第十九話:旅の終わり
「うわあああ!」悲鳴を上げながら目が覚めた僕は、文字通りベッドから飛び上がるようにして毛布を弾き飛ばした。
「うおっ」
「きゃあ」
「なに!?」
それに呼応するようにあがる驚愕の声。驚かしたのは僕なのに、僕自身がその声で驚き、辺りを見渡した。
周りには、クリスにマリアさんにガウェイン。それに、
「貴様、これは何の真似だ」
僕が弾き飛ばした毛布を頭からかぶった、ヘイルの姿があった。
僕が目覚めたところは、アングルマルの城の中ではなく、ましてや荒野でもなかった。そこは四角い石造りで、ベッドと衣装棚の他に何も無い、見覚えのある家具の配置がされている部屋だった。王都グーリアンの城にある寝室である。僕がここに来るのは二回目だ。広くないスペースのほとんどをベッドで占有しているこの部屋には五人が座る椅子もスペースも無いために、一人はひとつしかない円椅子に、僕はベッドの隅に移動し、開いたスペースに二人が座った。あとの一人は戸口のそばの壁に寄りかかっている。
「全く、眠ったきりだと思ったら今度は叫びながら起き上がるとは。少しは問題を起こさない努力ができないのかお前は」その一人、戸口によりかかって腕を組んだヘイルが言う。いつもの不機嫌そうに眉間に寄せたしわをさらに深くしている。
「イェリシェンって本当にユーモアな人ね。いつも人を驚かせてばっかり」クリスもいやみたっぷりに、僕をジトリとにらんだ。二人はよく意見が対立し、その度に僕が気をもむのだが、僕のことで二人の意見が合うのは何だが複雑な気持ちが湧き上がってくる。
「まぁまぁ、そんなに責めないでやれよ。毎日看病してて心配だったのは分かるけどさ」ガウェインは丸椅子を前後に揺らしながら口の端を上げた。器用に三本足の椅子の足一本でバランスを取っている。
「ガウェイン、そういうことは言わなくていいのっ」クリスがウェインの椅子に軽く触れると、彼はとたんにバランスを崩してひっくり返った。二人のやり取りに、小さな笑いが起こる。
「イェリシェン、何笑っているのよ」クリスがまたもや食って掛かる。
「いや、ごめん。なんだか、懐かしい感じがしちゃってさ」
「高々一週間だろ? しかもお前は寝てたんだから一瞬さ。もしかして、まだ寝ぼけているのかい?」
「違いない」僕が答えるよりも早くヘイルが口を挟む。先ほどよりも大きな笑いが起こり、それにはクリスも含まれていた。
アングマルでの最後の戦いがあってから、一週間。その間ずっと、僕は眠っていたらしい。
傷はすぐにマリアさんが癒してくれたらしい。最後の記憶だと、腹部がごっそりなくなっていた気がするのだが……やめよう。考えるだけで痛みがぶり返してきた気がする。
それでも、そのかいはあった。僕がかばった少女は、致命傷を負わずにすんだ。今はマリアさんが引き取って世話をしているらしい。
「でも、ある意味眠ったままでよかったかもしれませんね。あの後、すごくばたばたしていましたし」とマリアさん。
「そうだぞ。あの後、サン国とアングマルが無期限の休戦協定を結んだんだ」
「え!?どうして!?」僕の問いに、ガウェインは椅子に座りなおして答えた。今度は気持ちクリスから離れている。
「どうしてって、俺らは仮にもアングマルの王様を殺してしまったんだぜ? 今回の戦争の口火を切ったのは向こうで、言い出したのは死んだ王様だ。世継ぎもいないし、向こうには戦争を続ける理由がなくなっちまったんだよ。で、サン側も積極的に攻める気はないから、休戦しましょうって話になったわけ」
「表向きはな」ヘイルが続ける。
「私たちは敵の国の中心で捕らわれた。一国の王を暗殺したのだ。しかも私は敵国の王子だ、殺されて当然だった。しかし彼らの王は偽者であることが分かった。いつから入れ替わっていたのかすら分かっていないようだった。間違いから始まった戦争が、もし私たちをそのまま手にかけてしまえばとめられなくなる可能性があった。そしてかの国は私たちが思っている以上に疲弊していた。このまま戦争を続けてれば仮に勝っても滅んでしまうほどにな。負けることなどありえんが」
