白浜を目指して 海の呼び声
最初の構想では白うさぎでしたが、最終的に人魚の話らしくイルカになりました。
「っ、自分で歩けますっ」
「膝枕のお礼。足が痺れちゃったでしょう」
だからと言ってアルフラインに横抱きされる羽目になるとは。
目的だったはずの白浜が続いているが、それどころではない。 別の馬車から降りたメイド達も荷物を運んでいるのだ。
肩を掴んでいないと意外に不安定なうえに恥ずかしかった。
「せっかく休んだのに、また疲れてしまいますよっ」
「たくさん休んだから元気だよ。君は軽いし、しっかり捕まってて?」
離島までもう幾許も距離はなかった。半ば自棄になってアルフラインの肩に顔を埋めていると、しばらくして静かに降ろされる。
「さぁ着いたよ」
引き潮の時は領土から歩いて渡れる島は、それなりの広さがあった。
外周は白い砂浜で、島の中心に向けて小高い丘があり、緑が程よく茂っている。
「素敵なところですね!!」
頬を撫でる海風が気持ちいい。遮るもののない透き通った海が続いていて、開放感でいっぱいになる。
「海に入っても平気でしょうか?」
「浅いところなら構わないよ」
はしゃぐルーシェに、アルフラインが肩を竦めている。
寄せては返す波が音もなく足元に当たっては海へ誘っていた。
(あぁ、やっぱり呼んでいる)
どうしてだろう。切ないような悲しいような。誰かに呼ばれている気分になるのは。
「……それ以上進むと深みにはまってしまうよ」
不意に背後からアルフラインに抱き留められた。
「確かに海に攫われてしまいそうだ」
ルーシェの父親の口癖を囁いて、回している腕の力を強める。気が付かないうちに膝上まで水に浸かっていた。
「こうしてちゃんと囲って捕まえておかないとね」
抱擁されて身動きが取れず、頭上を向くと額に口付けが落とされる。
「……俺から離れていかないで。君がいなくなったら生きた心地がしない」
「……ごめん……なさい。もう大丈夫ですから」
離して欲しいと伝えても、アルフラインからの口付けはやまなかった。
「前はソダージュに帰りたいって言ってたのに?」
「帰りたくない……という訳ではないですけど……」
アルフラインの側にいる選択をした時から、戻らない覚悟は決めていた。最初に比べれば随分な変わりようなので疑われるのも無理はないのかもしれない。
「……側にいたいんです」
自分から離れたりはしないと気持ちをこめて返すが、抱擁が弱まる気配はなかった。
諦めて腕の中でじっとしていると、キュュイという声が近くから聞こえた。
みればルーシェ達の周りを1頭のイルカが泳いでいる。
ただし泳ぎ方がおかしい。というより身体に何か引っ掛かって泳ぎ難そうにしていた。
「漁業用の仕掛け網が絡んで……早く取ってあげなくちゃ!!」
側に寄ってもイルカは逃げ出さず大人しくしていた。慎重に網を解いていく。針が引っ掛かって幾つか傷を作っていたが、致命傷ではなさそうだった。
海に潜りながら、全て外してやると嬉しそうに泳ぎ始める。
「……良かった」
「良くない。……びしょ濡れじゃないか。着替えを持って来ているはずだから戻るよ」
元気なイルカの姿にほっと胸を撫で下ろしていると、腕を振りほどかれたからか少し不機嫌になったアルフラインに、また横抱きされて浜に連れ戻される。
帰る間際になっても、イルカはまだ離島の周りを泳いでいた。本来は群れで生活するはずだが、はぐれてしまったのだろうか。
「また来る?」
「えっ?」
気もそぞろに馬車から外を眺めていると、アルフラインがため息をついてそう尋ねてくる。
「イルカが心配なんでしょう? また今度、様子を見に行こうか」
「はい!! ありがとうございます」
「……お人好しなのは仕方がないのかな。膝枕もしてくれるならいいよ」
膝枕もセットになってしまったが、またあの離島に行けるというのは純粋に嬉しかった。




