温かさに溺れて
夜に明かりを採るための魔道具が、仄かな橙に辺りを照らしていた。
寝台に潜っても、ルーシェよりひと回り大きいしなやかな腕に、すっぽり抱え込まれている。
背中に感じる体温は普段であれば何より安心出来る温かさなのだが、今は寒々しいばかりだった。
(もう、ずっと…………)
ルーシェの前に見えているは彼の腕だけで。自業自得とはいえ、目すら合わせてくれなかった。
「放してください、アルフライン様」
「……だめだよ。また君が消えたらとても耐えられそうにない」
当然のように拒否されて、逆に腕に込める力を強められて悲しくなる。
「とにかく君はこうして俺の腕の中にいて。……後はレナインが片付けるから」
だから何もしないで欲しいと冷ややかに囁かれてしまえば、身動きも取れなくなる。それでも気力を振り絞ってルーシェの気持ちを伝えた。
「……リム様に自分で贈り物を渡したいんです」
「ちゃんと解っているの? ここがどれほど危険で、君が俺にとってどんなに大事か」
わかっていると口先だけで伝えても信じては貰えないだろう。結局は甘えてばかりだから、いざこういう状況になってもどうして良いかわからない。
縮こまって身を固くしていると、嘆息に混じって訊ねられる。
「……リムに贈り物を送る前に、ルーシェは誕生日に欲しいものは出来た?」
「えっ? あっ……まだ決まってなくて。ごめんなさい」
何度かアルフラインに問われていたが、その度に明確な答えは返せずにいた。
「ゼッタァークさんにも聞かれましたが欲しいものは思い浮かばなくて」
「……ゼッタァーク?」
「お昼に会った商人の方の名前です」
ターバンを巻いた商人の名を伝えると、アルフラインは思慮深げに顎を引いた。
「………………まさかな。姉上もそこまで愚かでは」
「この名をご存知なのですか? アルフライン様?」
「いや。あまり困らせないで。……もう寝よう」
誤魔化すように誘われて目を閉じても、どうにも落ち着かなかった。
いつも寝る時はアルフラインから頬を寄せてくるから、物足りないのだと気付いてしまえば只々恥ずかしい。溢れ出る想いを正直に吐露した。
「このままじゃ眠れない。…………寂しい」
返事はないままだった。そっと彼の手の上に掌を重ねると、微かにたじろぐ気配がして、ひと呼吸おいて身体がぐるりと反転した。
薄明かりの中で、じっとルーシェを見つめてくる綺麗な琥珀色の瞳には、まだ怒りの色が宿っていた。
「…………目を合わせたら、許してしまうから嫌だったんだ」
けれどその目を細めて、ゆっくりと大事な存在を慈しむように頬を擦り寄せてくる。
「愛している。ルーシェ。君がいなくなったら生きていけない」
私もと、返す言葉を飲み込む。
より強固になってしまった優しい檻に捕えられるのだとしても、彼の与えてくれる温かさに溺れていたかった。
読み手モードになったまま帰って来れずにいましたがやっと少し書き手側に戻ってきました。
更新止まってすみません。また書いていけたらなっと思います。