「とにかく、彼らには時間が必要だった。王のことを調べるのにも、態勢を立て直し国力を回復するのためにも。そこで兄上……ガナ第一皇子が我々の身柄と引き換えに休戦協定を持ちかけてくださり、無期限の協定が締結されたのだ」
「それでも大変だったんですよ。王様の中身がモンスターだったって言っても、中々信じてもらえなかったですし」マリアさんが苦笑いを浮かべる。
「イェリシェンがグラムにそっくりだから余計に事態がこんがらがったりしてね。肝心のグラムはどっかに消えちゃうし」クリスがため息をつく。
戦いの顛末はさっき聞いた。何でも、グラムが拘束を解き、しかし敵をしとめられなかったところを、クリスが放った魔法の矢が援護したらしい。グラムは敵に一太刀浴びせたがしとめきれず、敵は謎の空間を生み出して逃げ出した。グラムはそれを追って謎の空間に入り、一緒に消えてしまったそうだ。
「それを聞くと、とても説得できるような状況じゃなかったみたいだけど」途中で意識を失ったとはいえ、その場でいた僕でさえその話を理解するのは大変だったのだ。アングマルの人達を説得するのは言葉以上に大変だったのだろう。
「ああ、それな。向こうの将の一人が俺らを擁護してくれたんだよ。ほら、覚えてないか? 途中で乱入してきた、ヘイルよりもデカイ剣担いだ男」その言葉に、ヘイルがピクリと反応した気がする。
「そこそこ位のあるやつなんかねぇ。あいつが証言してくれたおかげで、向こうのやつらも話を聞いてくれる様になったし」
「王の皮だけになった死体を見れば、やつらも信用せざるを得なかったろう」ヘイルが口を挟む。
「何イラついてるんだよ。キャラかぶってるの気にしてるの? 向こうの方が剣でかいし」
「被ってなどいないし、剣はでかければいいものではない。それは貴様が一番よく知っているだろう、ガウェイン!」ヘイルが怒鳴る。
「じゃあ謹慎になったこと、まだ気にしてんの?」ガウェインはニヤニヤ笑いを崩さない。
「え、なにそれ。私たちも初耳よ」
「ああそっか、お前らは知らないよな。こいつ、誰に言わずに国飛び出してたらしくてさ、おまけに休戦協定のだしにされたんで、こいつの兄貴かんかんに怒ってやんの」
「兄上をそのように呼ぶでない!」ヘイルはガウェインに拳骨を見舞った。ガウェインは首をすくめてよけようとしたが、ヘイルの拳の方が早く、鈍い音が僕にも聞こえた。
「ヘイル、その話本当かい?」八つ当たりだとぼやくガウェインを無視して尋ねる。
ヘイルはうなづいて見せた。いつもしわを寄せている眉が、少しばつが悪そうに下がっている。
「そうか……すまなかった。国境を越えて連れまわしたのは僕だ」
「ついていったのは私の意志だ。私に対して責任が負えるなど、勘違いもはなはだしい」ヘイルは不愉快だというように鼻を鳴らした。
「気にするなって言えばいいじゃない。素直じゃないんだから」
「違う! 私はこいつが自分が旅のリーダーだったかのようにうぬぼれているから」
「はいはい。でも、ヘイルの言うことも一理あるわ」クリスは遠慮せずにヘイルの言葉をさえぎった。
「私たちは誰一人だって、あなたに命令されてなんか無い。自分の意思で、一緒に旅をしたのよ」ね、と同意を求めるクリス。マリアさんははいと答え、ガウェインはうんうんとうなづき、ヘイルはフンと鼻を鳴らした。
その後も話は続き、話題はみんなの今後のことへと移っていった。
ヘイルはしばらくは王都からでない、もとい出られない。その間は、王都で部隊の編成と教練に取り組むらしい。
「無期限の休戦協定よ? しばらくは戦もないし、もしかしたらこのまま戦争が終わるかもしれないのよ。少しは兵隊さんたちを休ませて上げたら?」クリスの意見に、ヘイルは首を横に振る。
