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幸狂曲第5番〈Girasole〉  作者: 目玉木 明助
第1楽章 カルマファミリー編
11/94

9.勘違い

日間連載中ランキング、アクション部門・10位ありがとうございます!

これからも頑張ります‼︎


ーーデパ地下、化粧品売り場にて。


 影助はクスリの密売人を見つけると、すれ違いざまに慣れた手つきでメモ用紙を滑り込ませた。

それには、「物流倉庫で待ってます♡」と書かれている。


 影助は軽く舌打ちをした。

 

 女性をターゲットとした、違法薬物の取引。ご丁寧にも、化粧品売り場にアリ地獄は用意されていたようだ。


(おおかた、美肌効果があるとか抗酸化作用があるとかほざいてクスリ売り捌いてンだろ)

 

 いつの時代でも、弱者は強者に、いいように弄ばれる。

……そういう宿命さだめを持っている。


 気持ち悪ィ、と影助は心底思う。


(多分ここら一帯のヤツはみんなグルだ。店員含めてな)





「お疲れ様です、ボス。こちら影助。ーーアタリです」

 

 まず影助は、密売人が見つかったことを伝えるため、恵業に連絡を入れた。


「ヤツらが取引場の物流倉庫に到着するまで、早くて5分といったところですが……オレたちもなるべく急ぎましょう」


 影助は壁掛けの時計を見やり、他の場所にいる構成員たちにも、トランシーバーを介して情報を共有する。


『でかしたぞ影助。

 おうよ、せっかくだ。俺らみんなで待ち伏せして、密売人バイニンどもを驚かしてやろうぜ』


 恵業は影助の話を聞くと、明るくそう言った。


(……一応、アイツにも連絡しといてやるか)

 トランシーバーのチャンネルを、陽へと合わせる。


 

 少し間が空いて、通話が開始された。


ーーえ、おね……さん、っ体……ナイフ、?

ーー切れ……見、てよー


 あちらでは、カラスのような声がガーガーと鳴り響いていた。


(作戦早々ヘマしてんのかよ、アイツ)


半ば呆れつつも、まああの陽なら持ち前の奇想天外さでなんとかなンだろーーと、影助は確信めいたものを覚える。


 影助を呼び止めようとする、陽の悲痛な声が聞こえるが、影助はあえてそれを無視した。


 いわゆる、"かわいい子には旅をさせよ"、というやつだ。

ーーいや、ちょっと違うか。


 影助は荷物に忍び込ませていた相棒の機関銃をそっとなで、足早に物流倉庫へと向かった。



__________________________________________


 苛立っていた。


(御年58のボスはいいとして、他のヤツらが遅い、遅すぎる)


待ち合わせ場所の物流倉庫前には、まだ影助以外、誰も来ていなかった。



「あれあれぇ〜? やっぱりお客、ただモンじゃなかったみたいだねぇ〜?」

 

 どこか焦点の合っていない目で、密売人集団の1人が影助の機関銃を何度も指差す。


ーーざっと数えて12、か。

こうやって、()()()()()()()()()()に、相手を数で圧倒させるのだろう。

十二支に例えるのなら、今の影助は仲間はずれにされた猫である。


クソが、と影助は思う。

(やっぱり間に合わなかったじゃねェかよ)


「寄ってたかってリンチですかァ? オレってば、ファミリーの中でもか弱い方なンだけど」


 ヤツらは皆、銃を構えている。

さすがに不利すぎる状況に、影助は頭を抱えたくなった。


「ふぅひいはあはあはあっ、マシンガンぶら下げといてよく言うぜぇ」


 気色の悪い笑い方だった。


「お前もハイになろうよおー」


 次から次へと、影助は鉄棒で遊ばれるみたいに、腕をつかまれる。


 ああもうどうしよう。

いよいよ頭を抱えるーー腕につかまっていたヤツらがずり落ちていく。

 その隙を狙って。


 影助はニヤリと笑って、機関銃の引き金を引き続けた。


 ズダダダダダダダダダダッ


 銃が、容赦なく連射される。

飛び散る血と肉片。


(まずは3人か。)

 影助は、さっきまで人間だったモノをサッカーボールのように蹴り飛ばす。


「オレもちったァ、演技が上手くなったかな」

 影助、眠そうに伸びをする。


 残りの密売人たちは、みな顎あごをガチガチと鳴らせていた。

「ああああああ、なんてことを……あんなに仲の良かった藤井三兄弟になんてことを……」

(なんてことを、はコッチのセリフだわ)


