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ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい 〜弟子が師匠になり、溺愛が始まって外堀を埋められていく~  作者: 藤谷 要


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ヘブンス、帰宅

 やっと終わった。彼女を殺したと言っても過言ではない憎き国王をやっと国政から退けることができた。


 初めは何もするつもりはなかった。彼女を追い詰めた陛下がただ憎かったが、かと言って彼女を助ける力が当時の自分にはなかった。無力さに打ちのめされながら、不慮の事故だと自分を無理やり納得させ、彼女の死を悼んでいただけだった。ところが陛下が即位後に魔導士を愛妾にし始めたとき、これ以上彼女のような犠牲者を出してはならないと、憎悪から策略を巡らし始めた。


 問題は山積みだった。

 魔導士への恐れと、長年培われてきた宣誓制度への信頼。それを根本から変えるためには、人々の常識や考えも変える必要があった。

 すぐに一人では無理だと察して、味方を増やすことに邁進した。


 まず陛下の被害者が女性の魔導士だったので、私自身が関与しやすいように学校の組織の一員となった。


 それから大魔導士がなぜ亡くなったのか、皆に知ってもらう必要があった。彼女の無念の死を通して、この国と陛下の問題を察して欲しかった。だから、私は手記を通して彼女が亡くなるまでの日々を公開した。より関心を持ってもらうために自分の悲恋を大袈裟に演出してまで。


 魔導士の中でも宣誓に不満を持つ者がいたが、個人では国に訴えても太刀打ちできない。大魔導士だって敵わない相手には、集団で立ち向かうしかないと考えた。

 大魔導士との共同研究のおかげで、私の魔導士としての評価は元々高く、学校内で早々に校長の地位を得ることに成功した。その立場を利用して、労働組合を設立し、人脈を徐々に増やしていった。


 宣誓以外でも魔導士の管理制度が存在すると知らせるために、交換留学を通して他国のやり方に度々触れるようにした。


 王宮でも味方が必要だった。だから王妃に近づいた。彼女は公爵家の令嬢から妃になった生まれながらの貴族。家の繁栄のために王子を後継ぎにする目的があった。ところが、陛下が愛妾を多く召し抱え、優秀な子どもを欲していた。

 正妃が産んだ正統な子がいたが、陛下は王太子としていつまでも指名しなかった。それが彼女に不安を与えていた。そこに私はつけ込んだ。


 王妃の二人の子を私の弟子にし、経歴に箔をつけた。私は大魔導士の唯一の弟子だから、それを上手く有効活用した。

 また、陛下の愛妾を増やしたくない点も王妃と同じだった。なるべく優秀な女性を存在を陛下の耳に入らないように苦慮していた。

 高等部への進学を希望したが、愛妾にはなりたくない優秀な女性に対して、他国への留学を勧めたこともあった。


 根本的な問題だった宣誓を変えるべく、王妃の協力も得て、議員である貴族たちに根回しを済ませていた。


 タイミングよく商会ギルドから嘆願書が王宮に届いたのも私が関与したことだった。

 実はミーナが以前魔物から助けた商会ギルドの一員は、会長の親族だった。礼をしたいと言っていた彼らに優秀な魔導士が表に出ない現状を説明すると、会長も思うところがあったのか協力を買って出てくれ、議案を仄めかすと足並みを揃えて抗議すると約束してくれた。


 ミーナの存在が陛下にバレて急いでいた。魔導法改正の議案を議会に提出した矢先、厄災が発生したのは完全に予想外だったが、ここまで計画が順調に進んでいたので、ミーナが大魔導士として活躍しても陛下から守れる自信があった。


 そして、今日の日を迎えられた。


 他の国からも抗議文が届いたのは期待以上だった。自分の手記を他国にも販売していたのも我が国の問題を知るきっかけの一つになっていたと思うが、その事実や彼女の偉大な功績だけでは他人を動かせなかった。

