特訓の途中で
大丈夫と断言した以上、弱音は吐けないが特訓は想像以上だった。
ダンスホールにもなっている広間で午前中みっちり扱かれたルーシェは、昼過ぎになっても動けずその場で座り込んでいた。
更に午後からは作法と姿勢の指導がある。
へばっている場合ではなかった。
もう少しだけと床にへたり込んでいると、ふわっと身体が中に浮く。
「……歩けなくなるくらいの無理を、して欲しくないんだけど」
アルフラインが無表情でルーシェを横抱きにしていて、直ぐに広間から連れさらわれた。
「っ。どこに!?」
「……お昼。庭園に用意して貰ったから」
もう立てるという抗議は受け入れて貰えず、庭園に着くまで抱っこされたままだった。
アルフラインは周りの目など意に介さず、堂々としている。まるで彼の世界にはルーシェだけしか存在していないようだ。
だが、そっと噴水近くの中のベンチに降ろされるまで、ルーシェは誰かとすれ違うのが恥ずかして仕方なかった。
「これ食べて」
「あっ……ありがとうございます」
「どういたしまして?」
居たせり尽くせりにサンドウォッチまで差し出されたが、当の本人は頬杖をついてルーシェを眺めているだけだ。
「あの……アルフライン様は食べないんですか?」
「後で食べるよ。あんまり君と居られる時間が少ないから、食べているとこ目に焼き付けておきたくて」
時間制限があるのは確かだか、それではアルフラインの方が身体を壊してしまう。多忙な公務をこの為に調整しているのは明らかだった。
「はい。はんぶんこにしましょう?」
サンドウォッチを2つに割ると片方をアルフラインに渡す。
虚をつかれたような顔をしたアルフラインは、ややあって破顔し、そのサンドウォッチを口に含んだ。
「美味しい。やっぱりルーシェがいないと駄目かな………君の頑張りを台無しにしても置いて行くつもりだったのに。数週間も会えないのは俺が耐えられそうにない」
ターンメルダはシンダルム王国の東部に位置する街で、メザホルンから移動も含めるとそれくらいの旅になると予想されていた。
しかし特訓している間に、置き去りにされる計画になっていたとは。
「……俺と姉上はあまり仲が良くないんだ。何を仕掛けて来るか想像出来ない。本当はそんなに所に君を連れて行くべきじゃないのにね」
姉を語るアルフラインの眼差しは険しい。前に家族としての付き合いはないと話していたくらいだから余程なのだろう。
ルーシェは食べる手を止めて、彼の話を聞き入っていた。
「もう7年も会っていないけどリムも12歳になる。シンダルムでは成人と見なされる歳で……放って置けない」
だから滅多に参加しない誕生会に赴く必要があるのだと、感情の籠らない声で淡々と告げられる。
「そうでなければわざわざ君が着飾った姿を、他の奴らに見せたくなんてないんだけどね」
真剣そうな表情のまま、おかしな台詞が混ざる。
それでようやく、食べるのを忘れていたサンドウォッチを慌てて飲み込んだのだった。
はんぶんこが好きです。おっそわけも好きです。




