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½人魚は¼人狼で王子の恋の罠に捕まりました  作者: まきゆ
邂逅を果たした王子様が甘ったるく溺愛してきますが、私は本物人魚の身代わり婚約者みたいです。それでも貴方に恋をしてしまったのを後悔はしていません
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投獄!?

「たっはぁ~。前よりもっと悪くなっちゃった」


目が覚めたら牢獄だった。

どうしてこんな状況なのか。何とか思い出そうと眉を寄せる。


客船を追うために力を使い続け、意識も朦朧となった頃、客船の目指す先にうっすらと陸が霞んで見えた。既に日は高く昇って、嵐は姿形もない晴天だった。

軋みをあげながら損傷の激しい巨体を港に碇泊する客船を横目に、少し離れた浜辺に小船を着けた。


助けを呼びに行くには足先より伸びた長い髪は邪魔だったので、魚を捌くための包丁でバッサリ切って、客船に向かって歩き始めたのまでは覚えている。


それが限界だった。


とにかく眠くて眠くて。


力を使い過ぎると睡魔に襲われる上に一睡もせず嵐の海を漂っていたのだ。

浜辺で気を失うように眠ってしまったのだろう。


「だけどなんで牢屋に入れられているのっっ?!」

悪い事はしていない筈だし、このままでは自由に動けない。

小船に寝かせてきた人は無事に誰かに気づいて、助けて貰えただろうか。

客船を追って漂流している間、誰かが側に居るというのがルーシェの支えになっていた。

急に独りになった上に身の覚えのない投獄で、さすがに不安が込み上げてくる。


「……あれ? ないっ!!」

落ち着くために首元に手を伸ばすと、チョーカーが外されていた。大して詰め込んでもいなかった鞄もなくなっているが、そっちはこの際どうでもいい。


母親の形見だと幼い時に渡されてから、肌身離さず着けていた大事なチョーカー。

「 散々な状態に追い討ちだわ。これはかなり落ち込むなぁ」

鉄格子の中という閉鎖的な環境も、暗澹とした気持ちに拍車をかける。

「……もう。絶対返して貰うんだからっ」

それでも意地で、気合いを入れて腕を振り上げる。

そうは言うものの、今のルーシェに出来るのは現状把握くらいだった。


チョーカーと鞄以外になくなっている持ち物はない。

薄い暗い独房では、日夜の判断も難しく、時間がどれくらい経っているのかさえ不明だった。


「ここ何処なんだろう?」


鉄格子越しに廊下を挟んで向正面も独房が広がっているが人気はなかった。

硬い側面の壁を叩いてみるとゴツゴツした鈍い音が返る。


「ソダージュでは見ない造りだなぁ……」

知らない素材が使われているのだとしたら、かなり遠くに来てしまったのだろう。

それでもルーシェが暮らしていたソダージュ共和国は漁港が多い国なので、海に出られれば何とか戻れる可能性はある。


「ソダージュに帰りたい……のかな……」

家に戻ればまた婚姻を進められるだろう。

漁師と言ってもルーシェの家族は漁港の元締をしていて、街でもかなり裕福な家庭だった。父が探した嫁ぎ先の中には貴族との縁談も含まれていたくらいだ。


「あの家にずっと居られないのは分かってるけど、もうちょっとくらい……やっぱ私を早く結婚させたいのかな」

ルーシェは貰い子だった。両親にも3人の兄とも全く似ていない。


産みの親の手掛かりはチョーカーくらいしかなく、置き去りにされた子供だ。


それでも元々女の子が欲しかったカユン夫妻も兄達もルーシェを可愛がってくれていた筈だ。

ただ、母親が亡くなってからはルーシェが嫁いで幸せに暮らすまで死ねないという使命感に駆られている父親は、今回が破談になっても諦めてはくれないだろう。


相手を自分で探したいという願いも叶いそうにない。


「……早く、取り戻さなきゃ」

泣き出してしまいそうな状況で、心の支えであるチョーカーもないと心細さに負けそうだ。

立って気力もいるのも辛くなって、そのまま膝を抱えて床に座り込む。


「………あの人、大丈夫だったかな」

何とか元気を出そうと楽しかった思い起こそうとしても、少し前の記憶がこびりついて、それしか思い浮かばなかった。


眠さのあまり顔や身なりも曖昧で、正直もう一度会えても気付かないだろう。それでも心細い時に一緒だったのだ。


目を覚ましたら名前くらい聞きたかった。


それなのに結果的には船に置いて来てしまった。


座ったままでぼんやりと天井を眺めていると、遠くの方から足音が響いてくる。


徐々に大きくなるそれは、ルーシェの独房の前でピタリと止まり、鉄格子の鍵を開けた。


「よう。こんな所に放りこんで悪かったな。お前さんを連れて来いって呼ばれたんで、さっさと出てくれるか」

ぶっきらぼうな口調だが有無を言わせない強引さに促されて、独房の外に出る。

小柄なルーシェより頭2つ分は高い、声の主をじっと見上げる。相手も確かめるような鋭い目つきでルーシェを見据えていた。磨き上げられた体躯からは全く隙が感じられなかった。


しばらく無言で立ち止まったまま、ルーシェを検分していた男は、ゆっくりと踵を返して来た道を戻り始める。

付いて来いという合図だろう。振り返って目だけで急かされる。ルーシェは慌てて後を追った。

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