第五話:夜襲
その夜、僕は窓辺に寄りかかって毛布をかぶりながら、明かりの無い部屋を見つめていた。一日中歩
いて疲れているはずなのに、眠れなかった。いや、正確には一度眠ったのだが、起きて目がさえてしま
ったのだ。それというのも、ベッドに横たわっている存在のせいだ。
「……なんで一部屋しかないんだよ」愚痴をこぼす。勿論、眠っている二人を起こさないよう聞こえ
ないよう、小さな声で。
借りた部屋は一部屋。作りはヘイル皇子のと同じで、小さなテーブルと、ベッドが一組あるだけ。そ
のベッドに二人、クリスとマリアさんは仲良く眠っている。ただでさえ小さなベッドに、二人が寝ると
いうのは不可能に思えたのだが、どちらかが落ちることなく、また落とすこともない。だが、どこでそ
うなったのか、二人の手足は変な具合に絡み合い、掛けていた毛布がはがれている。先ほどそれに気付
いて毛布をかけに行ったのだが、服の一部がめくれあがったりしていて、精神衛生上非常によくなかっ
た。それでも、目をつむったりなんだリして何とかかけてやった毛布も、ものの数分もかからないうち
にはがされてしまった。
「加えて、これだものな」と壁を見つめる。その壁を通して、重低音の長い響きが絶え間なく聞こえ
てきている。
「まるで竜のうなり声だ。……本当に皇子なのか、ちょっと疑問に思えてきたな」そう。目が覚めた
のもこれが原因だ。
この部屋の壁は相当薄いのか、音がそのまま伝わってくる。皇子が寝る前まで何やら準備をしていた
のもわかったし、今は同じ部屋で寝ているのかと思うほど、いびきがくぐもらずにきれいに響いてい
る。それがうるさくて、とてもじゃないが眠れない。
ため息交じりに、夜空を見上げた。眠れないならいっそ、この状況を楽しもうと思ったのだ。だが、
小窓はくすんでいて、満足に空を見ることもできない。よく見れば、縁に埃がつもっている。試しに指
でこすると、埃の塊があっという間に出来上がった。
埃の塊を指で丸めて弾くと、服の袖で窓を拭いた。袖が汚れてしまうが、もともと旅で汚れてしまっ
ているからあまり気にすることでもない。
そうして一部だけきれいにした窓から、覗き込むように見上げた夜空は、かけ始めた月に雲がかかっ
てしまって何とも面白くない風景だった。星まで薄い雲に覆われて見えない。
僕は二度目のため息をついた。うるさくて眠れないのに、気晴らしもできないのでは、余計に耳を澄
ましてしまって、うるさく感じてしまうではないか。
そう。だからすぐに気がついた。誰かが階段を上ってくる音に。
亭主かもしれない、という考えはすぐに捨てた。できるだけ音を立てないようにするとしても、足音
は神経質なほどゆっくり、静かに上ってくるし、あの愛想の悪い亭主がそこまで気の回る男には思えな
い。
何より、足音は一つだけではなかった。一つ、二つ、三つ……。わからないが、かなり多い。一番近
い足音が二階の廊下にたどりついたのに、階下からまだ足音が聞こえる。
気付けば、剣を手に持ったまま、戸口の前で息を殺している自分がいた。剣は鞘から抜いていない。
抜けば音で気づかれる。剣を抜くとき、このダマスカス鋼の剣
は、特に大きな音を立てる。突然鈴の音がしたら誰だって警戒する。
だから、今は戸口の前で身構えていることしかできない。相手が何者かはわからないが、扉に鍵がか
かっている以上、壊して入るしかないはず。その不意を突けば……。
足音が扉の前でとまった。柄に手をかけながら、二人を起こしたほうがよかったかもと思った。い
や、それで物音をたてて気付かれるのが関の山か。
扉の向こうから、金属の音が聞こえてきた。小さな金属がこすりあうような、チャリチャリとし
た……。
扉に鍵が指し込められる。あわてて鍵のつまみをつかんだ。同時に、つまみが回転しようとする。そ
れを力づくで抑える。
相手は鍵を持っている!? なぜ、どうして!?
