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月の明かりの密告

陽の明かりの祝音の裏返し。

アルフラインがルーシェこ髪の色が水色だと知っていた理由の話です。

本編に混ぜてもいいかなとは思うのですが、とりあえず番外編に。

――ゴォーン。

日付の変わりを告げる深夜の鐘の音に、アルフラインははっとして目を開けた。

魔導鐘の魔力はもう持たないはずだが、その音はいつも通りの響だった。


額に乗った布を外して上半身を起こす。熱は下がっていて、体調は問題なかった。

「……ずっとここに居たのかな? そんな恰好で寝ていると今度は君が風邪を引いてしまうよ」

寝台の脇の椅子に腰掛けたままルーシェが眠っていた。

その身体に寝台の毛布を掛けてから、窓辺に移動してカーテンを開く。


雨はすっかりあがり、夜空には星が瞬き月が昇っていた。

「月が明るいな…」

外の状況を確認するには都合が良い。ルーシェも眠っているのだし月に身を暴かれても仕方がないと瞳を揺らした。

先程の魔導鐘の音で魔導具にも魔力が戻り、街の外灯は点々と光っている。

見渡してみてもレナインの指揮が効いてるのか、大雨の被害は少なく明日に滞りはなさそうだった。


「…………それにしても魔導鐘は誰が?」

王宮からの支援など依頼してもくる訳がないし、借りを作りたくないのはレナインも同じ筈だ。かといって、今までメザホルンにはアルフラインの他に高魔力保有者はいなかった。


はっと思い当たって、寝台の横で寝ているルーシェに視線を向ける。

「……っ!!」

その姿に息を呑んで、彼女を起こさないようにゆっくりと寝台に戻る。


窓から燦々と月明かりが照らして。

――髪は綺麗なアクアブルーに染まっていた。


ミサンガだけで魔導鐘をひと月は賄える魔力だ。その髪の持ち主は桁違いの魔力だろうと推定されていた。


「……月明かりに反応するのかな?」

アルフラインも苦手にしているそれを、ルーシェも嫌っている節はあった。


「疲れさせてしまったな。……ありがとう」

ずっと隠していた姿をこうして晒しているのは、付きっきりでアルフラインの看病をしていたからだ。

秘め事を忘れてまで側にいてくれた結果だと思えば、愛おしさが募る


例え100人の優秀な魔導士と引き換えと言われても替えられるものは無い。

思い詰めているのは故郷が恋しいのかと、それを物で埋め合わせようとした。

そんなアルフラインに対して、もう家族だから無茶をするなと怒ってくれるような存在は、ルーシェしかいない。


「君の髪の色は2人だけの秘密にしておくよ」

見惚れた水色に再び会えたのは嬉しいが、アルフラインは複雑な気分だった。


魔導鐘の魔力はアルフラインが賄えば済む話だ。魔力に縛られるのは独りで充分だった。

愛したのは彼女自身であって、魔力の強さに惹かれた訳では無い。


むしろ何も出来ない方が喜ばしいくらいだ。

その方がアルフラインに頼ってくれるだろうから。

いっそ彼女の世界が自分だけになればと望むのは無理だと知っているから、せめて誰かに奪われてしまわないように普通でいて欲しかった。


朝になれば元通りの藍色になるのだろうかと、密やかに朝日を待ち侘びる。


「うにゃ。……パンケーキ」

そうして過ごしていると幸せそうな寝言が可愛らしい唇から時おり漏れる。

「うーん。綿菓子……むにゃむにゃ」

「ふふ……どんな夢を観てるのかな?」

ルーシェは女の子らしく甘い物に目がない。

今度料理番に頼んでパンケーキ作って貰ったら喜ぶだろうか。


早く目を覚まして欲しい。

だけどこうして幸せそうに眠っている姿もずっと観ていたい。


月の明るい宵闇で飽かず、アルフラインはルーシェが起きるまでそうして彼女を眺めていた。



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