Rhapsody in blue for love with you ~君と奏でる愛のための憂鬱な狂想曲~ 3曲目
サイフォスは半ば、父親代わりみたいな関係ですね。
(……ここは?)
そこは見慣れた天井だった。否、赤く染まっていない状態で眺めるのは初めてだった。
「よう、目が覚めたかよ」
「…………サイフォス」
横を見れば仏頂面をしたサイフォスが座っていた。
「俺はどうしてここに?」
あの子がいなくても視界から血の色は消えている。まるで嵐の海で洗い流されてしまったかのようだ。
「浜に打ち上げられた小船の中で、気を失ってたのを俺が発見した」
「…………そう」
サイフォスの姿が黒づくめだ。黒だと厳つい顔が更に怖くなるものなのだと感心する。
「……どういう奇跡か知らねぇが、おまえが生きてて俺は良かった。そういう奴もいるってのは覚えておけっ」
心配しているわけではないと。ぶっきらぼうな言い様は長い付き合いであるサイフォスなりの気遣いだった。
「…………解ってる。だから今まで生きてきたんだから」
衝動的とはいえ、あの時の行為は愚かでしかなかった。二度は繰り返さないだろう。
ただし、また振り出しに戻されるだけだ。道具のように生きて行くだけ。
「……サイフォス。…………小船に女の子は乗ってなかった?」
こんな夢のような質問を縋るようにするのは、多分未練があるからだろう。
「女の子? いや居なかったぜ。おまえの倒れてた周りに、これが散らばってたけどな」
サイフォスが寝台に向かって放り投げてきたのは、アクアブルーの色をした髪の束だった。あの子の色だった。
「っこれは……」
「レナインに調べさせた。それは人魚の髪か? ひと房で俺の魔力の10年分だってよ。えれぇもんだな」
「人魚……そうだね。あの子は人魚だった」
種族の特徴さえあの時は気が動転して忘れていたが、水色の髪をしていたのだから。
そうではなければ、あの嵐の海で泳いだりするのは不可能だろう。
マレンカレンの人魚が何かの戯れにアルフラインを助けて、髪だけ残して帰ってしまったという事か。
寂寥感は激しく胸の内を駆け巡っていたが、嵐の中にあるマレンカレンではどうにもならない。
そうアルフラインが結論づけて、また全てを諦めかけた時だった。
「そういやぁ、近くの浜辺に妙な野郎ならいたぞ。小船から真っ直ぐ足跡が伸びてたから、そいつも乗ってたんじゃないか?」
「…………その人、どこっ!?」
何か知っているかもしれないと、サイフォスを問い詰める勢いで聞き返す。
「とりあえず不法入国だったんでな。牢に突っ込んでおいた。これを首にしてたんだが覚えがあるか?」
記憶にはないものだった。あの嵐で鮮明に覚えているのは助けてくれた女の子の容姿だけだ。
「ダッカローゼンの炎武のブレスレットだ。かなり屈強な男が付けるもんなんだが、捕まえた奴は細腰でな。とてもそうは見えねぇんだよなぁ」
そうかりかりと頬を掻く。
とにかく会ってみたいと、サイフォスの報告も半ばに寝台から起き上がった。