「おい、どうした?」扉の向こうから、押し殺した低い声が聞こえた。
「いや、あかねぇんだ。たてつけわるくなってんじゃねぇか?」鍵を回しているらしき男が同じささや
きで答える。
「ん?馬鹿、そっちは違う、皇子は隣の部屋だ。気付かれたらどうする!」何かがたたかれる音がした
かと思うと、つまみは動かなくなった。静かに鍵を引き抜く音がし、足音が遠ざかる。
いや、足音は隣の部屋に向かっていく。奴らの目的は、皇子だったのだ。ということは昼間の連中の
仲間だろうか。
それよりも、なぜ皇子だと知っている? あの場で皇子の顔を知っている者がいたのだろうか。それ
に、なぜこの場所がわかったのだろうか。つけられてはいなかったはず……。
亭主か! ならば合点がいく、奴らがカギを持っていたのも。亭主の部屋は皇子の隣。おそらく、僕ら
の会話を盗み聞きしていたのだろう。この宿の壁なら平気で聞こえるのだろう。もしかしたら、この宿
はそう言った秘密の会話を聞くためのものかもしれない。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。このままでは皇子が危ない。いびきはまだ聞こえ
ている。
大声を出すか? いや、それじゃあ間に合わない。
部屋を飛び出して相手の気を引くか? 相手が何人いるかもわからないのに?第一、この宿の廊下では
僕の剣は狭すぎて振り回せない。
そうこう考えているうちに、隣の扉のカギが開く音がした。
「ミキバキバーン!」という物音、でなく破壊音で、私の睡眠は突然覚醒を余儀なくされた。
目を開ければ、部屋中に埃が舞い、木くずが顔やベッドの上に降ってきている。
「皇子!」何事か、と問うより早く、私を呼ぶ声がした。声のしたほう、扉に目を向ければ、グラムの
分身が一人で戦っている。その足元には死体がひとつ。だが、戸口から何人もの男たちが入り込もうと
しているのが見えた。
私は瞬時に状況を理解した。
「下がれ!」分身に命じる。分身は私を見ると血相を変えて、戦っている相手から下がった。敵はそれ
より遅れて私を見た。その顔に、ベッドが直撃した。
あいた口がふさがらなかった。壁を突き破って飛び出した自分が言うのもなんだが、常識はずれにも
ほどがある。
「下がれ!」突然皇子から恫喝され、そちらを見たら、なぜか皇子はベッドを掴んでいた。頭で理解す
るより早く本能が反応し、戦っている相手からとびのいた。その頭をベッドの足がかすめた。
だが僕はまだよかった。相手は突然飛びのいた僕の行動が理解できず、僕の視線の先に首を巡らした
瞬間、側頭部にベッドが横殴りに入り、骨の砕け散る音を部屋中に響かせて吹っ飛んだ。あろうこと
か、というより何を思ったのか、ヘイル皇子は先ほどまで自分が眠っていたベッドを武器にしたのだ。
一瞬にして死体と化し、また飛び道具と化したそいつは、部屋に入ろうとした仲間と一緒に廊下に出
戻った。間髪いれず皇子は扉に走り寄ると、扉を閉め、そこに本来使われない使われ方をしたベッドを
置いた。
ヘイル皇子はパンパンと手をたたくと、飛びのいた拍子に転がった僕と、壁に空いた大きな穴とを交
互に見比べた。
「成程。間に合わないと判断して壁から来たのか。なかなか常識はずれな行動をするのだな、お前は」
「っ! 常識はずれはそっちだ、ベッドを振りまわす奴なんて聞いたことない」思わず言い返す。
「仕方ないだろう。武器は手元になかったし、扉をふさぐ必要もあったからな。とにかく、これでしばらくは時間を稼げる。で、どういう状況なのだ?」
「僕もよくはわからない。多分、昼間の連中だとしか・・・・・・」
「イェリシェン! 一体何が起こったの!?」と、僕の言葉を遮り、壊れた壁からクリスたちが顔を出し
た。二人とも壁を壊した音で目は覚めているみたいだが、服が乱れているうえに、マリアさんの寝癖が
特にひどかった。髪の毛が触覚みたいだ。
「昼間の連中が皇子を狙ってきたみたい。多分だけど、亭主がグル。鍵を持ってたし、会話を聞かれて
