ルーシェの幸せと優しい檻
1日1回愛を囁くと、10000回は約27年くらいみたいです。
うん。そんなもんだと思います。
見慣れない男の人に連れ攫われかけ、アルフラインが人魚の女の人と会っていた。
それまでは覚えているが、その後の記憶はぼんやりしている。
気がついたらアルフラインの腕の中だった。
何かとんでもない内容を色々言われた気がするが、途中から頭が許容範囲外してしまって、ふわふわしている。
まだルーシェを離さずにいるアルフラインをちろりと見遣る。
何処か疲れたような横顔だけでもドキドキするのに、1000夜抱き締められて、10000回も愛を囁かれたらどうなってしまうのか想像も出来ない。
何よりそれほど一緒に居られるというのが嬉しかった。
「私の髪は、どちらの色が好きですか?」
「ん~? どちらでも。君は君だし……ただ、この色は街では目立つだろうな。でも長い方が可愛い」
アルフラインはずっと、伸びたルーシェの髪を無意識に指で弄っている。
嵐の海で助けたのがルーシェだと知ってもアルフラインは態度を変えなかった。
本物の人魚を見かけた時は、もう自分は必要ないのかと感極まって泣いてしまったが、それも思い違いだったらしい。
恥ずかしいと顔を振っていたところで、アルフラインの腕から滴る赤いものに気づく。
「っ血が!! アルフライン様!? 怪我をなさったんですか!?」
「あぁ、ついさっきね。忘れていたけど、意外に血が出てるんだね」
鋭い刃物で切られたかの様な傷だった。深くはないが血は止まっていない。
「綺麗にして、止血しておけばどうって傷ではないよ。……でも利き腕だからやりにくいな。ねぇルーシェ、代わりに舐めてくれる?」
「…………はっ……いぃ?」
受け入れ難い言葉に硬直していると再度、耳元で囁かれた。
「だから……舐めて? こんな風に……」
耳を舌で舐め取られ、真っ赤に染る。このまま遊ばれては堪らないと、勢いに任せてアルフラインの腕に舌を這わせた。
最初こそ恥ずかしかったが、口腔に拡がる血の味を無くしたくて懸命に傷口へ口付ける。
「……っ、これは予想外…………ルーシェ、もういいよ。ありがとう……」
額にチュと音の鳴るキスを落とされて顔をあげると、アルフラインがどこか困ったような顔をしていた。
「……本当に怪我が治ったよ。……君の魔力には治癒能力もあるみたいだね」
「えっ?」
治って欲しいと願いながら口付けてはいたが、腕の傷は確かに跡形もなく消えていた。
「凄い!! あれ? ……ても私今までこんな事……?」
「人魚の涙に触れた影響かな……。でもこれは俺とだけの秘密にしてね」
知られると面倒な事になりそうだから使わないようにと口止めされる。
わりと真剣に凄んで言われ、とりあえず頷くと今度は頬に唇を落とされた。
ほわほわと幸せを感じて、眠くなってくる。
この感じは魔力を使い過ぎた時によく似ていた。
「ルーシェ、眠いの?」
「……そう……ですね。……何故か……力は使っていない……のに……」
うとうと船を漕いでいると、アルフラインが頭を撫でて、引き寄せてくれる。
優しい檻の中で守られているような感覚だった。
「迎えが来るまでずっとこうして居るから、休んで?」
色々あったからねと更に優しい声が降る。
心地よい疲労感とアルフラインの温かさに包まれて、ルーシェはそのまま意識を手放した。




