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第二話 友人?

 窓から差し込む日差しに眉を曲げると、頬に温かみを感じた。そっと手を添えてみると、今日の天気の良さが肌で実感できる。


「ザラ、お友達が呼んでいるわよ」


 一階の寝室で寝転んでいた俺に、お呼びがかかった。


「うん、今行くよ母さん」


 タオルを持って扉の側にいる母親に応えてから、もう一度窓に目をやる。土埃が舞う何もない場所に、一人の少年が待っていた。金髪の下にある勝気な眼差しは、俺の嫌な記憶を呼び起こす。同年代にしてはガッチリした体格で、腕っぷしも強そうだ。


「今日も…」


 玄関先に出ると、隣に住むフリが待っていてくれた。その背後には、連れであるマールとヤンが肩を組んで俺を見てくる。痩せ型で薄幸の美少年であるマールは、その長い緑髪を捲し上げ、憂鬱げな目をしていた。すっとぼけた顔つきが特徴のヤンは、寝ぼけていたのか口端に涎の跡が残っている。


「おばさん、じゃあ俺達町外れまで行ってくるから」

「いつもありがとうね、フリ君」

「おい行こうぜ、ザラ」

「あ、うん」

「おっしゃ、ついて来い!」


 一目散に道路を突っ走るフリを、連れが二人追いかけた。慌てて母親に曖昧な挨拶をしてから、俺も後を追っていく。


「ああ、ザラかい。元気だねえ」

「ヤム婆…さん、こんにちは…」

「今日も遊びに行くのか。元気になったんだねぇ」

「うん、まぁ…」

「ハハ、あたしに話す前に、フリ達を追いなんせ。もうあんなにいってるよ」

「あ、あうん。じゃあ…」


 真向かいに一人で住むヤム婆に雑な挨拶をして、俺は三人の後を何とか追った。だが正直、あの三人は追いかけたくはなかった。引き返せるなら、今すぐ引き返したい。

 そんな気持ちを読んだのか、先頭を突っきるフリが振り返ってきた。彼の歳に似合わない鋭い眼差しに、俺は寒気を覚える。


 町外れの大木の影にやってきた俺達が息を整えていると、顔の横に手が伸びてきた。


「おい、ザラ」

「な、何…」

「お前さ、俺達と遊ぶの。嫌なのか?」

「いや嫌なんて…」

「嫌なんだろ」

「いやいや…」

「けっ、いつまでも病弱気取るな」

「フリの言う通りだよ。遊んでやるだけ、感謝して欲しいって話」

「そうそう。俺達本当に優しいよな」


 マールとヤンの相槌に、フリは嬉しそうだ。


「…うん、ありがと…」


 俺は何とか笑顔を作って、彼等に気に入ってもらう。正直胸糞悪いが、どうしようもなかった。


「おし、じゃあ今日も魔法の時間だぜ」


 この世界には『魔法』がある。それはもうゲームや漫画の世界のアレだ。原理はよく理解できないが、とにかく本物だ。八歳(二十三歳)の俺でも、偽物ではないと断言できた。


「俺さ、火魔法ができるようになったんだ」


 現に今、フリが右手に火を作っている。彼の手の平に浮かぶ円形の光から、小さな火が立っていた。


「流石フリ君。いいなぁ」

「お前らもさ、すぐ出来るって」

「僕は水系統だからさ。火は無理っぽい」

「ヤン、お前の家族風系統だろ」

「それがさ、確かめたら水系統らしくて」

「何だそれ」

「知らない。今度村長に聞いてみるらしいよ、パパとママ」

「僕が風だったんだ」

「マール、お前も系統違いなのかよ」


 三人が盛り上がる中、俺は一人蚊帳の外だ。


「おっ、ザラは何系統だっけ?」

「ちょっとフリ君」

「ああ、ごめんごめん」

「いや…」


 俺は魔法が使えないんだから。



 正直、転生して一週間ほどしてからは楽しみが待っていた。元の世界への未練が無かった訳じゃない。やりたいゲームや漫画の新作が頭には今も残っている。だが両親や周りの人間が使いこなす魔法の数々に、期待が膨らんだ。


(もしかして、俺は何か特別なんじゃないか?とか考えてたな…)


 間違いなく日野義政という存在は、この世界では異質だ。つまり何かしら、特典があったりするのでは?と考えるのは、罪じゃないと思う。


(よくある、チートって奴とか…馬鹿みたいに)


 何かしらの理由がなければ、俺が呼ばれたりはしないだろう。記憶には微塵も残っていないが、もしかしたら神様が俺にプレゼントしてくれたかも、と思っていた。


ー魔力無しじゃな、この子ー


 今でも思い出す。村長の罰が悪そうな顔が。魔法という未知の力が溢れる世界で、恩恵にあやかれる権利を持たない俺への、精一杯の憐れみだった。



「じゃあまたな」

「あ、ん…」

「へへ、明日ここで」

「今度は父ちゃんの杖持ってくるぜ!」


 すっかり夕暮れになった頃、俺はやっと解放される。今日もまた、何もしないで一日が無駄になった。何となしに人気のない裏手から家に向かい、玄関の戸を開く。


「…ただいま」

「お帰りザラ。ほらタオル」

「ありがとう、母さん」

「フフ、どういたしまして」


 温水で温められたタオルで顔を拭うと、母親であるジェニファーが笑った。特に美形とかそういう訳でも無いが、優しい顔つきである。腰から下げたエプロンで手を拭いてから、俺のタオルを受け取った彼女は、台所に消えていった。


「帰ったか、ザラ」

「ただいま父さん」

「今日、ジャガイモが獲れたぞ。ちょっと時期が早いが」


 ジャガイモは中世には到来していない、は野暮なのか。未だに拭えないこの世界への疑問を、何とか我慢して父親のリチャードに合わせた。


「じゃあ今日はジャガイモ料理だね」

「ああ。まだ干し肉があるから、合わせても良いな」

「お父さん。干し肉は頻繁に使うものでは無いわ」

「良いじゃないか、母さんも好きだろ?」


 リチャードとジェニファー。まだ半年しか面識がない二人だが、これだけは言える。


ザラという子は、幸せ者だ。


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