誕生会の招かれ客
バルバラッサ邸の大広間には昼から開かれる第4王女の12歳の誕生会を前に既に人で溢れていた。
歓談を楽しむ招待客のざわめきの中、視線を集めているは王子達だ。
第2王子コンレール、第3王子エトフォール、第5王子シャーリント、そして第7王子のアルフラインとこれだけの面子が王城以外で揃う機会は滅多にない。
特にアルフラインが公の場に姿を見せるのは珍しかった。だが他者を寄せ付けない琥珀色の瞳に対して、怯む事無く話しかけられる者は少ない。
「ねぇ。君の側姫はどこに行っちゃったのかな?」
「……前夜祭では私の妃が退屈しないよう持て成して貰い、礼をしなくてはね。けれど今日は私がエスコートするのでエトフォール兄上の助けは不要です」
「え~。もっと頼ってくれても良いんだよ。可愛い弟の初めての奥さんなんだし」
元々聞き耳を立てている臣下の存在など頓着していないアルフラインの纏う空気は冷めきっていたが、兄のエトフォールと体面してからは凍えるように冷たくなっていた。
「おっ、噂をすれば。君の主人はこっちだよ」
開放されている出入り口の付近で人を探す仕草をしていたルーシェを、エトフォールがいち早く見つけて手招く。
アルフラインに険の籠った眼差しを向けられてもどこ吹く風で、にこやかにしているエトフォールからは、やや距離を開けてルーシェは不機嫌そうな夫の横に立った。
「……誕生日の贈り物、喜んでくれたみたいです」
「…………そうか」
リムの可愛らしさを思い出して頬を緩ませていると、アルフラインがそっとルーシェの腰に手を添えてくる。
「レナイン様も喜んでおいででした。夕方には戻られるそうです」
「ありがとう。良かった」
小声で伝えると、今までとは打って変わった慈しむような瞳を向けられる。頬を仄かに染めてそれに応えていると、横から呆れたような非難が飛んでくる。
「ちょっと、僕もいるんだけど。2人だけの世界にならないでくれる」
「それなら姉上をお連れすれば良いでしょう」
「僕の奥さんはこういうとこ嫌いなの。アルフラインだって知っているでしょう」
こんな時でも、アルフラインは兄のエトフォールよりもルーシェに視線を向けてくる。
「ルーシェが来たの、兄上に先に気づかれるなんて」
一番始めに見つけたかったと耳元で囁かれた。拗ねたような口調に頬を染めると、アルフラインの雰囲気が和らぐ。
「今日のドレスも似合ってるよ」
「確かに君のは悪くないね。同じ色ばっかりでうんざりするけど」
エトフォールが肩を竦めた。ルーシェを飾っているは光沢あるワインレッドのイブニングドレスだ。落ち着いた色合いで、白い肌を引き立てている。
ルーシェに限らず会場の参加者は赤を含んだものを身に付けていた。
主役のリムが赤を好んでいるという理由でドレスコードに指定されているからだ。
徹底して赤が使われた屋敷は、目がちかちかして安らぎがない。
参加者も次々に到着していて賑わいを増す中、入り口付近が急に静まった。
高い背に赤褐色の髪と瞳。茜色の甲冑の上に羽織っているマントも赤褐色で、褐色の肌に良く似合っていた。
入り口から颯爽と広間を闊歩してくるその男に、さざ波のようにざわめきが広がる。
「……ブラッディエンペラーだ」
「どうしてダッカローゼンの君主がっ……」
ひそひそと本人とは目を合わせずに囁かれる。そんな卑屈な観衆は無視して、彼はルーシェの前で立ち止まった。
「よう。ルーシェ。また会ったな」
「………ゼットァークさん?」
名を呼ばれてにやりと嗤う。その貌は紛れもなく街で出会った商人だった。
久しぶりに更新しました。




