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Last Game  作者: じょん
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第二章 第一話:道の町 イグリス

 二日ほど歩くと、木がまばらになり、森が終わった。深い森に挟まれたでこぼこした道から多少舗装された街道を一日半ほど歩くと、目指していた町が見えてきた。ぼくは前方に見える塊を指差した。

「あれかな、イグリスって。」

「そうよ。あと一時間ほどかしら。」僕らは結局五十分ほどで町に着いた。目的地が見えると歩みは速くなるものだ。

 イグリスは町の境界線と思えるものがなく、街道に身を寄せ合うようにして建物が建っていた。建物といっても、木造の簡単な作りのものが多く、石造りのものはほとんどなかった。

 町に入ると、街道の両側は露店で隙間がないほどであり、たくさんの商人が声を張り上げて客を呼びこんでいた。

「ブクラシュ産の生きのいい魚はどうだい!アイロダの卵も今日入ったところだよ!」

「焼き立てのパンはいらんかね!長旅においしいチーズはいかが!」

「そこのお嬢さん、帝都のはやりの服の服はどうだい?」商人の一人がクリスに商品を突き出した。その手は赤く染められた絹のドレスを持っていた。スカートにはたくさんの襞がついており、商人が持ち上げて回してみせると、スカートがしなやかな草原のようになびいた。

「ごめんなさい、そんなにお金はないの。」クリスは気のない返事をしたが、僕はクリスがちらりとドレスを一瞥したときにその瞳がきらめいたのを見た。

「お連れの方はどうだい、プレゼントは女性の心をつかむのに大切ですぜ。」商人は僕に売り込む対象を変えた。

「えっと、ぼくは・・・・・。」僕は商人の持つ絹のドレスとクリスを交互に見て、これをクリスが来ている様子を想像した。自然と顔があかくなりそうになるのをこらえた。

「いえ、お金を全く持ってないもので・・・・・・。」商人はあからさまに嫌そうな顔をすると、僕らにはもう関心を払わず、道行く人に声をかけ始めた。

「ねぇ、ここっていつもこんなかんじなの?」大通りを歩きながらクリスに尋ねた。街道は町の中心に向かうにつれてだんだんと道幅が広くなり、荷馬車が二台でも楽々とおれるようになっていた。

「私も何度かしか来たことないけど、ここはいつも賑やかよ。出店がない日はないそうよ。」

「どうしてこんなににぎやかなんだい?」

「それはね、この町からたくさんの街道がでているからよ。そもそも、この街は街道ができるまでなかったの。街道が整備されて、道の分岐点に井戸が置かれたの。そしたら、隊商やら旅人やらがここで野営するようになったの。それで、別の土地からきた隊商や旅人達が、自分たちの旅した地で手に入れた珍しいものや食料品とかを交換するようになってね。そのうち、ここに来ればいろんなものが手に入るっていう噂が広まって、だんだんと人が来るようになったの。そうなると、そう人たちのために宿屋ができて、噂話をするために酒場ができて……って具合に建物が建ち始めたの。そうしてできたのがこの町、イグリスよ。」クリスはぐるりとあたりを見渡した。そして困ったように肩をすくめた。

「そういうわけで、残念なことに、ここの建物はみんな秩序だててたてられていないわ。ヤコブ爺の言ってたお店を見つけるのは、案外大変かもね。」クリスの言ったとおりだった。本道をそれた店っていっても、そんな店はいくらでもあるし、酒場なんてそれこそ星の数ほどありそうだ。僕はクリスに言った。

「ねぇ、少しお金をくれないかい?」クリスはどうして、という顔をした。僕がいいからというと、クリスは財布から銅貨を一枚くれた。僕は周りを見渡して、目指す人を見つけた。通りを少しふらついた足で歩いている人だ。僕は彼に近づき、その手に銅貨を握らせた。

「すいません、看板に馬が描かれた酒場を知りませんか?」男は手を握って銅貨の感触を確かめてから言った。

「馬車馬亭のことかね?そ れなら、そこの宿屋の裏をずっと行ったところにある。」

「ありがとうございます。」男はうなずくと、銅貨を握ったままその場を立ち去った。

「イェリシェン、どうしてお金なんかあげたの?」クリスがけげんそうに尋ねた。

「こういう街じゃ、普通に尋ねても教えてくれるとは思わなかったからね。」僕はこともなげにいった。

「へぇ。でも、あなたこういう街に来たことがあるの?」クリスに言われて初めて気付いた。僕は困惑した。

「たぶん。なんとなく、そうしたほうがいいと思ったんだ。」僕はかたをすくめ、おどけた調子で言った。クリスはとりあえず納得してくれたようだった。

「まぁいいわ。早く馬車馬亭とやらに行きましょうよ。ヤコブ爺の話なら、一日くらい止めてもらえそうだし。野宿も悪くないけど、今日ぐらいは柔らかいベッドの上で寝たいわ。」クリスは大きく伸びをした。その拍子にクリスのおなかがなった。僕は笑った。


