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1-3 キュブとニール(2)

『あまり落胆しなくても良いであります。元の世界に帰れないわけではないであります。キュブ様にはこれからスーアと地球、2つの世界で生活していただくことになるであります。』



 ニールの言っている意味がキュブにはよく分からなかった。



『丁寧に説明するであります。スーアは地球と同じで1日が約24時間なのであります。そして、キュブ様は1日をスーア、次の1日を地球と体感的には交互に過ごしていただくであります。実際に1日おきに地球とスーアで暮らしているわけではないでありますが。』




 地球では高校最後の春休みの最終日。明日は大学の入学式。1日おきにスーアと地球で暮らしていたら、あっという間に留年決定である。留年以前に1日おきに失踪なんかしていたら間違いなく問題になる。

 そもそも、この現状が夢でないならば、もう大問題であるが・・・。



『1日おきに地球とスーアの行き来などしていたら、久太様もキュブ様も問題目白押しであります。が、そのような問題は生じないのであります。』



 ニールの話は続く。



『例えば、キュブ様が久太様として地球で1日を終えて就寝した瞬間をAとするであります。この時、久太様の意識はスーアにあるキュブ様の就寝した瞬間に移動するであります。その後はそのままキュブ様として睡眠を続け、朝に目覚め、1日を過ごし、就寝する時が来るであります。このスーアで1日を終えて就寝した瞬間をBとするであります。この時、キュブ様の意識は地球の久太様の就寝した瞬間にAへ戻るのであります。そして地球で目覚め、1日を終えて就寝した瞬間にBへ戻るであります。以降はこれの繰り返しであります。図示するとこーんな感じであります。』



 突然キュブの目の前にチャート図みたいなものが現れた。何この親切設計。

口頭説明でイメージはついていたが、図もあったおかげでキュブはそれなりに理解できた。



「だいたい分かったと思う。地球では久太、スーアではキュブとして生活して、寝ると久太とキュブが入れ替わると考えたら良いってことなのかな。」


『入れ替わるわけではないでありますが、感覚的には同じであります。キュブ様は物分かりが良い方なのであります。何回説明してもチンプンカンプンなお顔のユーザー様もいたであります。』




 まず一つ理解できた、これにより余裕が生まれたのだろう。突き詰めたくなるスイッチが入ったというべきか。久太は先ほどまで頭の中でいっぱいだった魔法のことなど忘れ、地球とスーアの行き来について、浮かんだ疑問を尋ねた。



「これってさ、寝たら地球とスーアを行き来するんだよね?とにかく寝れば行き来できるの? ほら、昼寝や二度寝みたいな。」


『おお、急にグイグイ来るであります。答えはノーであります。意識の移動は1日1回であります。加えて、1日の終わりのタイミングの睡眠であります。これはキュブ様の深層意識が関わるであります。例えば昼寝の場合、その日のうちに起きるつもりならば、その睡眠で意識の移動は起きないであります。なので、昼からずっと翌日まで寝続けるつもりで寝たら意識は移動するであります。』




「なるほど。じゃあ、寝ずに深夜0時?を過ぎた場合はどうなるの?」


『深夜0時というのは1日の区切りであります。しかし、だからといってその時点で移動するという意味ではないであります。就寝しなかった場合は2日、3日と、どちらの世界でも連続して生活できるであります。しかし、この場合は意識が移動した後にもう片方の世界でも同じ日数分過ごさないと、睡眠を挟んだとしても意識の移動は起きないという違いが生じるであります。言ってしまえば日程調整というやつであります。この辺りの感触は実際に体験した方が良いであります!』




 確かに、ニールの言うとおり実際に体験した方が良さそうだ、とキュブは思った。そして、不安な事も尋ねる。



「分かった。ちなみになんだけど、これは1日が2日になっちゃっているようなものだよね。もしかして寿命が半分になったりする?」


『ノーであります。久太様は久太様、キュブ様はキュブ様でありますから老いによる肉体の衰えなんかとは無縁であります。あくまでも意識プラスアルファの移動だけであります。』


「プラスアルファ?」


『そうであります。突然ですがキュブ様、モノを燃やすと何が発生するでありますか?』




 久太は明日から大学生。別に学校の成績が特別高いわけではないが、全く勉強していないわけでもない。そもそも一例を挙げるだけならば難しい問題ではない。



「ん、えっと。燃やすモノにもよるとは思うけど、二酸化炭素とか?」


『正解であります。それは久太様が持っていらっしゃる地球の化学の知識であります。こういった久太様が知っているの知識は、スーアのキュブ様の知識として利用できるわけであります。逆もまた然りであります。つまり、スーアでキュブ様が会得したことは久太様の状態で無くなることはないのであります。知識や経験、これらがプラスアルファに含まれるのであります。』




 キュブはまだ混乱している部分もあった。しかし、いつの間にかそれ以上の好奇心が芽生えてきた。普通に生活していたら間違いなく得られないモノ、それが目の前にあったから。小さい頃夢見ていた魔法の世界、非現実的ではあると諦めていたモノが実在していた。いつの間にか自分の状況や、最初あった不安などは吹き飛び、もっと色々聞きたいと思うキュブだった。が・・・・・




「なるほど、じゃあさじゃあさ・・・。」

『おや。そろそろでありますか。』



 ニールが話を区切った。



「どうしたの?」


『タイムリミットが来てしまったであります。』


「え!? 時間制限あんの!?」


『だから説明書を、ってしつこいでありますね。申し訳ないでありますが次の質問を最後とさせていただくであります。あとはなるようになるであります。』




 どうやら、あと1回しか質問はできないようだ。まだまだたくさん聞きたいことがあったので迷う。少し悩んだが、久太が尋ねたのは意外なほどシンプルな疑問だった。




「これからスーアで何をしたら良いの?」


『・・・・・・・。』



 ニールに表情はないため、顔色を読み取ることはできないのだが、ニールは考え込んでいるようだった。そして話し始めた。




『今まで99人の方にこの質問をしたのでありますが、この質問は初めてであります。さて、キュブ様は現実コネクションがRPGカテゴリとしてリリースされていたのをご存じでありますよね?』



 キュブは頷く。



『もう分かっていると思うでありますが、これはRPGではないであります。しかし、主役が自分自身ということは共通しているであります。例えばRPGよろしく魔王を倒しに行ってほしいとお願いしたら、勇者としての役割を与えてしまうことになるであります。私はスーアの中で最初から最後まで自由にキュブ様がキュブ様として過ごしてほしいのであります。あ、別に魔王を倒しに行くのがダメという訳ではないであります。』




(え、魔王いるの???)

と、内心キュブは思った。



『このような回答で大丈夫でありますか? といっても、時間はほとんど残っていないでありますが。』


 他にも聞きたいことはあった。しかし、我慢するしかない。




「・・・うん、大丈夫。どうもありがとう。」


『どういたしまして、であります。それでは、これからキュブ様は久太様の体に戻るであります。夜の就寝が初スーアになるでありますので、どうぞお楽しみくださいであ・・・』





 その言葉を聞き終える前に、久太の意識は既にその場所に残っていなかった。

これは夢?編は終了です。

Next→現実世界

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