四葉のクローバーの思い出
ベタな展開のために。part1
然りとて、馬車を使って遠方に出掛けるのは中々大変で。
離島にはまた執務の調整をつけて向かう約束になった。
その代わりではないが、今日の昼は城の庭園で食べる予定だ。
「軽食の入ったバスケットを持って、ポットも用意して。待ってる間はこの本を読んでと。よし、準備万端!!」
丹念に手入れがされた庭園は薔薇などの低木も植わっているが、グラウンドカバーも多い。
中央に噴水があり、その外周にはベンチが置かれていて、簡単なパーティなどを開けるくらいの広さがあった。
先に用意を済ませベンチに座って歴史書を巡る。切りがいい所で空を見上げた。
「……かなり降りそう………でもまだ少し先かな」
幼い頃から雨の予測を外した事がない。
薄い青色が広がる空はとてもそうは見えないが、大雨が降るのは確実だった。
「何が先なの?」
頭上から覗き込まれて影が差す。シルバーブロンズの髪が光を弾いて煌めいていた。
「……雨が……何でもないです。アルフライン様も座ってください」
何となくとしか答えられない特技なため、さらりと流して本を仕舞う。
「俺が勧めた本はどうかな?」
「これはとっても読みやすいです。レナイン様が薦めてくださった本は難しくて……」
話しながら少し大きめのバスケットを拡げる。
「料理長のポップさんが気合いを入れて作ってくれたんですよ。お昼にしましょう」
ベーコンと玉ねぎのサンドウィッチはアボカドソースで、ピクルスとマッシュポテトが添えられていた。
「ピクルスをこんな風にピックへ刺せるポップさんは器用ですよね」
見かけも綺麗で当然、味も美味しい。
幼い頃にカユン家で行ったピクニックはこんな豪華ではなかったが、やはり自家製のピクルスが入っていた。
「そういえば、本をお借りしている書庫で棚卸しをしていたんですけど手伝わせて貰えなくて。不器用だけど力は結構あるのにっ」
「君がそんな事をしていたら書司がレナインに怒られてしまうよ」
「レナイン様に怒られるならきっと私の方です……講義の覚えが悪くて」
たわいも無い会話だが2人で過ごせるだけで充分だった。
(本当は……)
苦笑しているアルフラインにこそ、ルーシェは怒られても仕方ないのだ
助けが差し出せる状況であれば、誰でも人助けくらいするだろう。
アルフラインをあの嵐の海で助けたのも殆ど成り行きだった。
それなのに、それを宝物のように大切にして、似ているという理由だけでルーシェを妃にまで選んでしまった。
名乗り出て、そんなに大事にして貰うものではないと、伝えなければいけないのに黙って隣に座っている。
(ごめん……なさい……アルフライン様)
人魚ではなくても、アルフラインにはもっと身分的に相応しい女性がいるはずなのに。
焦って本で得た知識では、足りないのはわかっている。けれども謝罪の代わりにルーシェに出来るのは、真面目に講義を受けるくらいだった。
「……レナインにもう少し減らさせようか? 妃としての教養を身につけるために君が無理をする必要はないんだ」
「ちゃんと……頑張りたいんです」
考え込んでいたのを勘違いされたのだろう。そうではないと首を横に振る。
そのまま暖かな陽射しを浴びて飛び交う蝶を眺めていると、時間が止まってしまったかのようだ。
穏やかな空間の雰囲気に甘えてアルフラインの肩に寄りかかる。無性に体温を感じていたかった。
「……このお庭にもクローバーが植えられているんですね。昔兄様達と良く遊んだんです。花かんむりを作ってくれて」
おそらくは2度と会えないだろう、兄達の面立ちが浮かんで消えていく。
「クローバーには稀に四葉なものがあるんですよ。兄様達と探していたら、見つからないまま夜になって……懐かしいなぁ」
それを寂しいと思わない自分はなんて薄情なのだろうと、また微睡みに堕ちていく。
「……レナイン様の講義が始まるまで、こうして隣に居ても構わないですか?」
「あぁ。ずっと隣に居るよ」
そうしてまた額にキスの雨を振らせて甘やかすから、薄情なことすら忘れてしまうのだ。
ルーシェは少しの間、そう目を閉じていた。




