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君 死にたもうことなかれ side レナイン

1話の前。レナイン視点。

自死の描写もあるので暗いと思います。

苦手な方はご注意を。

タイトルは1度思い浮かぶとこれしかないという感じに……すみません。

「本当にテレサ様はリリティア様には似ていらっしゃらないな……」

アルフラインの姉である彼女の夫の近親の娘とやらは、甲高い声で退席した王子を馬騰し続け、その場を納めるのは一苦労だった。

招待した訳でもないのに船に乗り込み、我が物顔で好き勝手に振る舞う姿は、婚姻候補として白羽の矢を立てられたアルフラインでなくても辟易する。


「国王の船上祭など録なものではないな……王都で肥え太っていればよいものを」

王を好意的に思っていないレナインにとって今回の一件は失策でしかない。

威厳を示すなら、内輪揉めしている自分の息子達をまとめる方が先だろう。

かなり高齢で歳先は長くないと囁かれているのだから。

おまけに王都から贅沢に慣れた貴族連中まで船と共に連れ込んでくれたため、レナインはその対応に専念させられる羽目になっていた。


「アルフライン様は……操舵室か?」

嵐による進路の逸脱のせいで魔力の補充が必要なのは把握されているだろう。

メザホルンに来てからも民のためと欠かしたことがなかった。


自然が多く地形的に攻め難いメザホルンは陸の要塞と呼ばれている。

王都と離れ交通の便が悪いため空位だったその領主の座に、半ば謀反を起こす様な強引さでアルフラインに就かせた。

宰相としてレナインが補佐に入る時もあるが、基本的にアルフラインは付け入るような隙はない。

それでも陰謀渦巻く王都の介入を完全に防ぐのは難しかった。


「アルフライン様。此方でしたか……」

その姿を操舵室で見つけてほっと胸を撫で下ろす。

武官であるサイフォスの搭乗が認められなかった船上では、文官のレナインが護衛も担っていた。


窓越しに荒れ狂う雨を眺めているアルフラインに表情はない。

氷のような美貌には、それ以上を周囲に詮索させない雰囲気があった。

「魔力の補充なら終わっているよ。帰路分は持つはずだ」

熱の籠らない声はもう何年も笑い声も泣き声も立てていない。

何処か身体に異常をきたす程の無理をして、王子を努めて暮らしている。


「……戻りましょう、アルフライン様。皆、貴方を探しております」

それでもレナインには築いたものが壊れていくような恐怖感があって、もう舞台から降りても構わないとは口に出来なかった。

この船上祭さえ終わればまた元の通り。メザホルンで平穏な日々が待っている。

レナインがそう眼鏡の得を持ち上げた時、一際大きな揺れと共に、けたたましい音を立てて大波が窓硝子を割った。


ふらっとアルフラインの身体が揺れて、硝子と共に海に引き寄せられる。

その様は異様にゆっくりとレナインの目に焼き付いた。

「っ……アルフライン様!! 何故!?」

伸ばした手を拒んで自分から飛び込んだようだった。


カタカタと身体が震え出す。

「っ……リリ……ティア様」

目に焼き付いて消えない景色。


あの日の鮮血のようだ。


リリティアは銀細工のように笑う人狼(ウェアウルフ)との½(ハーフ)だった。歳の離れた姉のような存在で、幼心に憧れていた。

その美貌は王に召される程だった。


第7王子のアルフラインが産まれた頃、本ばかり読んでいて知識があったレナインと武に優れていたサイフォスを孤児院から引き取り、王子の傍付きにさせた。

笑顔の数は日に日に減り、久しく笑わなくなったリリティアとの面会が叶ったある日。

自分達の目前で胸を刺して亡くなった。護身用にサイフォスが渡したナイフだった。


最期に顔が見たかったと微笑まれてしまえば、レナインとサイフォスには何も言えなかった。


ただどうして幼い王子にまで、その死を背負わせたのか。


ずっとあの日の件がアルフラインを苛み続けていたのを知っていた。

「……アルフ……ライン様…………」

けれどもレナインは自分のエゴでしかなくても彼に生きていて欲しかった。

カタカタと震えは止まらず、激しい雨が射し込んでいる大穴が空いた闇を虚ろに見つめる。


船内からの喧騒が徐々に大きくなる。今の大波で照明に支障をきたしたようだった。

アルフラインかいなければ次期に指示を求められるは明白だった。


「……お前は戻れと……そう、私に言うのですか……」

手を拒まれた刹那、確かにそう聞こえた。

魔力が込められた魔導炉は輝きを放っている。今なら陸に戻る事は可能だろう。

海に落ちたアルフラインを探すにも、この暗い夜と嵐では不可能だ。

探索のため朝まで待てば、魔導炉もこの船も持つまい。

共に飛び込む事も考えたが、戻れという指示がレナインを縛る。


もう選択肢はないのだ。


自分の王子は生き続ける事を拒んだのだから。



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