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ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい 〜弟子が師匠になり、溺愛が始まって外堀を埋められていく~  作者: 藤谷 要


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段位者の招集

 王子の訪問の二日後。急に段位者の招集があり、マルクとカーズ先生は王宮に行った。

 他の先生たちも呼ばれたみたいで、急きょ臨時休校になった。学校には自習で登校してもいいらしいけど、私は屋敷で本を読んでいた。


 最近よく図書館で声をかけられて読書の邪魔をされたから。こちらが注意して大人しく引き下がってくれる人はまだいいんだけど、相手をしない私が無愛想で態度が悪いように言い返してくる人もたまにいた。

 前に朝食で先生たちに愚痴ったら、カーズ先生は苦笑して、マルクは眉間に皺を寄せていた。


「高等部に女子が少ないから、同じ年頃の女の子が気になるんじゃないの?」

「マナーについて注意しておきます」

「ありがとう」

「でも、相手から距離を置くためにもミーナはしばらく図書館の利用は避けてください。私の部屋にある蔵書は好きに入って読んで構いませんので」

「分かったわ」


 彼は有言実行だった。すぐに朝礼で担任の先生から注意事項として伝えられていた。


 マルクが約束を守ってくれたので、今度は私の番だ。


 彼の書斎に朝から来ていた。過去に私が持っていた同じ本もあって懐かしかった。特にカイハーンの本は出版当時は彼の理論が認められていなかったから部数が少なくて貴重なのに全巻並べられていた。その横にマルクの手記まであった。きちんと整理整頓されているのに、意外に分類は適当だから、思わずクスリと笑ってしまった。


 マルクが弟子に来て間もないころ、カイハーンの話を夜も寝かさない勢いで彼と会話した記憶が懐かしかった。相手はまだ子どもだったのに本人かと思うほど的を射た答えが返ってきて、あんなに議論が楽しかったのは初めてだった。

 カイハーンの本は、理解するために何度も読み、他の資料を漁ったほど、難解なレベルだったから特に。


 マルクは本当に不思議ね。


 彼の本棚から見慣れない本を探して読んでいたら、昼過ぎにはマルクたちが戻って来たらしく、使用人が知らせてくれた。


 彼に呼ばれて応接室に向かうと、マルクとカーズ先生が暗い顔で待っていた。

 二人は応接セットの長いソファに向かい合わせに座っていたので、なんとなく近づきやすいマルクの隣に腰を下ろした。


「厄災が出たそうです。段位所持者の魔導士は再び王宮に徴集されて、すぐに討伐に向かいます」


 どうやら魔物の討伐に出かけた軍が厄災を見つけたようだ。


 厄災——それは自然発生する破壊的存在。姿形は不定形で、獣のような時もあれば、モヤのように輪郭が朧げなこともある。移動しながら街や生き物を破壊し尽くし、厄災が過ぎ去ったあとは何も残らないほどだ。

 勝手に生まれた厄災は、勝手に消えることもあるし、しつこく粘って複数の国を滅亡させることもある。


 過去にこの厄災のせいで、沢山の国が滅んだ。国を守るために何人もの魔導士たちが投入されて死んでいったと、過去の歴史書に記録が残っていた。


「まさか、こんなに早く厄災が発生するなんて思いもしないわよね。数百年に一度の周期で発生すると言われているけど、前回この地に現れたのは百年くらい前の話だから、まだまだ先だと思っていた」

「私も同感です。だから、聞いたときは耳を疑いました」

「厄災を見つけて軍は無事ではなかったでしょう? 何人亡くなったの?」


 マルクが悲愴な顔を浮かべる。


「魔導士部隊の上級者十名のうち三名が死亡です」

「……それはひどいわね」


 死者の無念さと残された家族を思うと、心が痛み言葉を失った。


「あなたが以前書いた論文を読んでいた班長がいたおかげで、厄災に対して魔導を使わなかった班は全滅を免れたようです」


 厄災はマナに引き寄せられる。魔導を使えば襲われる。その習性に気づいたおかげで前回の厄災に勝てた。今回、私の論文を読んで知っていた者は、厄災に遭遇しても助かったみたいね。