 彼女が生前他国に足を伸ばしたとき、困っていた老人を助けていたに違いない。その善意の積み重ねが、彼女が他国の民衆に好かれる大きな理由になっていたのだろう。


 ミーナの手を握りながら、感慨に耽っていたら、ラクシル王子が移動して私たちの方へ近づいてきた。彼は彼女の前に立っていた。


「名前をミーナと言ったか。私は王子のラクシルと言う。厄災から我が国を守ってくれたと聞いている。父上に代わり、国の代表として感謝する」

「え? あっはい」


 彼女が困ったように私に視線を送ってきた。昔から彼女はこうした貴族の儀礼的なやりとりを苦手としていた。

 察して彼女の手を掴んだまま立ち上がって起立を促し、二人並んで殿下に丁寧に一礼した。


「弟子へのお礼のお言葉、まことに恐縮でございます。ですが、我々は議会に出席するまで牢屋におりましたので、これから帰宅してもよろしいでしょうか」

「重ね重ね父上が申し訳なかった。今後の予定は遣いを送って知らせるから、ゆっくり休んで欲しい。そちらも何かあったら相談してほしい」


 思えば、陛下は彼女に礼の一つも言っていなかった。王子の言葉が身に染みるようだ。


「殿下のお気遣い、痛み入ります」

「うむ、其方たち、今日はご苦労だった」


 ラクシル殿下はそのあと他の貴族たちにも挨拶回りをしていた。陛下のせいで評判が落ちたリーカイド国を立て直す必要があるからだ。

 陛下が即位できたのは有力貴族出身の前王妃の後見のおかげだったが、彼は甘やかされて育ったせいか自分の地位を守る努力を一切してこなかった。彼はそのせいで自分に尻尾を振る下級貴族ばかり重用し、苦言を呈する高位の貴族たちに配慮しなくなっていた。それが今回の議決にも影響が出て、陛下ではなく王妃が勝つ結果になった。今度ラクシル殿下は即位に対して助けられた彼らの顔を立てる必要がある。それを殿下は理解していた。今まで王太子として擁立されなかった厳しい環境が、殿下にとって良い勉強になったようだ。


「ミーナ、帰りましょう」

「うん」


 私はミーナの手を引き、会場を出ていく。その間、彼女は大人しくついてきてくれた。


 私は転移の魔導は苦手なので、馬車の手配を王宮仕えの者に依頼する。待っている時間が暇だろうから彼女に先に帰っていてもよいと伝えても、彼女は首を横に振って私の傍にいてくれた。


 馬車に乗った途端、彼女は周囲に結界を張り、根掘り葉掘りと事情を尋ねてきた。正直に全部説明すると、彼女は目を丸くしていた。


「マルクが校長になったのも、あんなに忙しかったのも、全部議会で法改正を行う準備をしていたからなのね」

「はい」


 ミーナはしみじみと感嘆の声を漏らしていた。


「やっぱりマルクってすごいわよね。きっとあなたじゃなきゃ、成し得なかった偉業だと思うわよ。本当にありがとう」

「厄災から国をあっさりと救ったあなたの行いも偉業レベルですよ」


 お互いに顔を見合わせて微笑んだ。


「はー、それにしても、これからどうしよう? 宣誓がなくなったなら、別に下級魔導士を目指さなくてもよくなったのよね。せっかく友人もできて楽しく過ごしていたから、彼女たちとさよならするのは残念だわ。でも、もう大魔導士だと知られたなら、普通に通えないよね」

「学友たちもあなたの事情は察してくれるでしょう」


 しょんぼりしている。彼女の言うとおり、友人との別離は必然だった。ならば、何か彼女が元気になるような話題を出そうと考えた。


「良かったら、また以前のように私と共同で研究をしませんか?」

「え、本当!?」


 彼女の表情が一瞬で歓喜に変わる。彼女も私の提案に歓迎のようだった。でも、それはすぐに打ち消された。何かを思い出したように気まずそうに顔を曇らせる。


「……あの、ごめんね。遠慮しておくわ」


 何かあったらしい。表情からすぐに分かった。


 でも、私の方もまさか断られると思ってもみなかったから、激しく動揺していた。声を出せたのは、少し間を置いたあとだった。


「……ダメな理由をお聞きしてもいいですか?」

「もうマルクの厚意に甘えるのを止めようと思って。これ以上、あなたにがっかりされたくないもの」

「がっかり? そんな馬鹿な」


 彼女に失望したなんて一度もなかったから、意外な言葉に驚いて思わず目を見開いた。


「あり得ません。なぜそんな誤解をしたんですか?」

「……マルクの好きな人が私だって分かったとき、マルクは言ったでしょ? 今さらあなたに全然何も期待していませんからって。今の私が、何かマルクをがっかりさせたんだなって、その言葉で気づいて申し訳なくなったの」


 今にも泣きそうなほど悲しそうな顔をしながら話す彼女に対して、やっと私は自分の失言に気がついた。


『あの、ごめんね。全然気づかなくて』

『別に謝罪はいりません。今さらあなたに全然何も期待していませんから』


 確かに私は彼女に向かって言っていた。何も期待をしていないと。言葉足らずなままで。


「申し訳ありません。あれは、そんな意味で言ったわけではありません」


 正直にあのときの気持ちを彼女に話すのは、本音を言えば恥ずかしい。でも、躊躇は一瞬だけだった。きちんと弁解しないと、彼女から距離を置かれてしまう。変な矜持のせいで、また失敗を犯したくなかった。


「あなたへの気持ちは昔から変わっていません。でも、あのとき私に想いを寄せられていると知って、私に謝るあなたを見て、また振られたと思って八つ当たりしてしまっただけなんです。想いが返ってこない虚しさを誤魔化すために、あえて何も期待しない方が、自分にとって都合が良かったんです。あのとき、それが咄嗟に口から出てしまい、あなたを傷つけて大変申し訳なかったです」

「そうだったんだ。でも私もマルクに誤解させてしまったみたいね。振ったつもりはなかったの。あのときの謝罪は、私の失礼な発言について謝ったつもりだったの。マルクの気持ちを知らずに私たちにやましい関係は全くないし、ある予定もないからって言ってたでしょう? あなたの前であまりにも無神経だったから」

