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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第1楽章 カルマファミリー編
16/94

14.幸福のクレッシェンド

時系列的には、12の後です!



 はる聖田きよだは指切りを交わした後、本日開催されるというカルマファミリーの加入儀式に向かっていた。


 ちょうど加入時期の近かったはる聖田きよだ。それならば儀式をまとめてやってしまおう、ということらしかった。







 雑談をしながら歩いていると、廊下で影助えいすけに出くわした。先日の件もあって、今は少しだけ気まずい。

 はるには、血の海がフラッシュバックする。



「あ、お、おはようございます。影助えいすけさん。ーーって、どうしたんですか⁈ そのケガ!」


 影助えいすけの左手には、包帯がぐるぐると巻かれていた。


 はるは近づいて包帯のほつれを直そうとすると、影助えいすけから手を振り払われてしまう。


「……オレらのこと、気絶するくらいになったんじゃねーの」


 はるは予想だにしていなかった発言に度肝を抜かれた。


「なっ⁈ こんなひどいケガしてるのに、敵も味方もありませんよ!」


 見るからに消毒はしていなさそうだったので、はるは常備の消毒液を取りに行こうとするが、はるさんはるさんーーと、耳元で聖田きよだにこそこそ囁かれる。


(え? なになに⁇ ……ふんふん、なるほどそうか!)


「えっと、たしか患部には"塩水"がよく効くって聖田きよださんがーー!」


「オレは因幡いなばの白ウサギかよ」


 影助えいすけはるに、強めのデコピンを食らわせる。


 それとーーと影助えいすけは、ニコニコ顔の聖田きよだをジトリと睨む。


「クソ悪魔はオモテ出なァ」


 指をくいくいさせる影助えいすけのうしろには、見えないはずの炎が燃え上がっていた。




 *



 紆余曲折はあったものの、会場の執務室に着くと、恵業けいごうが誰かと通話しているようだった。


ーーカルマファミリーには、現在3人の幹部がいるらしい。まずボスの恵業けいごう、次にアンダーボスの影助えいすけ。そして、あと1人……には、はるはまだ出会ったことがなかった。


 ちょうどいいタイミングだったな、と恵業けいごうがこちらを見やる。


「今日は別の任務で来れないが、コイツが3人目の幹部・『文堂ふどう セイコ』だ」


 はるは、顔の見えない相手に礼儀正しく初めましてを言う。


『お、そのコが例のヨウちゃん? あーあ、せっかく今まで紅一点ポジだったのになあ。……なんてね』


『それからーー聖田朧ディアボロさん? 噂は聞いてたよー。わーお、これは早くも幹部入りまったなしじゃなあい?』


 トランシーバー越しに、大人の女性の声がする。なんとなく、美人の横顔が想起された。



「時間も時間だしな、そろそろ始めるかい?」


 加入儀式はあくまで儀式であり、決して歓迎会のような楽しいものではない。


 厳かな様子で式が始まった。


 部屋の明かりが消され、代わりに一本の蝋燭が立てられる。


「これより、日楽あきら はる、及び聖田きよだ おぼろの、カルマファミリー加入の儀を開始する」


 いつもより低く通る声で、影助えいすけが凛と告げた。



『一つ、仲間を家族とし、これを守れ』


「一つ、我らが首魁・恵業けいごう 笛吉郎ふえきちろうに命をって忠誠を尽くせ」


「一つ、マフィアたるもの、名誉ある"漢"として恥ずべき行動を取るな」


 影助えいすけ、セイコ、恵業けいごうの順で、親指に針を刺していく。セイコはもちろん、端末の向こう側で済ませたようだ。




 聖田きよだもそれに倣い、片膝を立てながら、ぷつりと少量の血を出した。


「次ははるさんの番ですよ」


 聖田きよだはるに耳打ちしてくる。学芸会でセリフを忘れた子に、こっそり教えてあげる先生のように。




 みんなの所作を見ていたおかげで、やるべきことは分かる。が、はるはたちまち狼狽ろうばいしてしまう。


(いざというときになって、私はどれだけちっぽけな人間なんだろうって思った)


 結局、はるは犯罪組織に加担してしまったからと言って、責任を感じて自決するほど崇高な人間ではなかったというわけだ。





ーーお嬢さん、ありがとうね。若いのに優しいねえ


 いつぞやの電車のおばあさんが、はるの脳内に語りかける。


(おばあさん、ごめんなさい。)


(私、ホントのホントは優しくなんてなかったみたいです)


 はるはおばあさんの見せてくれたあの笑顔に、胸が締めつけられる。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



(だって私は、これからも美味しいご飯を食べたいし、トランペットも吹きたいし、親孝行もしたいから。)


ーー生きていたいから。


   

だからこそ。


(せめて今は、目の前のことを、頑張って頑張って頑張るんだ)


 はるは親指に針を一息に刺す。

 鮮血が下へ下へと落ちていった。



不思議と痛みは感じなかった。


みんなの血が溶け合い、交わる。


これにて、はる聖田きよだは正式にカルマファミリーに加わったことになった。


 恵業けいごうは穏やかに微笑み、はるに告げる。


ヨウがラッパを吹いてる間、俺らは派手に動き回れるからな。期待してるぞ」


ーーこれから私は、カルマファミリーで、マフィアとして生きていく。



(とにかく今は、未来の私に恥じないように、前を向いて歩いていこう。)



これにて、第1楽章「カルマファミリー編」終了です。


評価、感想などなど、お待ちしております!

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