「逆だ。無期限ということは、いつ始まってもおかしくないということだ。明日に突然開戦、とは流石にならないが、その心積もりでいなければいけない」言い終えた後で、ヘイルは付け足した。
「兵士を休ませるべきという君の考えも最もだと思う。だが、休戦は戦が終わったわけじゃない。戦争中なんだ」
「そういうこと。だから動けない皇子様の代わりに、俺が手となり足となって身を粉にして働くわけ」わざとらしくガウェインがため息をつく。
「嫌なら国に帰っていいんだぞ」ヘイルは冷たく言い放った。
「嫌だなんて滅相もない。皇子の命とあっては精一杯勤めを果たす所存でございまする」
「ヘイル皇子のご命令? ガウェインさんは国に戻られないんですか?」マリアさんが尋ねる。
「あんたら助けるときに頭領裏切っちまったからなぁ。あいつは人望なかったけど、代わりに大きな力を持ってた。今戻ったら、名を上げたい奴らに報復という名目でなぶり殺しにされちまうよ。しばらくは戻れそうにないわな。別に戻らなきゃいけない理由もないし」ちらりと自分の腰に視線をやるガウェイン。服に隠れて見えないが、そこには彼の父の形見であるふた振りの短剣があるのだろう。
「でも、俺こっちに市民権も滞在許可証もないからこのままだとユピテルに送り返されちゃうんよ。てか、元々こっちの出身じゃないから取引のときもおいてかれそうになったんだけど」
「そのときは私の護衛と嘘をついたのだ、こいつは」
「嘘ってわけでもないだろ? こうして雇ってくれたんだしさ」
「雇うって、ガウェイン、君ヘイルの近衛兵になったの?」僕の質問に、ガウェインはいつもの片頬だけを吊り上げる笑みで答えた。
「表向きはな」とヘイル。
「本当の役割はサン国内での魔物の調査と、各町村での聞き込みだ。手始めにグロックの被害の再確認とオーガたちの動きを調べてもらう」
「グロックを調べるって。何か気になることでもあるの?」
「前にイグリスの話をしただろう。お前が意識を失っている間にクリスからその他の道中の話も聞いたが、どう考えてもお前の旅での魔物の遭遇率は不自然だ。しかし、調べてみると他にも魔物の襲撃や見たことのない種類の発見報告があがっている」
「それは……どういうことなのでしょう」
「分からない。だからそれを調べるのだ。魔物達の活発化や異種の出現が、一体何を意味しているのかを」ヘイルの物々しい言葉に、マリアさんは不安げに胸の辺りを握り締めた。
「大丈夫、その大事な任務に俺様が行くんだから。ちんけな異変くらい、調べるついでに片付けてやるよ」ガウェインは立ち上がってえらそうに胸を張ったポーズをとると、マリアさんに片目をつむって見せた。
「そうか。お前がそんなにやる気だったとはな。他にも何人かに頼むつもりだったが、この際全部やってもらおうか」
「……全部?」ガウェインはポーズをとったまま首だけヘイルのほうに向けた。ヘイルはうなづいた。
「サン国全土を?」
「三ヶ月以内に、一人でな」あ、ヘイルが笑った。グラム並みに悪い顔してる。
「マリアさんはどうするんです?」差し出されたコップを感謝して受け取りつつ、マリアさんに尋ねる。種類は分からないが、ほのかに甘い香りがする。思えば、おきてからずっとしゃべり通しだ。ハーブティの差し入れはうれしい心遣いだった。
「私もグーリアンに残りますよ。元々ここに住んでますし、それに今はあの子もいますから」ハーブティーを皆に配りながら、マリアさんは答える。
「エレンの様子はどうなの? 少しはよくなった?」
「ええ、以前よりは。彼女は見た目の年齢以上に賢く、大人びているみたいで」そう答えるマリアさんの表情はしかし、暗いものだった。
「まだ、心を開いてくれない?」
