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5.

 中途半端に法に、何かに、縛られたいと願う私は、.....きっと何かも壊してしまうのだろう。


 私に威圧感を与える屋敷は、三階建てで、急に途切れた商業街にポツンとたたずんでいた。夕日が反対側からさしこんでいる様子は、ほの暗く、どこか不気味に思えた。


 これが、冒険者ギルド。


 圧倒されながらも扉を引くと、チリン、チリンとベルが鳴った。

 入った瞬間、複数の視線を感じる。何人かが、私が裸足であることにすぐに気づいたようなので、観察はとりあえず止めてスキルを使う。視界に入る全員分の私が裸足であるという認識を奪う。複数に対するスキルの同時発動は、脳の処理速度の向上でスムーズにすることができたが、慣れていないためか少し酔ったようだ。頭が少しふらついてしまった。

 落ち着いてくると、いつまでも扉の前にいるのは邪魔だし受付のほうに進んだ。知らない顔だからか、まだ視線は外されない。

 受付は3つあって、1つだけ女性の方がいたためその受付に行くことした。この時間帯だからかたまたまなのか分からないが誰も並んでなかったので待つこともなく、受付の女性の前に立つ。


「すみません。冒険者になりたいのですが。」

 20代前半の若い女性に話しかける。ここは、街並みと同じように西洋風の世界観のようで女性も西洋の彫りの深い顔立ちだった。そういえば、門番の2人もそうだったなと思い返す。

「えーと、身分証明証はお持ちですか?」

「いいえ、身分証明書を作るためにここに来たのですが」

 冒険者になるとき、身分証明証をもらうものだと思っていたのだが、違うのだろうか? 不思議に思いながら、返答する。

「ああ、郊外出身者ですね。では、これに触れてください」

 郊外出身者って何だろうと思っていると、女性は門番のおじさんと同じようにガラス玉の魔法道具を私に触るように促してくる。

 私が触ると、さっきと同じように淡くピンク色に光り、光はしだいに消えていった。

「大丈夫そうですね」

 そう言うと、女性はその魔道具を引き出しにしまった。

「では、いまから冒険者登録と身分証明証作成しましょうか。ああ、申し遅れました。私、ミリアと申します」

 そう言って、ぺこりとミリアさんは軽く頭を下げてくれた。私は、名のろうかどうか迷って結局、ぺこりと頭を下げるだけにとどめた。

「では、作成する前に一つ。冒険者登録つまり身分証明証作成なのですがそれにはお金が500リルがかります。これを払うのが難しいという、冒険者になりたい人のために救済で1か月は待つことになっています。どうしますか? 今払えますか?」

「いいえ、少し待ってほしいです」

 今は無一文だから無理だ。救済処置があって助かった。あと、この国の通貨はリルというらしい。

「分かりました。でも、1か月過ぎてしまうときちんとした理由がないかぎり、冒険者の地位はく奪、それに伴って身分証明証も使えなくなるので気を付けてくださいね」

「はい、分かりました」

 この世界のお金の価値はまだ理解してないけど、これが親切な対応なことは分かる。

「では、この用紙に名前を記入してください」

 ミリアさんは不思議な色の紙と羽ペンを取り出した。

「本名ですか?」

 なぜか、自分の名前を書く気にはならなくてそう聞く。

「いいえ、どっちでも大丈夫ですよ。真名を名のれない方もいらっしゃるので」

 私は、ホッとした自分に驚きつつ、ならなんて書こうかと羽ペンを手に取る。


 ふと、浮かんだシロ、という名を書いた。ゲームでよく使っていた名だった。


 私があの世界で、時々オンラインゲームRPGをやっていた。それは、未知の世界を旅する冒険ものが多い。


 中学の時入り浸っていた学校の図書館でよく読んでいた本もファンタジーものだった。どちらかと言えば、小さい頃から物語が好きだったため、ゲームよりこっちな気がする。


 本は面白い。色んな価値観を知れるから。


 物語は素晴らしい。色んな世界を見渡せるから。あり得ないと思うことも、実現してしまうから。


 この世界の常識はきっと、元の世界と違うだろう。でも、それは、私は、すぐ飲み込むことができるように思えた。こんな力をもってしまったが、確かに私は違う世界に行きたいと少なからず思っていたことは事実だ。冒険者の道を選んだのが私の希望から外れているとはいえなかった。


「えーと?」

 ミリアさんに書いた紙を渡すと困惑された。

 なんだろうと思って、ミリアさんを見ていると申し訳なさそうな顔で聞かれた。

「なんて読むんですか」

「.....え?」

 驚いた声をだした私を許してほしい。違う世界なのだから言語が違ってもおかしくはないのだが、今の今まで言葉が通じていたから驚いてしまった。


「シロです。シロ」

「あ、すいません。シロさんですね。分かりました」

 ミリアさんがそう言って、その紙を透明なプレートの上にのせた。

違う言語なのに大丈夫なのかとミリアさんに聞くと、本人の筆跡と通り名を残したいだけだから問題ないらしい。冒険者ギルドは様々な国にあるからギルド内の言語は統一していないそうだ。


 ミリアさんは小型ナイフを私に渡して、ここに血を1滴落としてください、と透明なプレートの上にのせたさっきの紙を差し出して言った。


 血の契約なのかと、この世界では血に魔力が宿っているのかもしれないと思った。受けっとた小型ナイフで、自分の左手の薬指を薄く切ると、血がぷくりとうきでてくる。それを紙に押し付けると、紙とプレートが淡く、白く、陽炎のように揺れて、パキンという高い音が頭の中でなるまでそれは消えなかった。音ともに混濁していた意識がよみがえり、残されたプレートが目に映った。

 紙はいつの間にか消えており、自分が記した名前が書かれている透明なプレートだけが机の上に残されていた。


「これで、シロさんは冒険者ギルドの一員となったわけです。ようこそ冒険者ギルドへ」

 そう言ってミリアさんは透明なプレートを私に差し出して笑った。


 どうやらこれで、冒険者登録と身分証明証作成は終わったようだ。ミリアさんから透明なプレートを受け取り、私もこの世界で生きる第1歩を踏みしめ、薄く笑い返した。

 返した小型ナイフは軽かった。


「それで、これで冒険者登録と身分証明証作成は終わりなんです。だけど、依頼の仕方とか冒険者間でのルール、冒険者ギルドのことについて教えたいのでもう少しいいですか?」

「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」

 盗むのは簡単だけど、できることなら避けたかったからよかった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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