Rhapsody in blue for love with you ~君と奏でる愛のための憂鬱な狂想曲~ 8曲目
ラプソディはこれでおしまいです。
あと1話、番外編があります。
人を愛するのに資格はいらないんじゃないかなとう肯定を彼に。
5日間はルーシェに会わないと決めた。
王妃の間を整え円卓の会議室を改装するのを秘密裏に行うためには、彼女を最上階に通せない。
充分な時間を持って、ルーシェに似合うドレスも用意したかった。
それに少し離れてみれば、浮ついた気持ちが落ち着くかも知れないと淡い期待もしたのだ。
しかし自分で決意したのにも関わらず、会えない時間を非常に長く感じただけだった。
頭を冷やすためにベランダで風に当たりなから、今朝方届いたアルフラインの紋章と対になる妃の紋章に触れる。
騙すように紋章を創って、断られたらどうしようという不安も湧いてくる。
だが、それならそれで次の手を打つだけだと直ぐに思い直った。
あまりの執着の深さに自嘲していると、ノックと共に扉が開かれる。
髪こそ明るい夜のような藍色だが、彼女の印象は澄んだ水色だ。
そうして選んだ理想のままにドレスアップをしたルーシェが、目の前で佇んでいた。
事前に聞き及んだのか首まで真っ赤にして俯いている。
(……まずい)
可愛い過ぎて抱き締めたくなる衝動をなんとか抑えこむ。婚姻の誓いをする前なのだ。
ミサンガ一点を睨むように凝視していたから、顔を見たくなってそのミサンガを持ち上げた。
薄く化粧を施した恥ずかしそうに頬を染める表情に、視線を釘付けにされる。
「君がこの世界にいてくれて良かった」
溜まった感情が溢れて、自然と口を突いていた。
―――あぁそうか。
例え資格がなくても。謗られ詰られたとしても。
この踏み荒らされ枯れ果てた世界に、たったひとつ奇跡のように咲いた花みたいなこの気持ちを――
―――愛と。
―――愛しいと言うのか。
(とっくの昔に失ったはずなのに。だけど俺は……ルーシェを愛してしまっている)
ルーシェからも恋をしていると告られ、満たされた心地で婚姻の意思を口にする。
昂る気を鎮める為に、いつもの様にミサンガに口付ける。
君を愛しているんだ。全身全霊をかけて、愛している。
ひと目みた、あの嵐の海からずっと
「…………私は人魚じゃ」
「君が違うならっ。……この気持ちは…………間違いなのか?」
だから君にだけはこの想いを否定されたくないんだ。
君が人魚であってもなくても、髪の色が違っていても。君だから愛しいんだ。
「俺の妃になって欲しい。ルーシェ・カユン」
膝をついてルーシェの手を取り、ありったけの愛を込めて指先に口付ける。
そうして彼女に初めて直接触れる唇は、狂おしい程の愛おしさに打ち震えていた。




