人魚の涙と海からの来訪者 人魚の涙
お母さんの最期です。
人魚の涙は最初はルーシェが付ける想定からアルフラインに。
右耳か左耳か……1時間くらい悩みました!
「そろそろ俺のルーシェを返して頂けますか?」
「…………俺の……ねぇ?」
岩に座っている彼女の前に立ったアルフラインへ、気に入らないとばかりに挑発的な笑みを向けてくる。
「これ貴方へあげるわ。耳にでもつけたら?」
親指と中指で持っていた人魚の涙を空に翳して、アルフラインの方に放り投げてくる。
「それ、この子が持ってると強すぎるみたいだわ。制御が効かなくなる。貴方にはきっと馴染むんじゃないかしら。後これも……」
そう言って渡されたのは先程の人魚の涙より、ずっと小さい小豆ほどの宝石だった。
「感情が昂って人魚が泣いた時に結晶化する宝石が、人魚の涙よ。さっきのは私が死んだ時に流したもの。それはね、さっき出来たばかりなの」
「それが何か?」
「…………貴方が浮気してるのを見て、この子が泣いた時に出来た宝石よ」
「っな!?」
動揺したアルフラインの顎が指1本で軽く持ち上げられる。
「もしこの子を不幸にしたら、10遍切り刻んで、100回呪ってあげるわ」
「……心します。誓って浮気は誤解ですけれど」
「そう? 良い返事ね。まぁ良いわ」
返してあげると、にっこり微笑んでから指を離して背伸びをする。
「…………ちょっと情けないけど、ヴァオスは悪い奴じゃないわ」
「謹んで善処します」
空へ伸ばした手に薄く浮き上がっていた鱗の模様が、徐々に消えていく。
「ごめんなさいね。私がこの子を石の中で呼び続けていたから、海へ入った時に居場所が知れたの。……ずっとこの子に会いたかった」
その腕で彼女は己の肩を抱いた。
「あぁ、1回くらい。……この腕に娘を抱きたかった。でも自分じゃ難しいわね」
「……俺が貴方の代わりに、これから何度でも抱き締めます」
その腕ごと、ルーシェの身体を掻き抱いて熱を伝える。
「素敵だわ……約束よ? …………最後に、このチョーカーの持ち主が私を探していたら伝えて。もう忘れなさい、貴方より大事な人ってこの子よって」
「お会い出来たら必ず」
言い残す事がもう本当にないのだろう、アルフラインに抱かれたまま、彼女はゆっくりと目を閉じる。
柔らかく微笑んだ頬を一筋だけ涙が伝っていた。




