも。


買い出しに行ったのかと思ったが、まだバーの営業時間内だったし、どうしてもと言うならはるに店番をさせるはずだ。そうでないにしても、せめてメモくらいは置いていくだろう。



ーーあの時、強引にでも先に休んでもらっていれば



 はるは自責の念に駆られカウンターに突っ伏するが、凹凸の触感になんとなく違和感を覚えた。


(え、くぼみ⁇ こんなところにあったっけ)


金属の引っ掻き傷か何かだろうか。カウンターのへりには"カゲマ"と彫られていた。

はるははたと気づく。


「これは……もしかしてセイコさんのメッセージ⁈」


"カゲマ"という響きに思い当たる節はない。が、たしか同じビルの二階にスナックの『影山』ならあったはずだ。






 一縷の望みをかけて、はるはそそくさと階段を駆け上がった。


 まだ明かりの点いているスナックの扉を、小さくノックする。薄暗い場所にいた分、店内の光が眩しく感じられる。



「夜分遅くに申し訳ございません! お尋ねしたいことがありまして……」


 眠そうにテーブルを拭いていたママらしき女性は目を擦るのに一生懸命で、はるをちらりともみようとしない。


「はい。空いているお席にどう、ぞ?」



 しかしスナックのママは、はるの神妙な面持ちを見て、やっと何かを悟ってくれたようだ。


「ーーって、お客さんじゃなさそうねえ」


 幸い他のお客さんはいなかったので、はるはこれなら気兼ねなく話ができそうだ、と安堵した。







「……残念だけど、そんなコは見かけてないわね。お嬢ちゃん」


 スナックのママに事情を説明したはるは、他に手がかりとなるようなセイコの特徴はないかと頭を振り絞る。


「ええっとすごく美人で、名前はふどっーー」

 

 はるは言いかけたところで、セイコだってカルマファミリーの一員なのだということを思い出した。情報が外部に漏れるのを防ぐため、それ以上は何も聞かなかった。




「まあいいわ。こっちも何か分かったら下に伝えに行くから……シャンパン一杯くらいは呑んでいったら?」


 あまりお店に迷惑をかけないよう、急いでお暇したいところだったがママに引き留められてしまう。しかしはるはるで、人の好意を無下にすることなんてできなかった。




 結局、シャンパン代として700ラリイ払わせられたはる

ーー夜逃げじゃないといいわね、と背後でぼそっと呟かれた気がしたが、嫌な予感を振り切るようにしてはるは店を後にした。





 シャンパンのせいではるは若干火照りながら、誰もいないバーに帰宅する。




ーー異変があればすぐ僕のトランシーバーに連絡を。


「そうだ! おぼろさんたちに連絡!」


唯一の救い。

ぽんと手を打ち、はるはポケットを漁る。何度も、漁る。


(ウソでしょ……ない。私のトランシーバー)


 出発したときは、たしかにあったのに。

 

 夜の歌舞伎町が混み合っていたのは否めないが、あの雑踏のどこかにトランシーバーを落としてきてしまったとでもいうのだろうか。


(やっぱり私一人じゃダメなの……? もういっそ、路地裏まで走って助けを呼びに行ったほうがいいのかな)



 葛藤しながら歩き回っていると、何かにつまずいてドサッと派手に転んでしまう。



「わうっ、あいったた……ん? コレってーー」



 はるが足を引っかけてしまった場所は、演奏のステージとして使った小上がりだったが、よく観察してみると()()()になっている。


 不審に思ったはるは、そこそこ重そうなその台をどかしてみた。




「あ、あった!!!」



 はるは即座に、実家の床に付いていた"隠し扉"の存在を思い出した。

 幼い頃は内部に秘密基地でもあるんじゃないかと期待したものだが、実際は洗剤やら非常食やらが乱雑に詰め込まれていて、幻滅してしまったのがひどく懐かしい。



(子どもの頃の私、よく聞いて)


 確信めいたはるは、手慣れた様子で"隠し扉"の蓋を上げる。



「君の勘は、正しかったみたいだよっ!」



 

 (トランシーバーはなくしちゃったけど、トランペットならあるんだから!)


 はるは振り返ることもせず、意気揚々と地下に続く階段を下っていった。




__________________________________________




 一か八かの暗号に気づいてくれるのは、ひょっとしたら応援に来た影助えいすけたちかもしれない。でもその頃には、セイコはもう。



(やっぱり、あのコにちょっとでも期待なんてしたアタシがーー)


ドサっ


 上の方から、誰かのつまずいたような音がこだました。


ヨウ、ちゃん……⁈」


 お願いだから早く気づいてと、セイコは地下から必死に祈るばかりだった。


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