第3王女テレサ
シンボルとして真ん中に建つ時計塔を中心に、幾つかの区画へ別れて発展した街、ターンメルダを含むシンダルム王国東部。それがターンメルダ領だった。
ソダージュ共和国やダッカローゼン帝国との国境がある要所である。
現在は第2王子コンレール・リンク・ルギナスが領主をしていて、補佐を第3王子のエトフォール・リンク・ルギナスが担っていた。
2人は同じ母親から産まれた兄弟で、その母は現在の正后であり、コンレールは次期シンダルム国王に最も近い人物と称されている。
その彼らが住む貴族街区の、豪奢な一角であるバルバラッサ邸にルーシェ達が着いたのは、誕生会が行われる3日前の夕暮れだった。
明日の夜には前夜祭が開かれ、その後1日空けて誕生会が日中から行われる予定となっていた。
「凄い立派なお屋敷なんですね」
「バルバラッサ公爵は正后の弟君になり、かなりの発言力を持っている実力者です」
ルーシェが感心していると、レナインが小声で教えてくれる。
前夜祭や誕生会を前にして、既にターンメルダには所々の有力者が集まっている。
その中でも主催者のバルバラッサ公爵が特別に招待した、極限られた者だけがその邸宅に泊まっているらしかった。
「久しいわね。アルフライン」
玄関で待っていると数人が近づいてきて、ルーシェの隣に立つアルフラインに声をかける。
「……ご無沙汰しております。姉上」
その中の1人がテレサ・ハーク・バルバラッサだった。バルバラッサ公爵の次男の妻で、シンダルム王国の第3王女だ。
金の巻き髪に緑の瞳をしていて、それなりの美人であったが、それ以上に華美で真っ赤なドレスや身に付けた宝石に目が行ってしまう。
紋章も赤いカーネーションだった。
「その子が貴方が迎えたっていう側妃かしら? 地味な娘ね。メアリーと比べてどこが良かったのか全く理解出来ないわ」
「ルーシェ・ハーク・ルギナスと申します。真に未熟者ながらご招待に応じて参りました」
スカートを軽く持ち上げ、膝を軽く曲げて丁寧に挨拶をする。
「……厚かましいこと。お前のような身分の輩が本来敷居を跨げる屋敷ではないのよ。心に留めておいてちょうだい」
それ以降ルーシェには見向きもせず、テレサの眼差しはアルフラインにのみ向けられている。
「アルフライン、お前はもっと淑女を見る目を養いなさい。今回は良い機会ですよ」
「残念ながら姉上。俺は彼女以外を妃に娶るつまりはありません」
「まぁ。……以前紹介したメアリーが気に入らなくても、他の淑女に会って見れば気が変わるに違いありません。ささっ、こちらにいらっしゃい」
そう半ば強引に一群を引き連れてアルフラインを連れて行ってしまう。
「ルーシェ……先に部屋へ行って休んでいてくれ」
連れ去られ際にアルフラインが心配そうな目をして言い残していく。
ルーシェがぽかんと半分呆気に取られていると、レナインが嘆息をついた。
「お部屋がどこか伺って参ります。さすがに用意はされているはずですから」
招いているのはあくまであちら側なのですからと、強気を崩さないレナインが頼もしかった。
ルーシェが案内されたのは屋敷の端の部屋だった。アルフラインとも別室になっている。末席のうえ夫妻を別にするなど無礼にも程があると、レナインは憮然としながら彼の主を追って立ち去った。
「ここでも立派過ぎるくらいだけど……」
元々ソダージュ共和国の裕福とは言え漁師の娘で、メザホルン城でも従者用の部屋で生活していた時もあるくらいだ。
場違いというテレサの指摘はあながち間違いではなく、ルーシェは今更だとあまり気に留めていなかった。
それよりも無表情なままだったアルフラインが気がかりだった。相当我慢をしているようにみえて。
彼の部屋を訪ねても不在で、どこにいるかは教えて貰えなかった。このままだと前夜祭までは会えなさそうだ。
(アルフライン様が側にいないのはいつ以来かな……)
それを寂しいと感じてしまうから、何時までも頼って貰えないのだと、湧き上がった寂寥感に蓋をする。
幸い旅の疲れもあって、寝台にで横になっていれば、すぐに眠りへ落ちていった。
悪役令嬢的な人です。
結構書いていて楽しいです。




