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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第2楽章 花一倶楽部編
20/94

17.情報戦で無双できるよう頑張ります



 そこかしこから、焼き鳥やらお酒やらのもわんとした匂いが伝わってくる。


 路上にたたずむ高校生くらいの少女、執拗な店のキャッチ。

 夜の住人たちに若干気圧されつつ、はるはそれをひた隠すように楽器ケースを一層強く握りしめた。



「ーーすみません、すみません。ココ、ちょっと通してください」




(気張っていかなきゃな……)

 


 はるは水浴びを終えたばかりの犬みたいに、頭をぶんぶん振りまくる。






 事の発端は、聖田きよだのある提案からだった。




__________________________________________





バァン!と、割れた風船のような音が響き、はるは後ろを振り返った。見ると、執務室の扉が開かれている。


 戦闘態勢に入っていた恵業けいごう影助えいすけ聖田きよだは、拍子抜けだと言わんばかりに肩をすくめた。

 とんだサプライズだな、と影助えいすけは舌打ちをかます。


「ーーなンだ駿河するがかよ。見ての通り今ァお取り込み中だ。用があるなら手短に頼むワ」


「すんません! 緊急事態でして……あの、ボス! 先ほど信濃さんから連絡が入ったんですがーー」





 聞けば、カルマファミリー見回りコースの路地裏で、何やら怪しげな歌を歌う男たちが移民女性を囲っていたそうだ。

 信濃たちが声をかけると男たちは逃げていき、見つけ次第こちらへ連行してくるとのことだった。




 恵業けいごうはふむ、と考える素振りを見せる。


「……そいつら、武器は持ってなかったんだろ? なら、利根あたりが上手く捕縛してくれるだろうさ。駿河するがお前、ちったあ気負いすぎじゃーー」


「いくら信濃さんたちとはいえ、この間受けた傷がまだ残ってるんです!」


 駿河するがは、拳をわなわなと震わせる。怒気を孕んだ声だった。


「テメェ、下っ端の分際でボスになんて口の聞き方ーー!」「待て、影助えいすけ


「……俺はあの人たちが心配でならねえ。平の俺が言うのもおこがましいでしょうが、応戦許可を願えますか」


許可さえもらえれば俺1人でも行きます、と駿河するが


(……? どうしてずっとおぼろさんをチラチラ見てるんだろう。新入り、だからかな)



「ーー少し、いいでしょうか」



 聖田きよだは、駿河するがの方へにじりにじりと詰め寄った。



駿河するがさん。貴方の話によれば、その路地裏というのは現在文堂(ふどう)さんのいるバーからさほど遠くはないようだ。それに、怪しげな歌というのも気になります」


 はるはようやく合点がいき、顔を上げる。


「それって、つまりーー」


 聖田きよだはるを見つめ、得意げに笑った。


「ええ、花一倶楽部の者と見て間違いないでしょうね」









 恵業けいごうは、駿河するがの肩にポンと手を置いた。


「すまねえな、駿河するが。俺にはちと仲間を労う気持ちってのが足りてなかったみてえだ……危うく取り返しのつかなくなるところだった。気づかせてくれて、ありがとうな」


 駿河するが影助えいすけも、すでに落ち着きを取り戻したようだった。



「いいえボス。俺には謝罪なんて必要ありませんよ。そういうのは後で信濃さんたちに言ってあげないと」


 影助えいすけは無言のまま、貧乏ゆすりをし始めた。


(いや、影助えいすけさんはちょっと微妙かも……?)








「ーーさて、そうなってくると、文堂ふどうさんの潜入先には誰が向かいます?」


ーー二手に分かれましょうーー

 聖田きよだはそう言った。


 駿河するがが事を知らせる前ならば、多いに越したことはないということで、恵業けいごう影助えいすけ聖田きよだはるの4名でバーに赴くはずだった。



「俺はもちろん、信濃さんたちのとこで!」

元気よく駿河するがが手を挙げる。


 はるは壁にもたれかかって貧乏ゆすりを続ける影助えいすけを見やった。


「……オレは別に、ボスの護衛ができればどこでもいい」



「おやおや、肝心のボスは?」


 恵業けいごうは首を捻りに捻りまくっていた。


「うーーーーーーん、セイコのところに行ってやりたいのはやまやまなんだがな。アイツらに会ってすぐに謝らねえと、俺の中の"漢"が廃るってもんだ」


「では、信濃さんたちのところへ?」


聖田きよだはにこやかに尋ねる。恵業けいごうは面目ないと言う風に頷いた。


「そうしたら、3対2でちょうどいいですかね?」

 はる聖田きよだに確認を取るが、聖田きよだは曖昧に微笑んだ。


「僕もそれが最良だと踏んでいたのですが……どうやら状況が変わったようです」


はるはハッと息を呑む。


(そうだった。あっちには何人いるか分からないんだよね)


「たしかに、一度退却してたくさんの仲間を連れてくるのって、昔映画で観たことがあります」


 多勢に無勢では元も子もない。


「それなら、じゃんけんでどちらかはあっちに加勢しましょう!」


 聖田きよだはいつもの如く、くすりと笑った。


「ありがとうございます。ですがここは、常識的に考えて僕が」


 少しでも貴女を危険に晒すわけにはいきませんから、と付け加えられる。


「バーはゴロツキたちのたまり場でもありますが、情報を集める絶好の場です。それに、時と場合によっては安全地帯と断言してもいい」


ーー比較的安パイなバーへは女性陣、大穴の路地裏へは僕たちが。


「オイヨウ! セイコと2人だからって悪さすんじゃねェぞー」


影助えいすけ、お前またーー! ヨウに限ってそんなことあるか!」


「ふふ、困った人たちだ。異変があれば、すぐ僕のトランシーバーに連絡を。それじゃあお仕事頑張ってきますね、はるさん」



「……あ、はい! お互い頑張りましょう! みなさん、ご無事で」



はるの潜入するバーの方が、危険が及ぶ可能性はたしかに低いのだろう。




 しかし決して突き放されたわけではないのに、どうしてかはるの胸のいがいがは取れなかった。








 

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