たと思う。……それで、どうする? 形勢は圧倒的に不利だけど」ちょうどいいので全員に説明し、ど
うするか尋ねる。正直僕にはお手上げな状況だ。戦うなら徹底抗戦するつもりだが、結果は目に見えて
いる。
で、皇子は何も言わずに僕らの部屋に入っていく。手にはちゃんと荷物を持って。
「ちょ、ちょっと!勝手に入ってこないで……!」
「仕方ないだろう。こっちのベッドは扉をふさぐのに使っているのだから」クリスの制止にも構わず
部屋に入っていく皇子。その意図を測りかねたまま、とりあえず後について部屋を移動する。
僕らの部屋の扉はまだ開いていない。鍵を持った奴は隣の部屋で倒れているし、廊下が狭いので巧く
タックルすることもできないのだろう。だが、それも時間の問題だ。あと数分も持たないうちに、扉は
ぶち破られてしまうに違いない。現に、さっきから扉がみしみしと悲鳴を上げ始めている。
皇子は部屋に入ると、ベッドに向かった。そしてまたつかんで持ち上げた。行動もそうだが、ベッド
を軽々と持ち上げ、振りまわせる彼の膂力は何なのか。ベッドを頭の上に担ぎあげている姿は、どう見
ても一国の皇子には見えない。
「で、何をするつもりなんだ、あなたは」
「なに、お前の行動をまねしようと思ってな」にやりと口の端を釣り上げて答える皇子。どことなく
楽しげに見えるのは気のせいだろうか。
「まね?」おうむ返しに尋ねる。だが、皇子は答えずに、頭の上にベッドを抱えたまま窓に走って行
き……。
「フン!」窓にベッドを投げつけた。
窓はベッドが通れるほど横幅がなかったが、皇子が投げたベッドはそんなことをお構いないなしに豪
快な音を立てて壁ごと窓を突き破った。その拍子にベッドの足が折れ飛んで僕の足元に転がった。
ベッドが通った後には、窓があった場所に窓はなく、人一人がすんなり通れるほどの大きな穴が開い
ていた。皇子は穴の前まで歩いていき、下を見下ろすと、そこから飛び降りた。
「って、ええ!?」思わず声を上げ、窓辺、だったところに走り寄る。気付けば、二人も僕と同じよう
に下を覗き込んでいた。
当の本人は、いたってぴんぴんしていた。壁や窓の残骸の上に立つベッドから降りると、こちらに振
り返り、飛び降りろと手招きしている。……どうやら、ベッドを緩衝材代わりにしたようだが、無茶苦
茶にもほどがある。まぁ、ここは二階なので無謀というほどでもないかもしれないが。
色々と言いたいこともあるが、今は後に続くしかない。窓を壊してから、扉をたたく音が激しさを増
しているからだ。ちょうつがいがちゃらちゃらと音を立てて、生き物みたいに跳ねている。
「二人とも先に。僕は荷物を持つから」僕は二人に言うと、荷物を取りにベッドがあったところに戻
った。三人分の荷物を背負い、ぽっかりと空いた穴に向き直る。クリスは既にいなかったが、マリアさ
んはまだその場にいた。
「何してるんです。早くしないと奴らが来てしまいますよ」窓に近寄りながらマリアさんに言う。だ
がマリアさんはうつむいている。
「……マリアさん?」近寄って顔を覗き込もうと思って、やめた。そんなことをしなくてもわかったか
らだ。
「すいません、足がすくんじゃって」マリアさんは涙声で俯いたまま答えた。膝は小刻みに震え
ており、今にも座り込んでしまいそうだ。
「もしかしなくても、高いところ苦手ですね」マリアさんはこくんとうなづいた。
まぁ、苦手でなくても、二階から飛び降りるのは怖いだろう。僕だって怖い。何の躊躇もなく飛び降
りるヘイル皇子とかクリスのほうが珍しいだろう。だが今はそんなことを言っている場合ではない。も
う扉は限界なのだ。
「クリス!」僕は荷物を下ろすと、一つづつ下にいるクリスに放った。クリスは難なく受け止めたが、
三つ目を僕が手にしたところで、あわてて首と手を横に振った。マリアさんの荷物は異常な重さなの
だ。僕ら二人の三倍はある。クリスに受け止めるのは無理だ。荷物につぶされるのがおちだろう。
「早くしろ!気付かれるぞ!」押し殺した声でヘイル皇子がせかす。そこで思いついた。いるじゃない
か、この荷物を受け止められる人が。
