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今日、俺の好きな人が結婚した

作者: 東師越

 ラブコメ。


 実際目の前で見てたら、何て窮屈な世界の話なんだって思った。


 外国に行くのもそこまで苦労しない世の中で、何も小さな島国の小さな街にある小さな学校で人生懸けたりしなくたっていいのにさ。




 中心にいたのは、いわゆる陰キャな奴だった。


 いつも教室の端っこに1人で、表紙が可愛い女の子のイラストの小説を黙々と読んでいた。


 そいつの名前は志垣勇弥、一生忘れねぇ。


 興味がなかったからその程度の印象しか無くて、けどたまに話す機会があれば、ボソボソした話し方だけど何となく根は優しいんだろうなと思った。


 クラスメイトの1人ってくらいの認識だったのに、嫌でも意識してしまう事が起きてしまった。


 俺の幼なじみの、長谷ひよりがそいつに恋をしたんだと。


 ぶっちゃけ言うと俺はひよりが好きだ、生まれた病院も同じで、人生の中で会わない日の方が少ないくらいの付き合いがある。


 明るく活発で、勉強は微妙だが部活のバスケでは中学の全国準優勝の立役者になるくらいすげぇ奴だ。


 けど高1の時に靭帯をやっちまって、バスケが出来なくなってからはずっと暗かった。


 俺は笑ってるひよりが好きで色々手を尽くしたのに、勇弥の奴は一瞬でひよりを笑顔にしやがった。


 後で聞いたんだが、ひよりは街で怪しい野郎に連れ込まれそうな時に勇弥に助けられて、成り行きで身の上話をしたら励まされてあっさり落ちたとさ。


 前々からチョロい奴とは思ってたけど、いくら何でもチョロ過ぎるだろと笑っちまったよ。


 初恋で浮かれて、それを恋だと自覚するのに半年もかけて、夏祭りとかクリスマスとかベタベタなイベントをこなして。


 恋敵が2人ほどいたらしいが、勇弥は最終的にひよりを選んだ、見る目のある奴だよ。


 そうして高3となり、卒業、大学に行って就職して、付き合って7年目に2人は結婚したとさ、めでたしめでたし。




 何もめでたくねぇよ。


 ひよりから勇弥の話ばっかり聞かされて、好きな女の別の男の話を聞かされて何とも思ってねぇ訳がねぇよ。


 我慢ならなくてついに告白までしたけど、俺を男として見られないって言いやがって。


 何よりショックだったのは、生まれてこの方男として見られてなかった事だ。


 けどひよりが笑えるなら良いかと思って、アドバイスとかそれとなくひよりの意識へ誘導したりとか、脇役っぽい事色々したさ。


 俺も負けず劣らずチョロいとは思いながらも、やっぱり辛いんだわ。


 自分の好きな女が、他の誰かと運命の恋を始める瞬間を、特等席で見る気分はよ。


 付き合ってからもずっと仲良しこよしとかじゃ無くて、俺のとこに逃げては俺に励まされて、俺はひよりの都合の良い幼なじみに成り下がっていて。


 けどそんなこと、ひよりにも勇弥にも言えねぇよ。


 言ったら2人共優しいから、俺の前で気まずくなるだろ?