「ええ。食事の時以外はずっと厩舎でロバの世話をしています。眠るときも一緒です。……本当は、読み書きを教えてあげたいんですけど」そしたら、彼女のことがもっと分かるのにとマリアさんはつぶやいた。
「せめて話すことができたらね。そうだ、マリアの力で治すことはできないの?」
「治せないのです……私の力では」クリスの質問に、マリアさんは悲痛と呼べるほどさらに表情を曇らせた。
「あの少女は話せないのでなく、話さないのだ。厳密に言えばな」言いづらそうにしているマリアさんを見かねてか、ヘイルが答えた。
「彼女の癒しの力でも話すことができないので、他の医者にも見せて調べた。結果、あの少女の発声器官は先天的にも後天的にも問題なかった」
「それって、つまりエレンが話そうとしていないってこと?」
「それもありえないわけじゃないが。おそらく、精神に強い負担をかけられ続けた結果だろう。彼女の生い立ちと容姿を考えれば、容易に想像がつく」
脳裏にあの時の村人の言葉が浮かぶ。
『穢れた血』
それの意味は知った。けれど、それによって彼女に何が持たされたのか。ヘイルは想像に難くないといったけど、僕には無理だ。『穢れた血』と呼ばれ、果てに声を失う程の責め苦がどのようなものだったのか。僕には想像すらできない。想像したくない。
「グラムめ、戯れに少女の心を壊すなど、何を考えているのだ」ヘイルは低い声でつぶやいた。
「え、それってグラムのせいなの?」
「そうにきまっている。出なければ、なぜ少女を連れまわしたのか説明がつかん」
ヘイルは少女エレンがしゃべれないことをグラムの虐待のせいだと思っているようだが、僕にはそう思えなかった。
あの時、グラムは少女を助けようとしていた。それに、あの時少女があの場に現れたのも、グラムを探しにきたのではないだろうか。虐げ、虐げられる関係の二人がそんな行動をとるとは思えなかった。しかし、ヘイルの言うことも一理ある。なぜグラムはエレンという少女を殺さず、生かして、さらに共に旅をしたのか。元々同一であったはずなのに、僕は彼が何を考えていたのかまるで分からなかった。
「それで、クリスはどうするんだ? 学校行くのか?」しばらく部屋の隅で固まっていたガウェインは、何事もなかったかのように会話に加わった。
「学校?」僕はオウム返しにクリスに尋ねる。
「イェリシェン、私、その。自分でもどうやったのか分からないけど、私の射った矢が爆発したの。それで、ヘイルが校長に話をして、そしたら来たらどうかって話になって、その……」珍しく要領の得ない言い方をするクリスに、マリアさんが助け舟を出した。
「クリスさん、魔法学校から推薦が来ているんです」
「それって、前来た時に町で炎を放っていた、あの?」クリスが遠慮がちにうなづく。
「私がファリス導師に話し、推薦をもらった。彼女は魔法の才能がある」とヘイルは言った。
「すごいじゃないか! じゃあ、クリスは魔法使いになれるんだ」
「そのことなんだけど、まだ迷っていて。実はヤコブ爺にも手紙で報告したのだけれど、そしたらこっちに来るって。返事は相談してからにしようと思うの」クリスがヘイルに尋ねるような視線を送ると、ヘイルは小さくうなづいた。
「ファリス導師には私から伝えておこう」
「それで、イェリシェンさんはどうします? 今のところ、皆がグーリアンに残りますよ」マリアさんの言葉に僕ははっとした。
これからどうするか。グラムは消えてしまったが、会うという目的は達成した。彼と僕とは違う人間だという結論を見つけることもできた。もう旅をする必要はないのだ。
「まあじっくり考えればいいじゃねえか。まだ起きたばっかりだし。何なら俺と一緒に国めぐりしてくれてもいいんだぜ」
「自分が楽したいだけでしょ、ガウェイン」
「だってー。俺一人でサン国全土とかきつすぎでしょー」
「できないなら雇う必要もないな。国にかえるがいい」
