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8.

 遠くの方で鳥の声が聞こえた。

 チ、チチ、チチ、鳥の鳴き声と人の騒めきが耳にゆったりと流れてくる。その音色と一緒に瞼の上に光がともった。


 ......朝か。

 浮上する意識とともに、瞼をあげ、冒険者ギルドにいることを思い出した。

 睡眠を取り、完全にとは言わないがある程度疲労感が無くなったことで、ものすごくお腹が空いていることに気が付く。意識した瞬間、お腹の音が盛大に鳴った。その後、人はいないのだが年頃の少女としてどうなんだとひとりでに顔を赤らめる。

 しかし、寝ていたとはいえ丸二日何も口にしてはいないのだ。だからしょうがないのだと、さっきの考えを振り払った。

 これは、すぐにでも何か口にしなければ。

 それに、問題は食べ物だけではない。靴も履いていないし、服もボロボロ。それらを揃えるためのお金もない。

 一刻も早く、依頼を完遂させ、お金を稼ごう。今日泊まる場所もないのだし、急ぐに越したことはない。

 そうと決まれば、早く依頼を受けよう。

 私は、ベットからおり、部屋から出ようとした。

「あ......」

 忘れていた。まだあの本をを読んでいない。あの変な男に会ってまでして、あの本を借りたんだ。ミリアのこともあるし、行く前に読んでしまおう。

 本当は昨日読むつもりだったが、自分が思っていた以上に疲れていたらしく、ベッドの上で抗えない欲望に身を任せてしまった。

 

 棚の上に置いておいた本を手に取り、パラパラとめくっていく。速読は、思考の中限定ではなく、目に映るものにも適用されるらしく、ものの数分で読み終わった。

 ページは300ほどあって、腕が疲れた。

 この本は、冒険者ギルド内でのルールの他に、ランクごとの主な依頼内容、軽い魔獣の説明まで書かれておりとても役に立つ。正直、これを読まないなんてもったいないなと思う。言われてよかった。


 今度こそ出かけようと、部屋をでる。

 2階の受付で鍵を返し、1階に降りると昨日よりたくさんの人でにぎわっていた。スキルを使うのも慣れたもので、何人かから素早くとり、ミリアが受付の列に並んだ。


「おはようございます」

「うん、おはようございます」

 数分のうちに私の番になり、ミリアと顔を見合わせると、思わず笑みがこぼれた。

 そんな私の表情に、ミリアも嬉しそうに笑った。

「ふふ、今日はどんな依頼を受けますか?シロだと、この辺りがいいと思いますよ」

 そう言うとミリアは、5枚の紙を取り出した。依頼内容は魔獣関連や薬草採取、手伝いについて書かれている。Fランクの、初めての依頼をする冒険者に適している依頼なのだろう。

「えーとじゃあ、これとこれで......」

 私は、魔獣関連について書かれている依頼書を指さして言った。

 薬草採取は、この世界の薬草どころか植物の知識を私は全く知らないからできない。手伝いに関しては、この世界に慣れるためにはいいのかもしれないが、進んで自分からするのははばかられる。つまりは、消去法だ。魔獣では死ねないというのもあるが。

「こちらの二枚ですね。分かりました。では、ギルドカードを出してください」

 ミリアはギルドカードを受け取ると、不思議な色の箱の中にギルドカードと二枚の依頼書を入れた。

 ......この色どこかで見たような。

 ミリアがその上に手をかざすと、一瞬だけ白くそこだけ小さく光すぐに消えた。箱から取りだされたのは、ギルドカードだけだった。

 私は、その光景に既視感を覚えた。前に、最近に似たような事を見た気がする。

 あ、あの紙だ。ギルドカードを作る際に、シロと書いたあの紙。血をたらした後にいつの間にか消えていたあの紙の色に酷似している。

 白と黒を混ぜたような不思議な色。灰色でも銀でもない。グレーでもシルバーでもない奇妙な色だ。どちらが強いわけでもなく、完全に混ざり合っているということだけは分かった。

 

「はい、どうぞ」

 ミリアからギルドカードを受け取る。これで、依頼を引き受ける過程は終わりかな。

「あの、これ、ありがとうございます」

 なら、この本を返してしまおう。

「昨日、資料室にいた人に貸してもらったので、どこに返せばいいのかわからなくて」

「資料室に人、ですか?」

 ミリアが不思議そうに首をかしげる。

「ええ、とてもきれいな人でした」

 まるで、この世のものじゃないみたいに......。

「......そうだったんですか。分かりました。これ、返しておきますね」

 ミリアは、その男の存在に思い当たらないかったのか、不思議そうな顔を浮かべたまま、返事をした。


 やっぱり。口には出さずに、心の中でそう唱えた。

 あの男は、ただの冒険者ではないのだ。もしかしたら、冒険者ですらないのかもしれない。昨夜に沸いていた疑問は、確信に変わっていた。

 あの男の容姿は、会ったことがあるものなら決して忘れはしない。なのにミリアが知らないというのなら、会ったことがないか、魔法で偽りの姿を見せているかのどちらかに違いない。ここの資料室で悠々と読書をしていたのに、普通にしていてここの受付嬢であるミリアに認識されていないのはどう考えてもおかしい。

 あの男が私に話しかけてきた理由も気になる。

 だけど今は、まだ考えなくていいと思った。もう1度必ず、あの男には会うきがした。


「はい、ありがとうございます。その本は、冒険者ギルドのルール以外にも魔獣のことまで書かれていてとても、ためになりました」

「まぁ、それは良かったです。私もそんなにしっかりと読んでくれて嬉しいです」

 ミリアは本当にうれしそうに笑った。

 

「いえ、では行ってきます」

「はい、頑張ってくださいね」


 ミリアが手を振って、送り出してくれることをうれしく思いながら、私は依頼達成に向けて歩き出した。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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