藍色と水色の狭間で
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「この窓にはなるべく近づかないようにしなきゃ」
バルコニーに続く扉と窓は床から天井まで硝子張りになっている。
パールの壁はそのままに王子の寝室とは異なり、ベージュが多く使われた部屋は妃のための寝室だった。
バルコニー伝いに王子の寝室と繋がっている、この部屋の主は今宵からルーシェだと伝えられた。
すっかり夜の帳が下りた空には星だけが輝いている。
「新月なんだ……」
月明かりを気にしないで済み、少しだけ救われた気分になる。
「髪の秘密を隠し通さないと」
髪飾りが外された柔らかな髪は夜空に似た藍色をしている。
強い魔力を行使したり、月光を長く浴びなければアクアブルーにはならない。
アルフラインを助けた時はあのミサンガと同じ色だったから、藍色のままなら良いのだ。
「理想を壊してしまったら申し訳ないし……」
今さら名乗り出て、理想との差に幻滅されたら耐えられそうにない。
だから言わない。伝えようとしても言葉が喉に詰まって上手く言い出せなかった。
身分もなく出身国も異なるルーシェがここに居られるのは、あくまで身代わりの妃として――
王子を救った人魚に似ているただの娘として。
いつまで身代わりを続けられるだろうか。
いつまでアルフラインの隣に居られるだろうか。
「恋って、こんなに苦しかったんだ」
まるで土砂降りの雨に打たれているようで、藻掻けば藻掻くほど沈んでいく沼のようだ。
それでも青空と澄んだ海の中でみたアルフラインの笑みを、ルーシェは一生忘れないだろう。
たとえそれが自分に向けられるものでなくても、あの笑顔に恋をした。
苦しくても、この想いを知らなくて良かったとは思えなかった。
二月ほど先、婚姻の誓いの後、教会で洗礼を受ければ、ルーシェは正式にアルフラインの妃になる。
「それまでにもっと理想に近い女性が現れたら…………その時は潔く身を引く……から」
アルフラインがルーシェを身代わりとしてでも必要としてくれる間は、代わりに愛を受け取るのを赦して欲しい。
誰にでもなく祈る様な気持ちで夜空を仰ぐ。
仕立ての良いネグリジェの裾をぎゅっと握り締める。そうしていると、外から物音が響いた。
「ねぇ、ルーシェ。起きているなら少し夜風でも当たらない?」
果実酒を手に持ったアルフラインが窓越しに囁いてくる。
その誘いに躊躇いながらもルーシェはバルコニーに向かった。