「ハッ、馬鹿どもめ。そこら中が海になるまで泣いてなァ」

 影助は一目散に、物流倉庫の中へと駆け出した。

 

 

 実のところ影助は、恵業のために大将首を残してやりたいと考えていた。


(あの人はマジで、いつでも格好つけたがるからな)


 まあそんな性格だからこそ、影助は恵業にいつまでも着いて行きたいと思えるのだが。

 意図せず、ふっと笑みがこぼれる。


(花ァ持たせてやりてェな、最期のときまで)


 


 ーー仇討ちでもするかのような血走った目をした男たちが、影助を探しにやってくる。

 

 とりあえず影助は、高く積み上がったダンボール箱を崩し、なだれをつくった。

 めくらましをしながら、防壁から少しずつターゲットを狙撃する作戦だ。

(ぐあー、早くムカつくヤツら殺してェー)

本当は、こんなこそこそとした戦い方が嫌いだったのだが、時間稼ぎをするならこれが1番だ。

(この角度なら、まずは冷凍庫横にいるヤツ、いけそーか?)

 影助が狙いを定めて引き金を引こうとした、刹那。


 後ろからトントンと肩を叩かれ、勢いよく銃を向ける。


「しーっ! 俺だ俺。そんな怖い顔すんなって。びっくりさせちまって悪ィな」


お手上げポーズをした恵業と、申し訳なさそうな顔をした構成員たち。


「……なアんだ。ヒーローは遅れてーーとか言いますけど、ちょっと登場遅すぎないスか?」


 そう言って笑いかけるのはボス限定で、影助は3バカトリオにだいぶ強めのチョップを入れていく。

「すみません! 1人にしちまって」

「俺ら、アンダーボスがく、くたばってたらあ、どうしようかと」

「不安にさせてすいませんした!」


わんわんと泣く3バカに影助は、ああん?と悪態をつく。


「何言ってンだテメーら。別に俺1人でも十分だったワ」


「しっ! お前ら、誰かこっちに向かってきてるぞ」

お、と影助は思う。

「ボスの2丁拳銃でなんとかしてくださいよ」

 みんな、素早く五手に分かれた。


(いいねえ、ちょうどこそこそすンのに飽きてたとこだし、やっぱ真正面からのが性に合ってるワ)


 軽業師のように、棚から棚へ、影助は派手に跳躍し、こちらに銃口を向ける男へと距離を詰めていく。


「よくも、よくも藤井三兄弟を……!」


 男はなぜだか引き金を引かない。


「おらよォ、人間ピアッサーだ」 「がはっ」

 脳天、ブチ抜く。

「アレ? 穴空ける場所間違えたみてーだワ。ごめんなー」


 ゴシゴシと、影助は頬にこびりついた返り血を拭く。

(つーか、話になんねえほど弱ェな)

携えた銃も所詮しょせん、"見せかけ"ということなのだろう。


 恵業たちも、順調に敵を狩っていた。



ーー最後の1匹。


「さあさあボス、ラストスパートですよォ! だーん‼︎ と、カッコよくっちゃってください」

 恵業は少し恥ずかしそうに頭を掻く。


「あ、ああ。……なんだっけな。俺たちカルマがーーってうぉ⁈」


持っていたクスリを一気飲みしてしまった男。


「これでボクは最強なんだあーっ」


しかし恵業は、その光景を鼻で笑った。


「見ろよみんな、弱っちいのがイキがってるぜ」


 影助は、かつての日本のように、目の前にいる"死刑囚"に判決を言い渡す。


「シャブ漬けになり、自分まで強くなったと抜かす勘違い野郎に、オレらカルマファミリーが血の粛清をーー」

 

待ってくれ、と、ついさっきまで威勢の良かった男が泣いて懇願している。


「お、穏便にいこうぜ! く、くひいっ。アンタるぁだってカタギの人間じゃねぇんだるぉ⁈ 理解わかってくれよォ! はふぅっ、

コッチのが、がぁ、効率よくシノギを得られるっつーのになんで……」

 もう、舌がよく回っていないようだ。

 

