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第四話 子供の提案

 俺達四人は、随分と歩いた。いつも遊ぶ町外れの大木は、外れと名付けられても、町から確認できる大きさと距離だ。しかし今歩いている場所は町から見たら山の麓付近で、どこにいるのか傍目からでは分からないだろう。

 マールが何故ここまで俺達を呼んだのか、検討もつかない。村の近くには今いる山と、その向こうにあるという国道ぐらいしか、めぼしいものはないと理解している。


「おいマール、そろそろ説明しろよ」


 フリも苛立ちを覚えたのか、らしくもない口調だった。多分向けられた事もない圧だった筈だが、マールの口は淀みなく動いていく。


「実はさ、この先にある洞窟がお宝の山なんだって」

「マール」

「その、知ってるだろう?村の人達が使えなくなった魔法具とか魔石とかを捨てる、あの洞窟だよ」

「マール!」

「知ってるが何だ?親父からは何も聞いてないぞ」

「マール!!」

「ヤン、お前も何か知ってるのか?」


 何度も名前を呼んで、マールの話を遮ろうとするのは、珍しくヤンだ。

フリの苛立ちの対象に自分が含まれた事に対する不安から、ヤンも呆気なく目論みを告白した。


「…僕たち見たんだ、本をさ」

「本?」

「僕の父さん、村長の所で書記をしているだろ。だから家にも村の記録に関する本があって、盗み読みしてて」


 驚いた。腰巾着だと思っていたら、案外博識なのか。自分が八歳頃の時など、親の職業に興味を持っても本を読もうとは思わなかった。

転生していなかったら、この腰巾着より低い知的好奇心の持ち主である事実が、俺の前世での不甲斐なさを際立たせていた。


「あの洞窟が捨て場になっているの、何でだか分かる?」

「知らねーよ」

「あの洞窟は奥がとても深くて、蟻の巣のように入り組んでいるんだって」

「嘘みたいな話だな」

「僕もヤンの手引きで本を読むまで、信じてはいなかった」

「で?信じた結果はどうなんだよ」

「…つまりその入り組んだ洞窟の先にお宝が封印されていて、そのお宝が取れないようにする為に、敢えてゴミ捨て場として使わせている」

「誰が?」

「昔この村を治めていた人が。そういう伝承が伝わっている、っていう部分を読んでさ」


 はぁ。今時の八歳は伝承なんて言葉使うのか。俺何言ってたんだろう…多分ニチアサの台詞とかを、必死になって叫んでいた気がする。

別の意味で彼等と居たくなくなってきたが、そうもいかなくなった。そもそも初めていく場所であり、辺りは文字通りの森なのだ。帰ろうにもあの整備されていない道に、出られる自信がなかった。


「マールにしろヤンにしろ、何を探させる気だ。大人達が隠すためにあの洞窟を選んだなら、俺達が出る幕あるのか?」

「それがあるんだよ。あの洞窟、大人達も知らない抜け道があるんだ」

「おい本当か」

「マールにこの事を話したらさ、前に一度行った時、洞窟の横に穴があったらしい」

「マール、本で知ったんじゃないのか?」

「洞窟自体は前から知っていた。まぁフリ君、詳しい事は今から分かるよ」


 いつの間にか着いた洞窟は、本当に洞窟だった。入り口の左右に祠が設けられている以外、何ら変わった点はない。近くに落ちていた木切れに火をつけたマールを先頭に中に入っていくが、俺はどうにも脚が竦む。


「おいザラ。早く来いよ」

「本当に行くの?」

「ここまで来たんだ。やらないで帰る方が変だぞ」

「帰ってママに言うのか?ゴミ捨て場にただ寄りましたって」


 煽っているのかどうか、分からない。だがここで帰れば、彼等は何と親に言いふらすだろう。恐らく良い表現は使わないし、そうなれば傷つくのは俺ではない。


「…さっさと済まそう」


 丁度いい具合に木の影が出てきて助かった。俺の脚の震えが見つからずに済んだから。


「以外とジメジメしてないな〜」

「週に一回は、誰か来るけどね。その度に松明とか置いていくし、簡単な手入れをする人もいるみたい」

「長いこと捨ててるんだな。ほら見ろ」


 洞窟の中に入り、奥にドンドン進む彼等は、落ちていた魔法道具の残骸を手に取っていた。真新しい杖の先には紅い宝石が備え付けられているが、所々欠けている。フリが試しに松明を翳すと、元はもっと鮮やかだったであろう石は、霞んだ色味しか持っていなかった。


「捨てておこうよ、フリ君。僕達の村の人が捨てるぐらいだから、役に立たないガラクタだよ」


 一人奥に進んでいたマールが、手招きしている。俺たちが後を追っかけると、彼が松明を振って場所を示していた。


「ここ」


 丁度洞窟の中間地点だろう。地面と壁の境目付近に、穴が出来ていた。周りに目立つような物もなく、出っ張った岩の影にうまい具合溶け込み、判別がつけにくい。


「へー」

「おい、これが奥に続いているのかよ。どう見ても下に向かっているじゃねーか」

「わからない」

「マールお前」

「だから確かめにいくんだよ。紐つけて皆で潜れば、奥に続くのか下に行くのか、もしかしたら出口に帰るのか分かるよ」

「まじか?」

「マジマジ」

「少しだけ潜れば平気だって、マールは言うんだ」


 流石にフリも怖気づいているな。無理もない、どう見ても危険だから。だがマールは腰に巻いていたミニバックからロープを取り出すと、近場の岩に括り付け始めた。

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