第二話
私が楽譜の入った棚を開けようとした瞬間、今までなっていた曲がピタッととまった。
「・・・・・」
どうしよう。なんかすごい気まずい・・・。
「あ、あの、お邪魔してすみません。どうぞ、続けてください・・・」
私は作り笑いを浮かべながらそう言った。
「・・・べつに。曲が弾き終わっただけだから、気にしなくていいよ」
・・・よかった。気は悪くしていないみたい・・・。
「あの、今の曲、すっごいキレイな曲ですね。・・・なんていう曲なんですか?」
私がそう聞くと、ピアノのイスに座っていた子の目が、驚いたようにちょっとだけ丸くなった。
「・・・この曲、知らない?」
・・・私、変なこと聞いたかな? それとも、この曲って、すっごい有名な曲なのかな?
「ごめん。私、エレクトーンなんだ。だから、ピアノ用の曲、よく知らなくて・・・」
あれ?何謝ってんだ、私?
「別に謝らないでも。・・・この曲は、「メヌエット」っていうんだ」
「へえ〜。・・・でも、本当、キレイな曲だよね。・・・エレクトーンでも弾けないかな?」
私はそう言ってから、目の前にある楽譜の棚を開けてみた。
「ん〜と。・・・無いなあ・・・・・。でも、弾きたいなあ・・・・・」
私がそうつぶやいていると、
「ピアノのならあるけど・・・?ダメ・・・・・?」
「えっ!?本当に?じゃあ、ちょっとだけ見せて!!」
男の子は私に楽譜を貸してくれた。
うん、ちょっとよくわからないところもあるけれど、何とか弾けそうだな!
〜♪♪
やっぱりキレイな曲・・・。弾いてみて実感するよ。
「はい、楽譜。ありがとう、貸してくれて」
私は楽譜を男の子に返した。
「うん」
男の子は、私から楽譜を受け取った。
「ねぇ。名前、なんていうの?」
私は、なんとなく聞いてみた。
「おれは、「水谷 蒼」(みずたに あおい)だけど?」
「へえ〜! キレイな名前だね。あ、私は、「藤堂 絆」(とうどう きずな)っていうんだ。よろしくね!!」
「うん」
・・・なんか自己紹介しちゃったよ。ま、いっか。
「じゃあ、蒼くん。いっつも自主練習室に来てるの?」
「うん、たまに。・・・藤堂さんは?」
「私もたまに。今日は発表会の曲を決めにきたんだけど・・・。もうこんな時間だし、明日にしようっと」
私は置いておいたカバンをつかんだ。
「じゃあ、明日も自主練習室に来るの?」
「え? うん、そうだけど?・・・どうして?」
私は蒼くんの質問に、ちょっとビックリした。
「じゃあ、おれも来ようかな・・・」
「えっ? 本当? じゃあ、また明日!!じゃあね!」
私は、そう言って、自主練習室を出た。