 影助は一応、うーんと考えてやる。


建前とか抜きにして、それ以上に。


「ボスがヤク、嫌いなンだよ」


 影助は無情に、機関銃でその男を蜂の巣状態にした。

(あ、やべ。ボスに花持たせンの忘れてた)



__________________________________________





「さ、さぷらーいず! なんちゃってえ……」


 ゲリラライブは大成功を収めた。

今陽たちは、デパートの最上階である3階にいる。

それも、館内にいるみんなで、だ。


「お姉さんプロの人だったの?」

「本当上手いのねえ、トランペット」

「うぉーおー おおお おっおっおーって合唱しちゃったわよ」


はるへ送られる拍手と、称賛の嵐。

 

 手を挙げて陽に異議申し立てした女性も、すっかり演奏に感化されてしまい、色紙を片手にサインを求めている。

 陽は、はにかみつつも素直に嬉しがった。

同時に、やはり「アイーダ」は万国共通の名曲なのだ、とも思った。


(この人のおかげで、みんなを避難させられたようなものだもの)


 "人間万事塞翁が馬"、ともよく言うしね。

ーーいや、ちょっと違うか。


 陽は感謝の意を込めて、要望通りサインと、あとはハグをしてみせた。


(と、そろそろ抗争も落ち着いた頃かな?)

 それとも、しばらく連絡がないということは、まだ抗争がおわっていない、ということなのだろうか。


(いやでも、報連相は大事だしなあ。ええい!)

 

 陽は浮かれたままの勢いで、恵業と影助にトランシーバーのチャンネルを合わせる。

 

 少しの間、待つ。


「! もしもし"陽"です。お二人とも、今日は本当にお疲れ様でした。その、ちょっとですね。ご報告がありまして……なんと! 陽動作戦! 大成功しちゃいました!」


 陽はトランシーバーごしにピースを作り、まるでサンタさんにプレゼントをもらった子どものようなテンションで通話を続ける。

 

 向こう側で、おお!とか、へえ。とか言われているのが聞こえる。


「それでですね、私決めたんです。

あんまり気は進まなかったけど、今日みたいに好きなだけトランペットを吹かせてもらえるなら。カルマファミリーに、喜んで協力するってーー」


 影助が、気だるげにこたえる。


『……おー、そりゃ良かったワ。

 オレらァまだやること残ってっから、ヨウは出口に待機してるヤツと先帰ってろ』


「え⁈ いやあ、私だけ申し訳ないですよ!」

陽は全力で手を振る。


恵業はあやすように、陽に優しく話しかける。


ヨウの武勇伝なら、あとでゆっくり聞いてやるからよ。食後のドルチェとして楽しみにしてるぜ?』


 結局通話は、影助によって切られてしまった。


 陽は自分だけ先に帰るのは失礼だと思い、名残惜しくも観客たちに感謝と別れを告げ、物流倉庫へ向かうことにした。

(皆さん、頑張っているのに)

 

 それが、浅はかだった。


倉庫の扉を、開ける。

「お迎えに上がりました! 私も皆さんと一緒に待ちまっーー」


 いつだって、そうだった。


(平和ボケで、無知で、乗せられやすくて)

 

 何かが焼けるような匂いが充満していて、はるは思わずむせかえってしまう。

 

 ーー眼前に広がる、血の海。


他でもない、陽と同じ"人間"の血。


 そのうえ、全員服は破けたり傷ついたりしていないので、生臭い赤は、全て返り血なのだと、素人の陽でも分かる。


 影助がもたりと振り返る。


ーーあーあ、だから言ったのによォ


 陽はそのとき、自分が犯罪組織に加担しているのだということを、残酷にも思い知らされたのだった。




みなさん、ボンジョルノ!

本日もお読みいただき、ありがとうございます。

ちょっとした補足説明です↓

※純粋に待ち合わせに遅れたのもあるけど、ボスたちは影助とは反対の入り口で待機していたそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  主人公が事件に巻き込まれてからマフィアの仲間になるまでがキレイにキマッててしっかりプロット練られてて良かったですねb  ただ助けてあげるんじゃなく、自分の力で立ち上がらせようとするカルマ…
[良い点] 陽ちゃん初登場が、なんだか親近感(主人公との年齢の近さもあるとおもいますが) 小学校の遠足、など心情理解しやすいような例えがあり読んでる側は本当にワクワクしてくるし、何よりも微笑ましい。…
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