「まぁ、それで今度はそれより強い俺たち段位者を向かわせることになったんだ」

「でも、たぶん私以外の魔導士を何人送っても、みんな殺されちゃうわよ」


 二人は何も答えなかった。いや、答えられなかったのよね。

 迷いは一瞬だった。すぐに決意できた。


「私が行くわ。これ以上、誰も死なせたくないもの」


 でも、そのあとを想像するだけで、身体が震えそうになる。


「ミーナ」


 横にいたマルクが近づいてきたと思ったら、私に密着して抱き寄せられた。いきなり緊張して胸の鼓動がうるさくなった気がした。でも、彼の異変にすぐに気がついた。


「あー俺、席を外すわ」


 慌ててカーズ先生は立ち上がると、宣言どおりに部屋から出て行く。すぐに二人きりになった。


 私の肩に乗せているマルクの手が、不自然なほど震えていた。


「マルク、大丈夫?」


 彼を間近で見上げると、彼は泣きそうな顔をしていた。


「自分が情けないです。守ると言っておきながら、厄災には手も足も出ません。あなたの言ったとおり、上段の私が出撃してもあっさり殺されるでしょう」


 気休めに「そんなことはない」とは言えなかった。私が知るマルクの魔導の能力では、厄災には全然敵わないだろうと分かっていたから。


「厄災は私が対処するから、それが終わったあとのことはマルクに頼めるかしら?」


 きっと大魔導士だと知られてしまう。そうなれば、あの男が私を狙ってくる。


「もちろんです。それは絶対に守ります。この命にかけても」

「マルク」


 意図的にいつもよりも凄んだ声を発した。

 目を吊り上げてマルクを睨みつける。


「私はあなたを死なせたくなくて表に出るの。簡単に命をかけるとか言わないで」


 決断する直前、考えたの。私がこのまま正体を隠して過ごしたとき、マルクが死んでいなくなる未来を。すごく悲しくて怖かった。


 それだけじゃない。魔導学校にいる同級生の家族も出撃したら死ぬだろうし、厄災が街までくれば私の家族だって危険だ。都市が破壊されたら、生活だって成り立たなくなる。


 自分のために、みんなの不幸を見て見ぬふりなんてできなかった。


 すると、マルクの目がみるみる潤んで、彼は微かに震える唇を噛み締める。次の瞬間、ぎゅっと彼に抱きしめられた。


「今の台詞でどれほど私が心動かされたのか、あなたには想像もつかないでしょうね」


 彼の震えた涙声は、とても苦しく切なそうだった。


「同じように私もあなたを失いたくありません。万が一、あなたが死んだら今度こそ後を追いますから」

「マルク、そんな脅すようなこと言わないで。逆にすごく緊張しちゃうわ」


 そんな風にマルクまで罪悪感を覚えて責任を取る必要はないのよ。


「……すみません。そんなつもりでは」

「じゃあ、厄災が近づいているだろうし、被害が増える前にさっさと行ってくるわね」

「え?」


 転移の魔導を使い、聞いていた場所へ向かう。


 ヘーリスト森林公園の北部にある村で魔物が出て、討伐中に厄災に襲われたのよね。


 いくら私でも見知らぬ場所には転移できない。この周辺は以前行ったことがあるから助かった。


 厄災がいると思われる場所からかなり離れた地点に到着する。

 街道沿いには兵士たちがいた。見張りで待機していたようだ。突然現れた私に驚いて、慌てて尋問してくる。静かなほうが作業に集中しやすいので、結界で彼らの介入を防いだ。

 すぐに静かになったので、さっそく周囲を探知で調べる。魔力でマナを操り、マナを通して目的のものを探す。


 私の魔力が及ぶ範囲は異常に広い。

 その気になれば都市を一瞬で滅ぼせるくらいだから、私自身が人の形をした厄災になる可能性だってある。


 反社会組織アサークの主張内容もあながち間違いではない。その冷酷な破壊行動をほとんどの魔導士は選択しないだけで。


 前世の幼い子どものとき、唯一いた母親がろくに面倒をみてくれず、乞食のような生活をしていた。通行人がたまに小銭を恵んでくれたおかげで、なんとか生き延びていた状態だった。でも、そんな悲惨な生活は、偶然通りがかった老婆が私を拾ってくれたおかげで終わった。私がマナを目で追っていたので、魔導の資質に気付かれたからだ。その老婆のおかげで魔導学校に入学できた。恩返しする前に老婆は老衰で死んでしまったけど。


 私が知っていた人の優しさはそれだけだったけど、その人たちの施しがなければ生きていなかった。

 魔導の基本は因果律。だから私も自分ができる範囲で、他人に返すようにしていた。稼ぎの一部は孤児院に寄附をし、出かけた先で老人に助けを請われたら対応する。その二つを自分に課していた。


 すぐに厄災を発見し、所在地を把握する。厄災を結界の中に閉じ込めて、その周辺にあるマナを強制的に奪っていく。マナを厄災から一つ残らず排除する。


 本当に一瞬だった。厄災はあっけなく消えた。


 今まで厄災を滅ぼそうと、多くの魔導士はマナを集めて厄災を攻撃した。でも、そのせいで、逆に厄災に襲われる羽目になっていた。


 敵はマナに惹かれる性質を持つ。なぜなら、厄災自体はマナがないと存在できないから。


 でも、厄災に探知される範囲に魔導士がいれば狙われてしまう。マルクが殺されると思ったのは、この距離の問題だった。


 問題が片付いたのでマルクの元に戻ると、彼は同じ場所に座っていた。

 彼は私を見るなり立ち上がり、近づいて再び抱きしめてきた。


 最近、彼に抱きしめられる回数が増えている気がする。恥ずかしくてドキドキするけど、彼に触れられると心躍るみたいな幸福感も少なからず覚えていた。


「ミーナおかえりなさい。あなたから外の匂いがしますね」

「うん、ただいま。厄災は消えたから、もう大丈夫だよ」

「ありがとうございます。では、これから私と一緒に王宮へ行きましょうか」

「うん」


 いよいよ私にとって恐ろしい戦いが始まる。


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