Rhapsody in blue for love with you ~君と奏でる愛のための憂鬱な狂想曲~ 5曲目
人を愛するのに資格がいるのかな?
レナインは一途さが報われないキャラですね。
当然といえば当然だが住む家がないというルーシェを空いている客間に案内して、執務室に戻った後レナインを呼びつけた。
頬を赤く腫らしている。誰に殴られたかもその理由も察しは付いた。
「レナイン。ルーシェに百合の紋章を贈りたい。意味はわかるよね? ……色々と手配を頼む」
王宮では他国の平民など気でも触れたのかと言われかねないが、彼等が見繕ってくる候補から妃を選ぶ事の方がありえない。
会ったばかりだが、少なくても彼女以外に隣にいて欲しい人物などいないのだ。
「…………ですが彼女はソダージュ共和国に帰りたいと」
城の情報はレナインに集まってくる。既に浜で倒れていた娘の事もその希望も知っていた。
「どうせ陸からは戻れない。水路は交易船の検疫を強化して。俺が乗っていた船は回収しておいてくれる」
折角再会出来たのに側から離れていくなんて、許せる訳がない。
どんな手を使っても、此処に留まっていて欲しかった。
「ルーシェを海に近づけさせないで。出来れば城から出て欲しくないんだけど……頼めるかな?」
「……仰せの通りに」
眼鏡の奥に僅かな逡巡を写した後、腰を曲げて深々と敬礼される。
「彼女を逃がしたら、どうなるか知りたいか?」
ミサンガと同じ色の瞳がアルフラインの前から消えてしまったら、自分でもどうなるか分からない。今度こそ本当に生きている事に絶望するのは止められないだろう。
「いいえ。……ルーシェ様には申し訳ないですが、貴方が望むのであれば私はどんな悪役にでもなるつもりです」
頭をあげたレナインは何かが吹っ切れた事務的な顔をしていたが、躊躇いがちにひとつだけ聞き返される。
「………ルーシェ様を……愛しておられるのですか?」
「さぁ。…………どうだろうな?」
愛など。
魔力が強いだけの容物のような、母の笑顔さえ守れなかった子供にそんなものを語る資格があるのだろうか?
考えた事もなかった問に首を傾げた。
その拍子に目に入った、澄んだ色をしているミサンガを引き寄せて口付ける。
荒んだ気持ちが不思議と落ち着くので、ほとんど癖になっていた。
曖昧な答えでも気は済んだのか、足速に去ろうとするレナインの背に声をかける。
「頬の痣……サイフォスだろう? すまなかったな……」
「……おかげで目が覚めましたので」
慇懃に扉を閉める手を止めないまま、そう呟いてレナインは去っていった。




