悪巧みの結論
小休止的な一節です。
ルーシェは裁縫も苦手です。
「ルーシェ様!! おはようございます~!!」
「おはよう、エリー」
周りの世話を担ったくれるというのは聞いていたが元気いっぱいだ。
着せ替え人形よろしく、次々にドレスを見立てていく。
「これも似合いますね。こっちなんかばっちりです」
おかげで暗い気分を引き摺らず、明るい目覚めだった。
エリーは悩んだ末ラベンダーの色と模様をあしらったドレスを選んで、その他の物も揃えていく。
仕上げにチョーカーを填め、百合の紋章を飾って、あれよあれよの間に出来上がった。
「なんとアルフライン王子は執務室の隣を改装したんですよ。朝食はそちらに用意しています」
元々大きな円卓が鎮座していた相談の場は、ほとんど使われていなかった。
円卓の代わりに置かれた6人がけのダイニングテーブルには花が飾られ、端には小さな焜炉がついた炊事場まで設けられいた。
本格的な料理は難しそうだが、お茶なら煎れられそうだ。
さながらホテルのカフェラウンジといった雰囲気だった。
悪巧みの結果なのだろうがルーシェにとっては、嫌な予感しかしない。
「おはよう。ルーシェ」
アルフラインは既に着席していた。執事に促されて向かい合って座るとすぐに食事が運ばれてくる。
オムレツにバケット。それにスープと果物がついている。彩りが鮮やかで美しい盛り付けだった。
「あの、どうして、ここを?」
「ルーシェと一緒に食事が出来れば良いと思って」
にこやかに微笑んでくるアルフラインは朝は比較的に食欲があるらしく、きちんと食べ切っていた。
「ここがあればわざわざ下から運んでこなくても、君とお茶を楽しめるかなって」
(それってやっぱり私が煎れる……よね)
ちろりと炊事場を盗みみて、諦めの境地になる。予感的中だった。
得手不得手は誰にでもあるもので、ルーシェは料理がからきし出来ない。
不器用なのである。
「挑戦はしてみますが、期待はあまりしないで頂けると……凄く料理は苦手で……」
こんな自分では妃として相応しくないとだろうかとしゅんとする。
「……っはは。すごい顔してるよ。ルーシェ」
アルフラインの食後のティカップを持つ指が震えていた。笑いを我慢して、我慢しきれなくなったようだった。
「ごめんね。予想外な反応でっ……。お茶をするのが嫌じゃないなら、俺が煎れてみようかな」
王子にやって貰うなど恐れ多かったが、普段は人払いもしているのだし構わないと引いてくれない。
結局、2人でやろうという結論に収まって。改装した甲斐があったとアルフラインは何故か上機嫌だった。




