人魚の涙と海からの来訪者 2人目の来訪者
人魚にマーメイドのルビを振ったので毎回入れるのをたまに面倒と思う自分がいます。
アルフラインの性格は結構歪んでいます。
時は些か遡り。
サイフォスに呼ばれたアルフラインの機嫌は良くなかった。
「……あまりルーシェを海でひとりにさせたくないんだけど……。サイフォス、その報告に嘘はないだろうね?」
「そんな嘘をつくほど物好きじゃねぇよ」
人魚を見かけたという報告を流石におざなりには出来ず、2人はルーシェから離れて裏手に向かっていた。
「前に難破した時、人魚がどうのとか言ってたろ?」
その通りだ。だから貴重な時間を割いてまで、こうして付き合ってやっているのだ。
(ただ、あれはルーシェだった筈だが……)
本人は何故か隠しているが、アルフラインはほとんど確信していた。
髪の色が藍にもアクアブルーにもなる彼女が人魚かどうかは定かではないが、あの嵐の海で自分を助けたのは間違いなくルーシェだ。
ではサイフォスの報告にある人魚とは何なのか。放っておく訳にはいかなかった。
「あぁ、あれだ。やっぱ、ありゃ人魚だろう」
木陰に身を隠して浜辺に立つ人影を見据える。踊り子のような臙脂色のドレスで、確かにミサンガと同じ色合いの髪を髪飾りでまとめて長く伸ばしている。
水色の髪と鱗のような模様が手と足の一部に浮き出るのが、人魚の特長とされている。ただし最も人嫌いな種族で、滅多に南方の海にある人魚の領域であるマレンカレンからは出てこない。
そんな幻の種族が王国内の離島にいるなど有り得なかった。
「どうする? 城に戻って衛兵を連れてくるか?」
「1人みたいだし。目的が何かわからない。物陰から観察していても拉致があかないな。行くよ、サイフォス」
人魚に対しての純粋な興味もあった。
足音に気づき、こちらを向いたその顔は美しく整ってはいた。
「あら。待っている間に良いのを見つけたわ。……ねぇ貴方」
撓垂れ掛かって囁かれる声は甘く、身体に当たる胸は豊満に男を誘う。
自分の肩にしなやかに回される腕には薄く鱗の模様が浮かんでいた。
「私の話し相手になって頂けません? 向こうに良い場所があるの。一緒に行きましょう」
興味を惹かれて腕を回し返して抱いてみる。髪飾りを飾った頭がルーシェより些か高い位置にきた。
「………………安心しました。貴方に、何も感じなくて」
その水色を拒むように、くっ付いてきた身体を強引に引き離す。人魚であれば多少は胸が高鳴るものかとも思ったが、何の感慨も湧かない。
むしろ試しに抱いてみるんじゃなかった。胸焼けで気持ちが悪くなりそうだ。
「……残念だわ。貴方のその綺麗な顔が苦痛で歪むところが見たかったのに。まぁ毒でも良いかしらね」
女が髪飾りの仕込針をアルフラインの首元に刺すより早く、鞘に収まったままの剣がそれを叩き落とした。
「……俺の護衛は血の気が多くてすみませんねぇ。次は貴方の首が飛びますよ。その髪を血で汚したくはないので、大人しく去って貰えますか」
髪の色合いも似てはいるがルーシェとは異なる。正直、生死に興味もなかった。
「……あいつが忌み子が見つかったっていうから送ってやったのにっ。帰って来ないのが悪いのよ。まぁ何時までも姫の影を追いかけてる女々しい奴なんか置いていくわ」
女は醜悪に顔を歪め、汚く罵り始める。しかし大して思い入れもないのか、ふらふらと沖の方に去って行った。
「おい、追いかけて留め刺すか?」
「それより…………あいつ!? 悪い予感がするっ」
1人ではないとしたら。ここに姿がないもう1人の目的は――。
「っ。ルーシェのところに早く戻らないと!!」
アルフラインが慌てて踵を返すのとほぼ同時に、ごぉぉぉという爆音と共に島の中心から間欠泉が吹き上げた。