「がっ!? おい、貴様! 投げるなら投げると言え!」突然投げ渡したのだが、ヘイル皇子は落とすこと
なくしっかりと荷物を受け止めてくれた。ついでに文句を返してきたが、それに応じている暇はない。
「ちょっと我慢してくださいね」マリアさんの体に両手を回し、掬いあげるような形で抱き上げ
る。
「と、突然何を……ひゃっ!?」マリアさんは何か言いかけたが、その声は途中でかき消えた。僕がマ
リアさんを抱えたまま飛び降りたからだ。
一瞬、内臓が持ち上がる感覚がしたかと思うと、もうベッドに着地していた。
足に浮いていた分の重さがいっぺんにかかる。緩衝材になるはずのベッドは、流石に二人では重かっ
たのか、それとも度重なるひどい扱いに腹を立てたのか、刹那ほども耐えることなしに壊れ、僕は二人
分の衝撃を自身で受け止めることになった。
「っつ~!」両足のしびれに声をもらしながら、マリアさんを下ろす。衝撃は足の裏から電流のように
頭の先までいくと、今度は緩やかに足へと戻っていく。それに耐えること数秒。知らずにつむっていた
目を開ければ、三人はもういない。
「あれ、皆どこに」道を見渡すと、三人はなぜか路地を走りだしている。
「何してるの、イェリシェン! 早く!」クリスが走りながら振り返って僕を呼んだ。
「?どうして、皇子がいるならあの数くらい……!?」飛び降りた宿を振り返りながら言いかけて、僕
は固まった。
二階の僕らが飛び降りた穴からは何人ものガラの悪そうな者たちが覗き込んでいる。隣のヘイル皇子
の部屋からも数人。まだそれはわかる。どたどたと十人以上の足音が宿から聞こえるのも何とか理解し
た。だが、問題はそこではなく、別にある。視界の端に映った、クリスたちと反対方向の道から、どこ
から、どうして、どうやって、武器を持った異常な数の者たちがこちらに走ってくる。明らかに彼らの
標的は僕らだった。なぜって、口々に
「待てや皇子ー!」などと叫んでいるのだから。
「いったい、どうなって、るんだ!?」何とか先に走っていたクリスに追いつくと、ぴたりと横につい
た。
「知らない! こっちが、ききたい!」後ろの暴漢たちはまだ追ってきている。むしろ暴徒と呼ぶべき
なのだろうか。
「お、皇子は、どうした、の!?」
「さ、先に、行ったわよ!」
「なんで!?」
「知らないわよ! 本人に、聞いてみれば!?」クリスはどなり返した。まいっているのはクリスも同じ
らしい。マリアさんも必死についてきているが、僕らから遅れ始めている。
「くそ、このままじゃ」追いつかれる。僕だけなら逃げられるかもしれないが、二人を置いてい
くわけにはいかない。これじゃあ、さっきと何も状況が変わってないじゃないか。
「早く来い!」そこに、ヘイル皇子の声が飛び込んだ。前方にヘイル皇子が待っている。あの大きな馬
を引いて。彼が先に行ったのは、どうもあの馬を取りに行っていたかららしい。
「乗れ! なぜかはわからんが、この様子じゃこの町のどこにいても捕まる。町を出るぞ」僕らがヘイ
ル皇子のところまで付くと、皇子は馬をさして僕らをせかした。
「乗れって、この馬そんなに乗れるのか?」僕は驚いて尋ねた。いくらなんでも四人とその荷物を乗せ
て走れるようには思えない。
「流石に全員は無理だ。だが二人なら大丈夫だ。君たち二人は先に門を開け
ておいてくれ。私たち走ってあとを追う」そう言ってクリスに手綱を渡す。
「ちょ、私馬に乗ったことなんて」
「何とかなる。こいつは賢いから行きたい方向に手綱を引っ張れば大丈夫だ」言いながら、遅れて追
い付いたマリアさんを軽々と馬に乗せる。マリアさんは抵抗する気力もなく、馬の上に乗るとぐったり
してしまった。
クリスはため息をつくと、馬に軽々と飛び乗った。
「必ずついてきてね!」僕らに振り返り、それだけ言うと、クリスは馬の腹をかかとで軽くたたいた。
途端、馬は二人分の重さなどを全く感じさせずに、風のように走り出した。
「さぁ、私たちも行かねば。遅れるなよ。お前がつかまっては元もこうもないからな」