 だから酒でも飲んで1人で発散して、そんな日がずっと続いてるんだよ。




 結婚式の祝辞。


 友人代表で俺が頼まれたのは、予想通りっちゃ予想通りなんだよな。


 ひよりのために勇弥と絡む内に親友みたいなポジションになってたし、そもそも勇弥に友達がそんなにいねぇしな。


 と思ってたら、ひよりの友人代表として言ってくれって事でビックリしたよ。


 ひよりはリアルで友達100人いるんだから、仲良い女友達も10人くらいいるし、それでも俺が良いと言って聞かない。


 何言うか悩んだが、ここで本心を言ってやろうと思った。


 俺が俺自身の公開処刑みたいで滑稽だけど、大人としては稚拙だけど、このスピーチを利用してやろうと思った。


 俺の人生を懸けた初恋に、決着をつけるためのな。




   ※ ※ ※ ※ ※




 高校時代に戻ったみたいだった。


 全力でバカなことをする俺を、どうか笑ってほしい。


 挨拶やら自己紹介を終えて、いよいよ俺は言う。


 なあ、ひより。


 今までありがとうな。


 俺も、そろそろ大人にならねぇとな。




「実は今日、私の初恋が終わりました」


 怒られたり貶されるのは覚悟の上。


 他人の晴れの舞台に出しゃばる背徳感はハンパないが、せめて脇役らしく終わってくれたらと願うばかりだ。


「その初恋相手は昔からいつも明るくて、その優しさとフレンドリーさで周囲の人々を笑顔にしてしまう人気者でした──


 ──物心ついた頃からずっと好きで、けど中々振り向いてもらえず、それでも彼女の多くの魅力に思い馳せて今日まで過ごしていました──


 ──しかし彼女は、幾度の遠回りとすれ違いをしながらも、こちらが思わず手に汗握るようなドラマチックな恋の果てに結ばれ、今日という日を迎えました──


 ──高校生の私は最初こそ納得いかなかったですが、彼女の真っ直ぐな想いと彼の強い意志を知り、私は2人の恋を応援することを決めました


 ──未練は山ほどあります、今でもふとした時に彼女はどうしているかと考えたりします、大きなお世話ですが」


 どこかでプッと吹く声が聞こえ、肩の力が抜ける。


 チラッと見ると俺と勇弥の共通の友人だった、ありがとう、後で1杯奢ろう。


「2人は色々と不器用な性格なので、何かあればぜひ皆様の力を貸してあげてください、それから両極端な性格もあるので、相談には気軽に応じてあげると助かります──


 ──私も2人の味方ですから、精一杯力になってみせます」


 ああ、ダメだ。


 涙腺が、限界を迎えてしまった。


 これは何の涙だろう、寂しいのか嬉しいのか、それともそれら含めた全部か。


「勇弥、ひより……絶対に末永く、っ、幸せでいてくれよ……っ……俺の初恋が、破れてよかったって、思える、くらい……っ……幸せになってくれ」


 ポツポツとこぼれる涙が、手紙に滲んでさっき読んだ文字をぼかしていく。


 ダメじゃねぇかよ、新郎新婦とかその親より前に泣いたら、場の空気が変になっちまうだろ。


 止まれ、止まってくれ……っ。


「っ……ひよりぃ!」


 そして俺はようやく、マイク前に立って初めてひよりの顔を見た。


 はは、何だよそれ。


 何でお前まで、泣いてんだよ。


 せっかくお色直ししたのに、また崩れちまうじゃねぇかよ。


 その涙、おじさんとおばさんへの感謝の手紙までとっとけよ、お前が泣くなんて滅多に無いんだしさ。


 気付くの、遅ぇよ。


 確かに小っ恥ずかしいからノリみたいな告白かもしれなかったけどよ、一応俺の一世一代の告白だったつもりなんだ。


 バカじゃねぇんだから、もっと早く。


 もっと早く気付いていれば…………。


 いや、止そう。


 今はただ、俺の心からの祝福を受けとって幸せになりやがれ。




「──幸せに、なれよ!」




 ひよりは、最高の笑顔で「うん!」と言ってくれた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 この後、当然のように色んな人から色々言われた。


 けど大半はユーモアが分かってくれる人達で助かった、俺のバカ騒ぎを笑ってくれるのは助かる。


 勇弥も感謝してくれたし、俺もスッキリしたし、心残りは無いな。


 とまあ、脇役の初恋物語はここでお開きだ。


 甘酸っぱ過ぎて、死ぬまで覚えてられそうだな。




   ※ ※ ※ ※ ※




 残念ながら、俺には生涯を共に送る伴侶は見つからなかった。


 長い独身生活も悪くなかったが、1回くらい結婚してみてぇなぁなんて思いは今もある。


 先日、ひよりが亡くなった。


 去年に死んだ勇弥の後を追うように、安らかに眠った。


 5人の子供と11人の孫に囲まれて逝ったんだ、幸せだったに違いない。


 あの2人、ホントに末永く幸せでいやがったよ、流石だぜ。


 どうせ向こうでも同じようにラブラブしてるんだろうな、もうじき俺もその様子を見られるだろうし。


 全く、最高の人生だった。


 2人の脇役になれて、俺は幸せだったよ。


 ありがとう。


 そんな風に手を合わせながら墓石の前にしゃがんでいた俺は、少々痛い腰を上げて家に帰っていった。


 報われない初恋も、悪くない。




 fin.

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― 新着の感想 ―
[良い点] 東師越さん(^^) 主人公くんの最後、味がありますね……! 脇役、いやいや充分輝ける主役でした♪ 素敵なお話をありがとうございます♪
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