砂塵と共に
バルバラッサ邸に用があるのだと嘘をついて、ゼッタァークに道案内を頼む。
彼は知った場所だと言ってすぐに承知してくれた。
「アクアブルーのまんまの方が好みなのにな」
町外れから中心部に近づくに連れ、藍色に戻った髪をみて残念そうにしている。
「……水色だと目立ち過ぎて困るんですよ」
「藍色でも目立ちまくってるけどな」
街中ではさすがに降ろして貰い自分の足で歩いていたが、2人して泥と煤だらけだった。そのせいかすれ違う人が皆、振り返って見てくる。
建ち並ぶ家の隙間から差し込む日は傾き始め、長い影を諸処かに落としていた。
そんなバルバラッサ邸までの道中で、遠くの方から砂塵をあげて黒馬が駆けて来た。
その背に跨った人物の、光を弾く人魚の宝石を目に捉えて、声をあげるより早く、ぶわっと風が巻き上がる。
気がつけばルーシェも馬の背に乗せられていた。
手綱を引いて馬を走らせたまま、背中から覆うように抱き締められる。
「っ無事で良かった……」
「……ごめんなさい。アルフライン様」
「謝ってくれても駄目だよ…………心配したんだ。本当に。……許せそうにない」
口調は穏やかだが明確に怒りを伝えられる。回される腕の強さからも頑なにそれを感じた。
「しばらく黙って捕まってて。振り落とされないでね」
馬を加速させながら障害物を飛び越えて、右に左に細い路地を通り抜ける。
沿道に沿って進んだと思えば、急に逆走をしたりと荒い乗馬を繰り返し絶えまなく、馬を走らせる。
「……やっと撒いたか」
手網を捌いて方向を変えたアルフラインが、やがて小さく息を吐いた。
それ以降は一言も話さず遠回りをしながら、沈黙と共にバルバラッサ邸まで連れ戻される。
入口の付近で、同じように馬に乗ったヴァオスが待っていた。
「見つかったのだな。……良かった」
手分けをして探してくれていたらしい。安堵の色を浮かべた深緑の目に罪悪感が混みあげてくる。
「……ルーシェを1人で屋敷から出したのは明らかにおまえの失態だ、ヴァオス。もっとしっかり守らないと、また失う事になるよ」
だがアルフラインは冷たく言い放って、視線さえ彼に向けなかった。
「っ。ヴァオスさんは悪くなくて!! 私が勝手に屋敷を飛び出したんです」
黒馬を降りる最中も無言で、目も合わせてくれない。
その割に手はしっかり繋がれていて、彼から離れるのを許さない雰囲気のまま、ルーシェは屋敷内に連行された。
黒馬も格好いいですよね。白馬も栗毛も好きです。




