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Last Game  作者: じょん
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第五話:内包せしは闇

「イェリシェン!? イェリシェン!」倒れた彼に駆け寄る。彼は野盗の頭に切りつけられて傷だらけだった。特に今の一撃は深く入ったようで、胸からわき腹まで斜めに入った傷からは血が滔々と流れている。

「ひゃははははは! こいつ、偉そうなこと言って、一撃も返せなかったじゃねえか。とんだ英雄気取りだぜ!」頭の高笑いに部下たちも釣られて笑っている。

その時、苦しげに目を瞑っていたイェリシェンが不意に目を見開き、意識を取り戻した。

「イェリシェン! ああよかった。生きてたのね」ほっとして、思わず彼に抱きつこうとする。しかし彼は私を押しのけると、すっくと立ち上がった。

「おれはまだ死んでないぞ。さあ、続きをやろう」

「イェリシェン……?」何だろう。急に、彼の雰囲気が変わった気がする。

「ち、浅かったか。まぁいい、今度こそ終わらせてやる。」そういうと、頭は猛然と切りかかった。

 イェリシェンはそれを平然と止めた。先ほどは必死になって防いでいた攻撃を、だ。

「何!?」頭は驚き、今度は先ほどよりも素早く、何度も切りつけた。それを平然といなすイェリシェン。

「な、なんなんだてめえ!?」頭は先ほどと天と地ほども違う相手の動きに驚き、後ずさった。

「もう終わりか。なら、こちらから行くぞ。」威圧的で、冷笑を含んだ声だった。とてもイェリシェンのものとは思えない。

 剣撃も全く違うものだった。明らかに鋭さを増した激しい打ち込みは、受けた頭をよろめかせるほどだった。今の一撃で手首を傷めたらしく、もう一方の手で手首を押さえている。

「て、てめぇ!」イェリシェンは頭の悪態にも意に返さず、さらに剣を振るった。頭はさっきと逆の状態で、イェリシェンにいたぶられていた。

「っくそ、このやろ。野郎ども、やっちまえ!」頭の呼び声に応え、手下たちが総出で襲いかかった。

 イェリシェンは最初に襲いかかってきた男の手首を切り落とし、二人目の喉を引き裂いた。男たちが切りかかるも、それを踊るようにかわしながら一太刀ごとに一人、また一人と切り捨てて行った。

「くそ、てめえは一体何なんだよ!」頭が仲間の隙間から剣を振り下ろす。

 その腕は空を切り、そして頭の体から離れていった。

「ぎゃあああああああああ!」野盗の頭が野太い声で叫んだ。彼の腕は切り落とされ、本来肩の付け根である部分から噴水のように血が噴出している。

「お、お頭ぁ!」手下の何人かが叫んだが、彼らは駆け寄るようなことはしなかった。頭の腕を切り飛ばした張本人であるイェリシェンがいるからだ。

「いでぇ、いでぇよおおぉお!!」頭は傷口を片手で押さえたが、血はどくどくと流れていく。力が抜けたのか、頭は、イェリシェンの前に両膝をついた。

 その胸を、イェリシェンは容赦なく貫いた。

「あ……?」頭は最後に間の抜けた声をこぼしたかと思うと、カクンとこうべを垂れた。そしてイェリシェンが剣を引き抜くと、くたりとその場に丸まるように倒れた。

「お、お頭が殺された……」盗賊の誰かがつぶやく。それはざわめきとなり、イェリシェンを囲う輪がじりじりと広がっていく。

「おい、逃げられたら困るんだが」おもむろに、イェリシェンが口を開いた。その声に盗賊たち全員が凍りつく。そして見入っていた。イェリシェンがしていることを。

 イェリシェンの胸の傷から、それは漏れ出していた。それはもやのようにかすんでいたが、乾いた血のような黒さをしていた。それはイェリシェンの右手に集まっていくと、少しずつ形を成していった。

 黒いもやで覆われたそれは、おおよそ剣のような形をしていた。

「お前らの命をよこせ」イェリシェンは一人の盗賊に近づいたかと思うと、それをそいつに突き刺した。

「ぎゃ嗚呼あああああああああああああああ!!」男は体をぶるぶると震わせ耳を劈くような悲鳴を上げたかと思うと、不意に首をだらりと垂れた。イェリシェンが黒靄の剣を抜き取ると、傷口からは血すら出なかった。

 そこからは地獄絵図だった。

 盗賊たちは、瞬く間にイェリシェンの黒靄の剣にほふられていった。最初は抵抗しようとした盗賊たちも、イェリシェンの卓越した剣技に瞬殺された。逃げるものは、後ろから切りさかれた。

 立場の逆転した盗賊たちは、数分もせずにみな地面に転がる躯となった。

 それを私は、呆然と見ていた。顔色一つ変えずに、虐殺をしていくイェリシェンの姿を。

 「……イェリシェン?」盗賊の骸が転がる広場に、一人たたずむ彼に声をかける。視線のおくでは、いつから見ていたのか村人たちが協会からぞろぞろと出てきているのが映っていた。イェリシェンは返事をせず、ゆっくりと頭をめぐらせた。

 はっと息をのんだ。イェリシェンではなかった。いや、顔はイェリシェンそのものだった。ただ、何かが違った。その瞳の奥に宿る光が違っていた。 イェリシェンはにやりと笑い、くずおれた。


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