第20話 示唆と弟子入り
「…やはり止めようか」
「な、何ですか」
「憶測で話す内容では無いの。いや忘れてくれ」
「そんな反応だと逆に聞きたくなります」
「すまんすまん」
「両親とヤム婆さんの死に、何かあるんですよね」
ダーラは俺をジッと見てきた。見定めるような視線が全身に向けられると、彼は溜息をつく。
「断定できるのは、ご両親は自然死では無い。
これは疑いようの無い事実だ」
「ヤム婆は…」
「さぁな。痼の具合からして、昨日今日体調を悪くした訳ではあるまい。その彼女が何故この洞窟に…」
「わからないんです」
「分かったらここにはいまい。考えるのは辞めておけ」
俺は耳を疑った。この人は三人の死を忘れろと言ったのか?
「考えるのを辞めるとは、どういう意味ですか」
「言葉の通りだが」
「ふざけないで下さい。何故あんな死に方をした三人の事を忘れる必要があるんです」
「無駄だからだ」
「三人にその言葉を言うのですか!」
「うむ」
思わず立ち上がった俺に対し、ダーラは動揺などしなかった。手頃な石を見繕い腰を下ろすと、懐のポーチを弄る。
「聞きたいがの。知ってどうする?」
「は?」
「単純に強盗にでも襲われたと思ったか?馬鹿が。
二人に抵抗の跡はない。不意を突かれての一撃よ。つまり顔見知りか、用意周到な襲撃か」
「な、何を」
「気がつかなんだか。年の割に頭が回っていそうだが、宝の持ち腐れかもな」
そんな。両親は、突然襲われて、それで死んだのか?
「母上が気を狂っていた、と言われた。その母上が死んだ。村には顔見知りはあっても親戚はおらん」
「は、はい…」
「…ま、言えるのはだな。お前さんにどうこう出来る話ではない。
考えても、これしか分からない。だから、考えても無駄だと、ワシは思う」
「は…」
「お前さんの好きにしろ、と言えばそれまでだが。死に引き摺られると、自分も死神に魅入られるぞ」
もしかして、この老人は何か勘付いているのだろうか。勘付いた内容が悪いから、俺に言わないだけかもしれない。
俺の質問に、老人は有耶無耶な返事をした。だがその返事が、俺に影を落とす。
「いずれ気がつく。この憶測は、お前さん自身がたどり着いた方がいい」
「何なんですか…」
「助けを与えるとすれば…人間の弱さとどうしようもなさ、かの」
全く意味がわからない。助けになっていないと思う。
ダーラは落ち込む俺をチラリと見てから、手元の筒を取り出した。栓を外して飲むと、筒から甘い匂いが漂ってくる。
「?ああ、これか。酒だ、好きでな」
「いいですよ、お好きに」
「そう言うな。飲まなきゃやってられん」
「そう言えば」
「うむ?」
「何故貴方はここに。財宝が目的ですか」
ダーラは一瞬目を見開いた。
「ブホホホ!財宝とな!」
「えっ?違うんですか」
「そうかそうか。知らなんだかこの場所を。そうだったな知らなかったな」
「財宝の隠し場所でしょう」
「うむ。財宝もあるやもしれん。だが形あるものではないぞ」
「形?」
「ここはな、ある力を得られる。ワシはそれを極めたくて、ここに来た」
ダーラはやはり、ビヨットを知っていた!彼はぼかして言っているが、絶対ビヨットの事だ。
俺は内心の高まりを抑えて、ある言葉を出そうとする。
「ではまたの」
「え」
「えではない。もうお前さんとはこれきりぞ。お互い一人でやろう」
「いえ待って!」
「いや待たん待たん」
「ちょっと!」
「ワシ忙しいのじゃ。早く文献を探し、研究したくての」
「俺を弟子にしてください!」
背中を向けるダーラに、思わず言ってしまった。彼はすぐに振り返ってくれたが、呆れた顔をしている。
「話聞いておったか?」
「両親とヤム婆の真相を知りたいんです!」
「お前さんな」
「貴方の活躍、見てました!俺に拳法を教えてください!」
「いやだから。ワシは一人で鍛錬を積みたいんじゃ。確かにお節介は焼いたが、別段弟子にしたいからとかでは無くてな」
「ビヨットなら使えます!」
「ああ?」
よし、明らかに反応が変わった。俺は祈りのポーズをとって、ビヨットの操作に写る。焦りと他人から見られている事による緊張からか、中々上手くいかなかった。
「…」
だけどダーラは、腕組みをしながらも俺を待ってくれていた。薄目で確認した俺は、深呼吸を繰り返して『破壊』のイメージを強くする。
「…ハァ!!!」
全身から溢れ出たビヨットは、そのままダーラに向かって飛んでいった。
「フム」
だが片足の蹴りで簡単に弾き飛ばされる。
「成程な。フム」
「ビヨットはまだ使いこなせない。貴方なら使い方を知っている筈です」
「こうくるか」
「お願いです!俺に力を下さい!」
「勘違いしておるが、ワシは拳士だ」
「知っています。今は何でもいいから、力が欲しいんです!」
「…フーム」
暫く顎を撫でていると、ダーラは手を打った。
「分かった。お前さんの頼みを聞こうか」
「…本当ですか!」
「だがはっきりさせておく。ワシはあくまでも拳士。お前さんの目的となる、あの三人の死の解明に、何ら力になってはやれない」
「…」
「ワシが教えられるのは、せいぜい洞窟内での生き延び方と、我が拳法程度」
「…」
「ワシの魔柔拳は活人拳。しかし人を活かすとはいえ、目の前の人間しか救えない。
所詮はただの攻撃手段に過ぎんのだ」
「はい」
「こころせよ。大勢の人を助ける術を、ワシは教えられん。
しかしな、一人の人間を救えるかもしれない、きっかけは教えてやれる」
「お願いします!」
「大勢を救うのは、まず一人を助けてから。
一人一人の積み重ねを持って、お前さんの願いを叶えるのだ。良いな」
「分かりました!」
俺は頭を深々と下げた。
「まずは衣食住を満たそうかの。ついてまいれ」
「はい、師匠!」
「…呼び方考えようかの」
第20話の閲覧ありがとうございました。
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