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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第2楽章 花一倶楽部編
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20.クイーンの消失


 バーが繁盛する時間はとうに過ぎ去り、店内には二人だけになった。


「あとさー、今日は収穫もあって良かったよね。」



 花一はないち じん。花一倶楽部の会長の名だ。


 お客さんを"酔わせて吐かせる"作戦は無事成功し、花一が週に一度はこのバーに赴いていたという事実が発覚したのだった。




「はい!ーー影助えいすけさんたちにも良い報告ができそうですもんね」



 はるもセイコも、にこにこ笑いながらグラスの汚れを水で流した。





__________________________________________









 路地裏周辺を回ってみても、"それらしい"集団は一向に姿を現さなかった。いや、正確に言うのならば、怪しげな人物はちらほらいた。しかし彼らは等しく小物で、おおかた花一倶楽部の囮役だろうと皆が思っていた。


「……全員捕縛とか、つまんねェなあ」


(死刑執行人が聞いて呆れる)


 影助えいすけは銃口に息を吹きかけ、にごった夜空を仰ぐ。


「まあまあそう落ち込まないで。僕からしたら、正確かつ迅速に的を狙うことができる君守きみもりさんもすごいと思いますけれど、ねっ」


そこで右フックーー正直反応に困る。

急所を避けて狙撃するなんて、影助えいすけにとってはなんの造作もないことだったからだ。


それに。


(つくづく嫌味なヤローだ)


 影助えいすけの目の前でじわじわターゲットを弱らせていく聖田きよだこそ、正真正銘の"拷問のスペシャリスト"だった。

 丸腰そのものなのに、期待を裏切らず嗤っている。


「……オレは優しい上司だから忠告しといてやるが、そいつら殺すンじゃねーぞ」




 影助えいすけは複雑に入り組んだ街路に逃げ込む、花一倶楽部の会員を見据える。


ーータンッ、タァン


 とりあえず肩に二発入れた。これでしばらくは動けないだろう。




「何言ってるんです君守きみもりさん。彼らを"死なせない"からこそ、心ゆくまで楽しめるんじゃないですか」




「いい性格してるじゃねえか。お前はやっぱりーー地下牢専属にした方が良さそうだ」


 恵業けいごうはこんなときでもユーモアを忘れず、余裕たっぷりに二丁拳銃を発砲させた。






 前衛は影助えいすけ聖田きよだ恵業けいごうの三人。影助えいすけは拉致のあかない状況についに我慢が利かなくなり、トランシーバーを全員に繋いだ。


「ええいまどろっこしい! オイ駿河するがァ! 後衛、あと何匹いるか分かっか!」


『こちら駿河するが。スンマセン! 予想はできそうにないです。えーーちょっと利根とねさんに代わりますね!』


 利根は言いにくそうに口を開く。どうやら、自分たちは既に花一倶楽部の手のひらの上かもしれない、という話だった。


『一応座標、確認してみてくだせェ』


「……クソっ、本当だ。セイコたちのいるバーからどんどん遠ざかってきてやがる」


『何者かによって"誘き寄せられている"っつーことでしょうか』


「はん、嵌められたって言いてーのか? オレらがよォ」


(ひょっとして遊ばれてンのか? いや)



ーーまさか!


 

 とある可能性に辿り着いたとき、二つの影が影助えいすけたちを覆った。



__________________________________________




「恵ちゃん喜んでくれるといいなー、報告すんの楽しみだね♡」



 はるは何度も頷く。

 花一倶楽部の会長が確実にバーに訪れているということが分かった今、恵業けいごうたちをこちらに呼んだ方が早いのではないか。しかしはるは、もう夜遅いので明日にしてしまおう、と思ってその旨をセイコに伝えなかった。





「……ヨウちゃん、今日はもう寝たら? 色んなことあって疲れちゃったでしょ」


 セイコははるの隈を指差す。


「いや! 私はまだまだ大丈夫なので、セイコさんこそ先に休んでください!」


 演奏も終わったというのに、アドレナリンの止まらないはる。今晩は徹夜してもへっちゃらだと思っていた。



「ううん、お気遣いなく。そうやって無理して倒れられても困るしね。それにアタシほら、夜型人間だからさ」


 オールなんて慣れっこ、とセイコは煙草片手に余裕そうだ。




「でもーーじゃあそうだ! セイコさん、交代で眠りませんか?」


(セイコさんも口に出さないだけで疲れてるだろうし、これなら効率よく休めそう!)


 はるは自分のアイデアを自画自賛する。



「……分かった。頑固なヨウちゃんに免じて今日は休むことにするよ。でも寝るのはヨウちゃんが先。コレはアタシも譲らないからね」


 先輩からそんな風に言われたら、さすがのはるでも引き下がるほかなかった。

ーー渋々だけれど。


「それではセイコさん、お疲れ様でした。ーーおやすみなさい!」


「はいおやすみー。三時間くらい経ったら起こすから。それでいい?」


 はるはセイコに感謝し、できるだけ早く体を回復させるよう意識した。





(怒涛の一日だったけど、楽しかったなあ)

はるは今晩も、いつものように一人反省会を始めた。


(セイコさんには、感謝してもしきれないや)



 小一時間くらい寝返りを打ってみたが、全く眠ることができないので、はるはカウンターへ、水をもらいに行くことにした。


 

 セイコのいるカウンターへ繋がる扉を開ける。

 もしかしたらお客さんが入店しているかもしれない。周りに配慮するようにして、はるはそーっと、小声で喋り出す。


「……セイコさあん、すみませーん。なかなか寝付けなくって、お水をいただけーーえ?」


 店内はいやに静かだった。


はるはびっくりしすぎて硬直してしまう。



(どういうこと)


「なんでーーセイコさんがいないの?」




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