黄色い薔薇の紋章
コンレール王子の保有するホールは、煌びやかなシャンデリアが天井を飾り、大理石の床がそれを反射する。眩い程に輝いた空間だった。
黒いベルベット布に金糸で刺繍が施された正装をしているアルフラインは、夜に溶け込む印象で普段とはまた違った格好良さがあった。
そのアルフラインの腕に手を回しているルーシェは、青のスリットドレスで、肩と腰回りがすっきりしたデザインになっている。
サファイアを使ったアクセサリーを付け、髪もアップにあげていて大人っぽい雰囲気を醸し出していた。
二人が揃いの紋章を付け、ダンスホールに入場すると雰囲気が一層華やかになる。
「大理石って滑るんですね。ダンスを踊る時、転んでしまいそうで怖いです。あんな大きなシャンデリアって重すぎて落ちたりはしないんでしょうか?」
ただ羨望混じりのざわめきは、その場に感動しているルーシェの耳には届いていなかった。
首を上下に忙しくしているルーシェの額にチュと音が鳴るだけの口付けをされる。
「落ち着いて。いつも通りの君なら、どんなところでも大丈夫だから。今日のドレスも周りに見せたくないくらい良く似合ってる」
わざわざ背後から包み込むようにして耳元で囁いてくるから、反射的に頬を染めてしまう。
そんなルーシェの周囲の注目を寄せ付けない態度にアルフラインの表情が僅かに緩む。
けれども待ち構えていたかのように姿を現した姉をその目に捉えて、すぐに凍えた気配をまとった。
「アルフライン!! 待っていましたよ」
ワインレッドのレースをあしらった朱色のイブニングドレスのテレサは、後ろに3人の女性を連れていた。
ルーシェが挨拶をしても無視され、がやがやとアルフラインを囲んで行ってしまう。
テレサのルーシェに対する態度はなんとも徹底していて、清々しいくらいだった。
(アルフライン様とは踊れそうにないなぁ……)
レナインから舞踏会の特訓の話を持ちかけられた時には、淡い期待もしていた。
努力の甲斐もあってそれなりにダンスは上達したのだが、この状況では諦めるしかない。
寂しい気持ち切り替えるためにケータリングスペースに向かおうと、辺りを見回していた時だった。
「ねぇあいつには置き去りにされちゃったんでしょ? 僕が代わりに踊ってあげるよ」
そうルーシェの前に立ち塞がった胸には、黄色い薔薇の紋章が輝いていた。
「あの。……私は」
「あっ。ほら次の曲が始まっちゃうよ」
結構ですと断るより前にさり気なく強引に手を取られる。拒絶されるなど微塵も考えていないようだった。
そのままホールの中心に引っ張り出される。
「そうそう。上手。うん。いいね」
(この人すごく踊りやすい……)
ルーシェをリードしても余裕そうだ。自信を持っているのは伊達ではないのだろう。
撫で付けた金髪がステップで揺れる度にシャンデリアの光を弾く。翡翠色の瞳に目を合わせていないと、軸がずれて本当に転んでしまいそうだった。
そのまま数曲を勢いのまま付き合わされて、疲れてきたところで手首を掴まれてケータリングスペースまで連れていかれる。
身の丈はアルフラインよりやや低い彼が右手を上げただけで、飲み物を2つボーイが運んできた。
その1つをルーシェに渡して、もう片方に口を付けている。
「久しぶりに楽しめたよ。下手相手は下手なりに良いもんなんだね」
そう下がった目尻を楽しげに細めて、果実水を飲み干す。
突然現れた正体不明な誰かは、偉そうではあるが悪い人ではなさそうだった。
キャラが増えてきました。