 馬車馬亭は、本道から少し離れたところにあった。革製品を扱っている店や、肉屋に挟まれており、両側の店と比べると古臭い印象を受けたが、落書きなどはなく、こぎれいなたたずまいだった。扉の上に横棒が道に向かって突き出しており、そこに荷馬車を引く馬が絵が荒れている看板が掛けられていた。

「馬車馬亭。」クリスは確認するように看板の字を読み上げた。僕はうなずき、樫でできた扉を引き開けた。

 店内はこころなし暗かった。明かりは天井近くにある窓から取り入れられており、それが唯一の光源だった。まだ開店前というのに、常連客と思しき一団がテーブルの一角を占拠しており、ちびちびと酒を飲んでいる。ほとんどは酔い潰れ、テーブルに突っ伏して寝ていたが、その背中には毛布が掛けられていた。

 僕らは酔っ払いの視線を感じながらカウンターへと向かった。カウンターにはヤコブ爺くらいの年輩の女性が、グラスを磨いていた。

 よく梳られた髪はほとんど白かったが、幾筋か赤が混じっており、若いころの真っ赤な髪を容易に想像することができた。髪は肩より少し長くたらされており、それを後ろに束ねていた。目じりと口元にしわが広がっていたが、今は不機嫌そうな顔をしている。店主は目も上げず、ぶっきらぼうに言った。

「今は開店前だよ。宿をとりたいなら、一泊銅貨三枚。一枚足せば夕食ぐらいは出してやる。」

「ヤコブ爺にここを頼れと言われたんですが……。」店主はグラスを落とす勢いで、カウンターから身を乗り出した。

「ヤコブがかい?あいつ、なんて言ってた!?」僕らは相手が急に態度を変えたことに驚いた。その声には、どことなく嬉しそうな響きがあった。常連の何人かも、こちらを見ている。

「いや、特には何も。ただ、これを見せれば力を貸してくれると。」そう言って、剣帯から鞘ごとはずすと、身を乗り出している店主に手渡した。店長は鞘を入念に見たあと、剣を引き抜いた。済んだ鈴のような音色が店内に響き、眠っていた者たちが目を覚ました。彼らは踊り手あたりを見回し、その視線が剣をとらえると、皆一様に目をみひらいた。

「なるほど、確かにあいつの剣ね。それで、私にどうしてほしいんだい。」店主は僕に剣を返していった。

 僕は簡潔に自分の境遇を話した。自分が川から流されてクリスに救われたこと、意識が戻ったら記憶がないこと、村に山賊がきて、僕が倒したこと。クリスに言われたとおり、僕が黒魔法を使ったことは伏せておいた。

「ふ〜ん。それで、あんたはどうしたいんだい?」店主は尋ねた。

「記憶を取り戻したいんです。だから、僕を知っていそうな人を知りませんか?」店主は毒づいた。

「ヤコブめ、なんも連絡よこさないと思ってたら、やっかいごとをわたしにおしつけやがって・・・・・・。」クリスがおずおずと尋ねた。

「手を貸してくれないんですか?」

「いや、貸してやってもいい。だが条件がある。あんた、腕は立つんだろ。最近、夜にふらっと出かけてから、姿を消すやつがいてな。人さらいなんて噂まで出てきちまってる始末だ。人さらいなんて信じちゃいないが、人がいなくなってるのは事実だし、客足が途絶えるのも困る。だから、何がこの町に起きてるかを調べてほしい。もし犯人がいるんだったら、ここに連れてくること。そうしたら、あんたを知ってるやつを教えてやろう。」

「僕のことを知ってるんですか?」僕はほとんど叫びだしそうだった。こんなに早く見つかるとは!

「別に私はあんたなんか知らないよ。あんたを知ってる人を知ってるんだ。」店主は謎めかしていった。

「それはどういう……。」店主が途中で遮った。

「これ以上は教えないよ。さぁ、やるのかやらないのかはっきりしな。」僕はまだ聞きたいことがあったが、クリスが引き留めた。

「大丈夫。私もいるから、人さらいなんてへっちゃらよ。」と、肩にかけた弓を揺らした。女のクリスがやる気なのに男の僕がしり込みするわけにもいかなかった。

「わかりました。引き受けます。」こうして僕は、最初にたどり着いた町イグリスで、人さらい探しをすることになってしまった。





どうも、ジョンです。この前の更新からずいぶん時間がたってますね。その間に読者数も増えていて、私としては踊りたい気分です。……踊っちゃおうかな?

 まぁ冗談はさておき、ここから第二章が始まります。はたして、イェリシェンは記憶を取り戻すことができるのか。まぁ、それは後々わかることです。

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