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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第2楽章 花一倶楽部編
19/94

16.うっかりの事前打ち合わせ


♪勝って嬉しい 花いちもんめ

♪負けて悔しい 花いちもんめ


♪あの子が欲しい

♪あの子じゃ わからん

♪この子が欲しい

♪この子じゃ わからん

♪相談しよう

♪そうしよう


 恵業けいごうは過去を懐かしむようにして歌を歌い終わると、徐々に険しい表情になっていった。


「その歌はもしや……わらべうた?」


(音楽の教科書にも載ってた気がする)


 はるの予想が確信に変わった時、歌の内容にしかけがあったことを思い出す。


「歌いやすいメロディですけど、歌詞がちょっぴり怖いですよね」


「おお、若いのによく知ってるな。……実は最近、"はないちもんめ"を歌いながらターゲットに近づく人攫い集団が暗躍してるそうでな」


「何を隠そう、そいつらが花一倶楽部ってワケっスよね」



 最初から分かってましたと言わんばかりの影助えいすけはさておき。




 不思議なことに、狙われているのはもれなくイタリア国籍の女性なのだという。



(組織の名前からして、この国の人たちだと思うけど……)


「ーー報復でしょうか。それともただの趣味?」


「どちらにせよ、イタリアマフィアを狩るのは俺たちだ。ライバルが少ないにこしたことはねェ。デカくなる前に潰しとくか……おい、ヨウ。急にぼーっとすんな。」


 思考を巡らすのに集中しすぎて、影助えいすけが腰をかがめてはるの顔を覗き込んでいるのに、気づくことはできないまま。



 はるがびっくりして頭を上げようとすると、その反動で影助えいすけとおでこ同士がぶつかり合ってしまう。



「でいっ、痛⁈ ご、ごめんなさい影助えいすけさんっ! 私ったら気づかなくて!」


 双方、血までは出ていないが、反射的に額を押さえた。





「な⁈ 大丈夫かあ⁈ 2人ともーっ! とりあえず何か冷やすものをーー」




 僕が、と聖田きよだは心配そうにはるの額を診にいく。



「なんてかわいそうなはるさん。こんなに赤くなってしまってーー」


 さらりとはるの額を撫でた聖田きよだは、影助えいすけの方を向いた。


「痛いの痛いの、影助えいすけさんに飛んでけー!」


聖田きよだは、わざとらしくポーズを作って影助えいすけへと波動を送る。



ーーこの男、ディアボロの異名は伊達じゃない。



 影助えいすけは色々な要素で我慢の限界が過ぎ、わなわな震える。


「……うるせー! オレだって痛ェんだよコンチクショーッ!」


 チクショー、

 チクショ…、

 チ…ショー…

 ショー……

 ショ……



 影助えいすけの叫びは、いつまでも屋敷中にこだまし続けた。



『……ちょっとー、今のえいちゃん? 急に大声出さないでよねーマジビビるし。耳壊れるかと思ったんだけどお』


「あ? ンだよ、セイコーーって、やべ」

 影助えいすけは何かを感じ取ったかのように、姿勢を正す。


『ボス、ボース。ーー聞こえてる?』


こちらを窺うような、しっとりした女性の声。


まさか、とはるは思う。



『……てかコレ放置ってこと? おーい。』


そのまさかだった。


 なんとこの場にいる全員が、恵業けいごうとセイコのトランシーバーが繋がったままだったということをすっかり忘れていたのだ。



「アッ、……ああ! セイコ、すまんすまん! 誓ってわざとじゃないんだ!」


 恵業けいごうは炊飯器のスイッチを入れ忘れた時のように慌てふためく。

 

 聖田きよだは声を殺して笑っていた。


『ひどくなーい? もしわざとだったら、さすがのボスでも半殺しだよ。……わりと本気で!』


 100%冗談、には聞こえなかったが、セイコの声には笑いも入り混じっていたので、とりあえず殺すほど怒ってはいなさそうだと察して安心する。


『全くもおー、アタシだけおいてけぼりで会議始めないでくださあい』


 頑張ってるのにー、とセイコはトランシーバー越しに不満を漏らす。




「悪かったなセイコ。今度いいワインでもツケてやるから、それで勘弁してくれないか」


 頼む!と恵業けいごうは向こう側のセイコに拝む格好になった。



「ボス、失礼ながらそういうところではないでしょうか」


 聖田きよだは顎に手を添え、苦笑い。



『えー、ホントに⁈ やったやったー! ボスだあいすき♡』



「許せねーアイツ……セイコって、いつもあーやって人のコト脅してくンの」


 影助えいすけがトランシーバーを指差して、はるに耳打ちしてくる。はるは次はおでこをぶつけないよう、一生懸命身を縮めた。


(そういえば小学校の女子トイレでも、こういう風に噂話をしてる子たちがいたなあ。懐かしいなあ。)

ーーはるを



「カルマの古株だからってボスまで尻に敷いちまってさあ、何様だよってカンジだろ? クッソ腹立つよなァ、あの古参ババーー」「えいちゃん?」


 セイコの鋭い眼光が、トランシーバー越しにでも伝わってきた。



えいちゃん、新入りちゃんに何吹き込んでるのかな? ん? そう、答えられないんだ』


 セイコの威圧感に、悪いことをしていないはるまで震え上がってしまう。


「……あーウザッ! つーかお前、実は全部見えてンじゃねェかよ⁈」


『アリア堂のティラミス』


 ギャンギャン鳴く犬なんて気にも止めず、セイコはバサッと切り捨てる。


影助(えいすけ)さん、南無三ーー!)

 はるは近くにいた聖田きよだと一緒に目を伏せた。




『あ、そーだ。本題だよー! ほ・ん・だ・い! えいちゃんのせいで忘れちゃったじゃん!』


 やだもー、とセイコがあちらで机か何かを叩いているのが聞こえた。


『ーー今アタシさ、情報屋御用達って噂のバーにいるんだけど』






ーーセイコの話はこうだ。



 当のバーへの潜入に成功したはいいものの、調査に難航し、それどころか花一倶楽部はないちくらぶの情報1つ掴めない、と言う。



(そこが、今から私たちが行くところ、なんだよね)

 はるは拳をきゅっと握る。



『ホントさー、しっぽを散らつかせやしなくって。ため息も出るってものよねえ』



 なら、と恵業けいごうが静かに息を呑んだ。


「俺らが応援に行くまでの間、くれぐれも危険なマネはするんじゃねえぞ」


『うん、もちろん。でもアタシーーボスのためなら全力で体、張っちゃうよ♡』



「……気持ちはありがたいが、掟に触れねぇようほどほどにな」


 じゃあまた後で落ちあおうと、通話はやっと途絶えた。




「お前らあ、準備はできてるか」

 恵業けいごうは振り返りもせず問う。



「「Ovviamente、ボス」」

 胸に手を当て、男2人は礼儀正しく返事をした。


 はるはというと、出遅れてボス!の部分しか合わせられなかった。しかし気持ちはきっと伝わったはずだ。多分。











__________________________________________




 ーー煌々と光るネオンが夜を蝕む、飲み屋街。




 この街の喧騒と雑踏の中で、はるは今、トランペットを響かせる。





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