「はい、やります」いきなりきりっとした様子のガウェインに、思わず皆から笑いが起こった。
穏やかな空気に気が緩んだのか、あくびが漏れた。それを見たマリアさんがベッドの縁から腰を上げる。
「そろそろお暇しますね。随分長居をしてしまいました」
「もうそんなに時間経った?」言いつつクリスも立ち上がる。
「もうすぐ二刻ほどになるな。私も仕事があるから失礼する」
「仕事、仕事ときますか。皇子様は今日もお忙しいようで」
「貴様も来るのだ、ガウェイン。調査だけが仕事と言った覚えはない」
「えー、これ以上働かせるつもりかよ」不満の声を上げるも、またなと僕に手を振りヘイルに続いてガウェインも出て行く。
「それじゃあ、私も今日は帰りますね。またきますけど、イェリシェンさんも遊びに来てください。きっとエレンちゃん喜ぶと思いますから」
「そうするよ」
約束ですよ、と言い残してマリアさんも部屋を出て行った。部屋に残ったのはクリスだけになった。
「そういえば、クリスはどこで寝泊りしているんだい? マリアさんのところにいるのかと思ったけど違うみたいだし」
「最初はそれも考えたんだけど、エレンがいるからね。マリアの家も三人住むには流石にね。あの子が家の中で眠らないとしてもね。ヘイルが部屋を貸してくれているの。すっごい広いんだから。見たらびっくりするわよ」クリスは来賓用の部屋に泊めてもらっているらしい。最初は僕と同じような部屋で良いといったそうだが、ヘイルが頑として譲らなかったとか。
「そうか。じゃあ安心だ」僕はうなづいた。
そこで会話は途切れたが、クリスは部屋を出なかった。視線は扉と僕を行ったりきたりしている。
「? どうかしたの、クリス?」
「な、なんでもない。また明日ね、イェリシェン!」クリスは言うと扉に手をかけて、またその手が止まった。
「クリス?」
「……旅、終わっちゃったね」ポツリと。僕に振り返ってクリスは言った。
「うん」
「これから、どうするの?」
「……ごめん。まだ何も考えてない。なるべく早く決めるよ」
「そっか、そうだよね。いいの、急かすつもりはないから。ゆっくり決めて」
「……何か、言いたいことがあれば遠慮しないで」
「ありがと。でも自分でも何が言いたいのかはっきりしなくて」どこか悲しげな雰囲気をたたえて、苦笑いを浮かべているクリス。
「そっか」僕の返事に、クリスはうんとうなづき返した。
しばらくどちらも何も言わず、時間だけが過ぎていった。クリスはその間も戸口に立ったまま、視線をさまよわせていた。
しばらくして、クリスがつぶやくように話し始めた。ひとつひとつ、確かめるように。
「あのさ。私たちって、不思議な縁だよね。最初はイェリシェンが一人で行こうとして、でも私がついていって」
「うん」
「その後マリアが一緒になって、その次はヘイル、最後にはガウェイン。随分増えたよね。旅を続けてたら、もっと増えてたかも」
「はは、そうかもね」
「でも、旅は終わったね」
「うん」
「私たちは、どうなるんだろう」
僕は、何もいえなかった。
「旅が終わっちゃったからさ、理由、なくなっちゃったんだよね、皆と一緒にいる。そりゃ、今は皆この町にいるけど。ガウェインは調査に行っちゃうし、マリアもエレンのことが落ち着いたらまたどこかに派遣するだろうし。ヘイルなんかこうして会うこともできなくなっちゃう」
「クリス、それは」
「そしてイェリシェン。あなたは今度は何をするの? どこに行くの?」
「クリス」
「……ごめんなさい。もう行くわ」
「クリス……!」僕の制止の声を聞かず、クリスは部屋から出て行った。追いかけるべきだったのかもしれないが、僕はそうせず、あきらめてベッドに体を預けた。
『私たちは、どうなるんだろう』クリスの言った言葉が頭の中でぐるぐる回っている。
旅が終わった。それは同時に、僕らの別れも意味している。
無駄に長い。でも、手抜き。