「でも、あれは本心だったんですよね? なら、別に気にする必要はないです」

「そうじゃなくて、マルクは別の人が好きだと思っていたから、そんな可能性は全然ないと思っていたの」

「じゃあ、今は可能性はあるってことですか?」


 自分で質問しておきながら、口に出したあとに今の質問はまずいと気づいた。だが遅かった。


「マルクのことは大切に思っているし好ましく思っているよ。でも、」


 その先を聞きたくなくて、咄嗟に彼女の口元を手で塞いでいた。


 ああ、やはり好きの重さが、全然違った。落胆が喉元を通り過ぎて重く腹の中に落ちていく。


 発言を無理やり邪魔したのは、身勝手で失礼な振る舞いだと分かっている。でも、質問の内容が直球すぎて最悪だった。もっと自分に損害が少なそうな尋ね方をすれば良かった。


 彼女からゆっくりと手を退けた。


「すみません、質問を変えます。私より好きな人はいますか?」


 彼女の周辺に該当する人物は念のため調べたがいなかったので、答えは分かりきってはいた。


「ううん、マルク以上の人なんていないよ」

「それは良かったです」


 やはり予想どおりだった。でも、「マルクが一番好き」と本人に言われたみたいで、すっかり気を持ち直してご機嫌になっていた。


「ミーナ、私と結婚してください」

「今の会話って、求婚するような流れだった?」


 苦笑しているけど、嫌そうではなくて、さらに安心する。


「ダメですか? 別に恋人らしい振る舞いを求めているわけではないんです。あなたと一緒にいる理由が欲しいだけなんです。あなたが大魔導士だと広まれば、私の弟子でいるのは難しいでしょう。師弟関係を解消すれば、あなたのそばにいる理由も後見の立場もなくなります。また、お互いに既婚者であった方が、今日のように無理やり結婚させられるのを防げると思うんです」

「うん、分かったわ」


 即答だったから、さらに嬉しかった。本当は分かっている。彼女も私に気を遣って譲歩していることを。でも、偽りの夫婦といえども、結婚してもいいと彼女がうなずいてくれた。自分の意に染まぬことには拒否反応を起こす彼女が。そこまで彼女が私に気を許していると分かっただけでも、私にとっては良い結果だった。


「でも、この契約結婚は私に利点ばかりで、マルクにはないんじゃないの?」

「そんなことはないですよ。またあなたと一緒に研究できますし、もう誰にも奪われずに済みますから」

「そっか。マルク、ありがとう。本当は私もマルクと一緒に研究できたら嬉しかったの」


 彼女を見つめれば、いつものように穏やかに私を眺めている。その黒い知的な瞳には、激しい衝動も熱もない。かつて私に彼女が見せた、魔導の理論について熱く語ったほどの輝きが。

 彼女の一番は、常に魔導だった。下級魔導士の資格で良いと言いながら、彼女の関心はずっと魔導にあった。今日は何を読もうと、楽しみに学校へ通い、図書館でひたすら本を読み、その感想を食卓で楽しそうに語る彼女が、彼女らしくて安心していた。


 だから、彼女の中で私への好意は、魔導の次でも仕方がない。人間の中で一番好きだと言ってくれた現状で満足しようと思った。


 でも、ほんの少しだけでもいい。あの情熱が、私に見せてくれた魔導への想いが、ほんの少しでも自分に向けてくれたらと、思わないこともなかった。


 彼女に惹かれたきっかけが、あのときの彼女の輝かしい表情だったから。


『カイハーンの理論は、ついて来られる奴だけついて来いと言わんばかりに不親切な説明で、傲慢ささえ感じるくらいだったから、すごく腹が立って論破してやろうと思ったくらいだったのよ。でも、読めば読むほど奥が深くて、彼の賢さにさらに腹が立ってムカつくくらいだった。何度も読んで理解できたとき、さらにその完璧さに圧倒されて、本人に会ってみたいと思ったくらいだった。でも、既に故人だって後で知ってかなりショックだったのよね。そのくらい強烈な大魔導士だったの。可能なら、彼が生きているうちに会いたかったわ』


 そうだ。なぜ忘れていたのだ。あのときの彼女の言葉を。

 自分こそあのカイハーンだと言えずにいた、あのもどかしい気持ちを。


「あの、あなたにお伝えしたい事実があるんですが」

「なぁに? まだ言い忘れたことがあったの?」


 間の悪いことにちょうど屋敷に到着したらしく、馬車が停止して御者が話しかけてきた。


「あとで落ち着いたら話します」

「ええ、分かったわ」


 彼女自身が生まれ変わったのだから、きっと私の話を信じてくれるにちがいない。

 私の前世があのカイハーンだと知ったら、彼女との関係が変わるだろうか。いや、変わって欲しい。


 でも、あの彼女だ。私の予想を超えた反応をしてくるかもしれない。密かに用心しておこう。


 その悪い予想ほど、残念ながら当たるというのが、世の常だった。




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