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EP8 エジプト戦争 ―3―

 包囲戦の初日は陣地を造成するだけで終わってしまった。湿地帯に陣地を張ると感染症の危険があるのでそう近くまではいけない。魔術は人を癒せないのだ。


 しかし何度も攻め込んでいるカイロの地形は知っていたので想定内。攻囲戦全体のスケジュールにもそれほどの問題はないだろう。マルコは目を凝らして城壁を見ているがどうやら人がいることがわかる程度で大したことはわからない。


「前線の様子は?」


「……お互いに様子見というところです」


 聖マルコ騎士団の団長は苦々しげに答えた。


「そんなことはわかっている。武装は? 人数はどうなっている?」


「聖下、あなたは聖職者であらせられる。あまり軍事のことに入れ込みすぎてはいけません」


 確かに、あまりに軍事に傾きすぎだという苦情はマルコにとって耳が痛いものではあった。そもそもマルコは騎士団出身の総主教で教会内の政治は門外漢であったし、苦手意識もあった。今更政治と言われても何をすればいいのかわからないし、この年になって新しいことを学ぶのはつらい。


 必然的に内政は官僚任せになってしまう。そうなった政治の末路はあまりにもわかりやすい。つまり、腐敗だ。


「わかってはいるのだが……」


 官僚の粛清は内政の混乱を招く。その混乱を収めるすべがない以上はマルコは放置しかできない。そうすると官僚がますます付け上がるという負の連鎖が止まらなくなっていた。


 こんな状態でアエギュプトゥス全土を掌握したところでまともに統治できるのかはわからない。だが、やらねばならない。ローマを取った今が好機。ここを逃せばまた数百年の膠着に逆戻りだ。


「まあ、今それを言っても仕方がありません。とにかくここの戦いは任せて聖下は従軍司祭長としての役割に徹されるのがいいかと」


「……仕方あるまい」


 戦争といっても本当に戦いのことだけを考えていられるのなら簡単な話だ。そんなものはチェスと変わらない。実際には政治が絡む。政治が絡む以上はとれる戦略も戦術も制限されてしまうのだ。


 とはいえ騎士団長も歴戦のベテラン。カイロを攻めるのもこれで5回目だ。落としたことはまだないが、今回は十分な準備がなされている。彼ならきっとカイロを陥落させてくれるだろう。


 マルコは椅子に腰を下ろし、おとなしくすることにした。いや、おとなしくすること以外に彼ができることはなかったという方が適切かもしれない。





 一方で城壁の内側でも総督による作戦会議が行われていた。といっても彼らの主力である軍団レギオンは複雑な作戦など実行できないのだが。


「向こうの武装は?」


「魔術使いはやはり多いですね、数はしめて8000ほどと報告されています。トレビュシェットは3基、攻城塔は8基確認されていますがこれから組む分もあるかもしれません」


 多い。騎士団全員が出てきたと考えてよさそうだ。アレクサンドリアの守りはほかの騎士団に任せているのだろう。


「わかった。数が多くともやることは変わらん。射程に入り次第燃やすなり破壊するなりしろ」


 軍団レギオンに複雑な仕事は任せられない。彼らの練度は帝国の長い歴史でも最低の状態にある。魔術をうまく使えるものは勝手に使い、使えないものは適当に弓を打つ。一応それらしい指揮系統はあるがもともに機能してはいない。


 とはいえ彼らの多くは籠城戦なら幾度となくこなしてきたベテランでもある。こちらがうるさく言わずとも落とされない程度の働きはしてくれるだろう。


 早くもバリスタを打った兵士がいるようだが、当たるはずもないだろう。物資も限られているのだから無駄遣いしないでほしいが、言っても無駄だ。


「とにかく元老院かムスリムが動くまでは耐える。それだけだ」


 グレンティヌスは覚悟を決めた。小麦を巡る闘争の幕が上がる。

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