贈り物探し
朝を報せる魔導鐘が鳴り響く。
魔力を街中の魔導具に供給する鐘の音は、街の中心にある時計塔から聞こえていた。
ターンメルダでも変わらぬ音に反応して、ルーシェは目を覚ます。
昨夜は結局、アルフラインを残してダンスホールから逃げるようにバルバラッサ邸に戻っていた。
何の役に立っていない歯痒さに、寝台で枕を抱えて沈み込む。
寝起きのまま、ぼやぁとしているとドアをノックされた。エリーが朝食が乗ったワゴンを運んでくる。
「おはようございますルーシェ様。お着替えをしたら、お食事にしましょう」
鳶色の髪をツインテールにしてるエリーの明るい声に励まされて身支度を整え、独りで朝食も済ませる。
普段はアルフラインと一緒に食べているため、味気なく感じるのはどうしようもなかった。
さて、これからどうするかと考えていると、更にドアがノックされる。
アルフラインかと扉を開けてしまったが違っていた。そこには何となく見覚えがある3人が立っていた。
「えっと……? どうしたのですか?」
前夜祭の時にテレサの後ろを付いていた令嬢達のはずだが、貴族の娘にしては変わった格好をしていた。
ワンピースのように足が見える軽装なのだ。
「ねぇ貴方、私達と一緒にリム様への贈り物を探しに行かなくて?」
「貴方みたいな余所者を誘ってあげるだけ……いえ、誘って差し上げてよ」
「リム様の……贈り物ですか?」
急に何故という疑問がとりあえず第一だった。昨日まで存在を無視されていたので尚更である。
「りっリム様は変わった嗜好をお持ちで、平民が好むようなものがお好きなの。それなら私達より貴方の方が解るじゃない」
「そうそう。私達とっても困ってますの」
この令嬢達が知って使っている訳ではないだろうが、ルーシェは困っている人を放って置けない質だった。
誰かを助けるのに理由はいらないからだ。
「それに今日はリム様が魔導鐘にお祈りをする日で、そこに行けばリム様にお会い出来るわよ」
彼女達が街の中心の時計塔まで案内してくれるという。それはルーシェにとって魅力的な誘いだった。
「駄目ですぅルーシェ様。そんな怪しいお話。何かあったらアルフライン様がどんなに心配されるか」
後ろに控えていたエリーが、心境を汲み取って必死に止めようとしていた。ルーシェだってそれは解ってはいる。
「メイドの分際で主に意見するなんて、躾がなっていないわね。あら、そのメイドって貴方と同じくらいの背格好ね」
街に繰り出て品物を探すためドレスだと動き辛く、彼女達はワンピースを着ているのだそうだ。
「そのメイドの服を貴方が着ればちょうど良いわ」
「ヴァオス様はどうするんですか。お外でこの部屋を護っていらっしゃるんですようぅ」
「…………エリー、ごめん。洋服貸してくれるかな。変わりに私の服を着てここに居てくれればヴァオスさんは気づかないと思う」
贈り物があればリムも喜んでくれるかもしれない。
彼女達に不信感を持っているが、リムの姿を確認してその誕生日の為の贈り物を探すだけだ。
自分の身の安心だけを考えて欲しいと言っていたアルフラインの顔が過ぎる。
いつもの甘い笑顔も勝手に浮かんできて、必死で頭から追い出した。
危険な事はしないと心の中で言い訳して、エリーが持ってきていた私服に袖を通す。
ルーシェはとにかく今の状況を変えたかった。陰ながら役立つ存在になりたい。
それはリムに近づけないターンホルダの件であり、甘やかされたままのアルフラインとの関係でもあった。
そんなに簡単に人を信用してはいけません。