「って、もとはといえばあなたが……!」僕の返事を待たず、ヘイル皇子は走り出した。広場で見せた
あの脚力を存分に発揮して、凄まじい速度で走っていく。
「くそ。置いてかれてたまるか……!」そのあとに続いて駆け出す。後ろに迫る暴徒はもうすぐそばま
できていた。
「…ぜぇ、ぜぇ…。っく、…はぁ……。」疲れきって動こうとしない肺を、空気をのみこむようにして
何とか息を吸う。寝転がったくさっぱらの地面は夜露にぬれて、服にしみ込んで背中を冷やす。それ
が、爆発しそうな心臓を抱えた灼熱の体にはたまらなく気持ちよかった。
「何とか、巻いたようだな……」流石のヘイル皇子も疲れたようで、どっかりと地面に腰をおろして
いる。
僕らが門にたどりついたとき、門は開いていた。クリスが門番を(力づくで)説得して開けさせたら
しい。町を出てからもしばらく追いかけてきたので、クリスたちと二手に分かれた。クリスたちは街
道、僕らは森に。結果、一時間ぐらいして合流できたのだが、その間もほとんど走りっぱなしで、数マ
イル近く走った気がしてならない。
「お疲れ様。よく走ったわね。もう普段の半分ぐらい進んだ気がするけど」と、クリスが水筒を僕に
差し出した。お礼をいう気力もなく、口に水を流し込む。飲み終えたのを、座り込んでいる皇子に放
る。
「なんだ、これは?」ヘイル皇子は奇妙な顔つきで僕を見る。
「なんだ、って、水筒だよ」首だけ起こして返事をする。正直、もう体を起こす気力も残ってない。
「それくらいはわかる。そうではなく、なぜ私に渡すのだ?」
「?変なことを、きくね、あなたは。喉が、乾いて、ないのか?」
「いや、喉は乾いているが。私はお前を敵視しているのだぞ」
「そんな事、どうだって、いいじゃ、ないか。飲みたい、なら飲む、飲まない、なら返して、くれ。僕
は、もう一口、飲みたい」持ち上げていた首を地面に落とす。しばらく皇子は何も言わなかったが、
ややあってこう言った。
「そういえばお前、いつの間にか口調が変わっているが」
言われて気がついた。自分でも気付かなかったが、確かに先ほどからなれなれしかったかもしれな
い。
「嫌なら、直すけど、皇子」僕は皮肉をこめて言った。疲れていると、わざわざ敬語を使うのが馬鹿
らしく思えてくる。
「いや、そのままでいい。むしろ、今更変えられたほうが気持ち悪い。あと、皇子はやめろ。今後は、
ヘイルとだけ呼べ」
「それは、ばれないよう、に?でも、ヘイルって、本名、だろ?」
「その点に関しては問題ない。この国ではヘイルは珍しくないのだ。父がそれをわかった上で名付けた
のだからな。」
「それは、どうして?一国の、皇子なら、立派な、名前をつけるべきじゃ、ないのか?」
「だからこそだ。私は皇子であるが、一人の人間、民と変わらぬ人であると。そういう戒めを含めての
名前なのだ。」
「へぇ、王様って、そういう人なのか」心から感心を口にする。それはヘイル皇子、いやヘイルにも
伝わったようで、彼は誇らしげに語った。それゆえに、最後は消え入りそうに悲しげだった。
「そうとも。わが父、王は聡明で公平であり、民を愛し民のために尽くす素晴らしい人だ。……最も、
今はふせってしまわれているのだが」ぽつりと最後の言葉をつぶやくと、ヘイルは水筒をあおった。
そしてそれを僕に投げ返した。
「そら、いつまで寝ている。奴はまだ先にいるのなら、寝る間を惜しんで歩かねば」
こんばんわ、このところ昼夜逆転した生活を送っているじょんです。四時寝、一時起き、ってどうなのか。
若干ギャグテイストになってしまいました。こういうノリは大好きなんですが、雰囲気壊れたりしてないですよね?できれば、今後も笑いの要素は入れたいなーなんて。なに、全然笑えない?知ってる知ってるーorz
携帯で読みにくい、との声があったので、できるだけ区切ったのですが、どうも変に反映されるようで。他の作者様方はどうやっているんですかね。いろいろやってみたいと思います。
次回はグラムが出る予定でしたが、ちょっと視点を変えてみようかなと考えてます。では、次回もお楽しみに!




