第十六話:屈服、そして・・・・・・。
それは一見すると岩の林に見えた。灰色の体に不釣り合いな頭。満身創痍になりながら何とか倒した相手が、群れをなして近付いてきている。それはさながら死が形になって押し寄せてきたかのように思え、先ほどまで祝勝ムードに満たされていた空気は、一瞬にして絶望へと変わっていた。
「そんな、やっと倒したのに。」「あいつらあんなにいたのかよ!」「今度こそ終わりだ・・・・・・。」そんな声が口ぐちに上る。皆一様にうろたえ、途方に暮れている。
「マリアさん、腕は治りそうですか。」切迫した空気の中、周りと同様慌てふためいているマリアさんは、僕の言葉を聞いてもきょとんとしていた。僕はもう一度言った。
「この腕を、あいつらが来るまでに治せますか?」
「え、あ、それは無理です。骨折を治すには十分ほどかか・・・・・・って、イェリシェンさん!?」マリアさんはガバッと顔を上げ、心底驚いた表情を浮かべて僕を見つめた。
「そんな、このけがでは・・・・・・。」マリアさんは抗議の声を上げたが、僕はそれを途中で遮り、クリスに言った。
「クリス。マリアさんと一緒に皆を避難させてくれ。僕が時間を稼ぐ。」僕がそう言ってオーガの群れに向かおうとすると、クリスが二の腕をつかんで引きとめた。
「何言ってるの、あなたも逃げるのよ。」クリスはいつもの有無を言わせない目で僕を見つめたが、僕は首を横に振った。今だけはクリスの言うことは聞けない。
「ただ逃げても、オーガの足じゃすぐに追いつかれる。ましてや村人全員だ、その足はさらに遅い。誰かが時間を稼ぐ必要があるんだ。」
「だったら私も残るわ。」クリスは頑として譲らなかった。彼女ならそういうとわかっていた。そう聞いてうれしさも感じていた。だが僕は厳しい口調で指摘した。
「君の矢はもう尽きてる。それでどうやって戦うつもりだ。」彼女の矢筒を指す。そこには、もう一本だって矢は残ってはいなかった。僕はさらに容赦なく言った。
「第一、弓じゃやつらを倒せない。かすり傷程度だって無理だったじゃないか。」
「でも・・・・・・。」
「足手まといだ!君まで守る余裕はない。早く行くんだ。」僕はどなった。初めて彼女に対して怒りの表情を見せたかもしれない。
「イェリシェン・・・・・・。」クリスは予期せぬ態度に面食らっていた。僕は声を和らげた。
「早く行ってくれ。頼む。」僕はそれっきり、返事も聞かずに走りだした。彼女が最良の選択をしてくれるだろうと信じて。
僕はちょうど村のはずれでオーガ達を出迎えた。家ほどもあるオーガ達が三十匹ほど、半円状になって並んでいた。その中の一体、ひときわ大きく体中に傷跡のある風格たっぷりのオーガが地鳴りのような声を出した。
「オイ、ニンゲン。オデノ仲間ノ像ハドコダ?」そいつはまるでアリを見るかのようにかがみこみ、僕に体に不釣り合いな大きさの、だが僕の体より大きい顔を近づけた。いろんな動物と魚を混ぜて腐らせたようなひどい息が顔にかかった。
「銅像?オーガの銅像なんて誰も作らない。」僕は声を張り上げてどなった。オーガ達に少しでもおびえてるとは思われたくなかったからだ。
オーガ達はしばらく沈黙した。だが、やがてとどろくような笑い声を上げ始めた。
「ヤッパリウソダ、アイツガ銅像ナンテモッテルハズガナイ。」先ほどのオーガが言った。
「ソレデ、アイツハドコダ?カクレタノカ?」なおもガラガラと笑いながら仲間に言う。仲間たちもガラガラと笑った。
「お前たちの仲間なら、おれが殺した。」瞬間、オーガ達の笑いがやんだ。
「ナニ?」ずいと、巨大な顔が、怒りをみなぎらせた顔を僕にまた近づけた。僕は街のほうを指差した。建物に突っ伏しているオーガを。
オーガの中から咆哮が上がった。いや、それは彼らの慟哭だったのかも知れない。彼らが巨大な涙を流し始めたからだ。
「ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」 今やオーガ達は、明確な殺意を持って僕を睨みつけていた。僕は剣を握りしめた。力強く、逃げだしそうな覚悟も一緒に。
巨大な足が持ち上がる。考えることはしなかった。そんな余裕はなかった。影から逃れるように走り出す。だが、逃げた先にいくつも影が先回りをする。真上の空気が押しつぶされてくるのを感じた瞬間、僕は唯一日差しの際こむ場所に向かって飛び込んだ。
一斉にオーガの足が地面にたたきつけられた。土ぼこりが立ちこめ、視界を奪い鼻や口に入り込んでくる。オーガ達も煙で分からないらしく、あしをふみしめたままうごかそうとしない。僕はあと一メートルもないくらい近くに降りてきた足の小指を突き刺した。が、切っ先がほんの少し刺さっただけで、たいした効果を上げられない。
むしろ、自分の生存を悟らせてしまった。刺されたオーガが足を上げ、もう一度踏み降ろす。それは何とかかわしたが、仲間のオーガも僕が生きていることに気付いてしまった。
オーガ達はどすどすと踏みつけ始めた。それは彼ら位の視点から見たらありを踏みつぶすようなものだったろうが、ありである僕にとってそれは、巨木が降り注いでいるかのように思えた。しかも土煙が視界を悪くし、次はどこによければいいかという一瞬の判断が鈍る。
よけ損ね矢は寝た砂利が僕の体を削ってゆく。体はもう限界だと悲鳴を上げ、疲れが四肢を鈍らせる。その度にまぶたが重くなり、頭に声が響く。
俺に代われと。僕では無理だと。それはいら立ちを含んだ声で、事実を告げていた。
彼の言うとおりだろう、僕にはこいつらを倒すことはできない。やられるのも時間の問題だ。
「分かっているならなぜそう意固地になる必要がある。俺なら造作もなく殺せる。お前に死なれるとおれも困る。」
つぶろうとするまぶたを無理やりこじ開け、オーガの攻撃を紙一重で交わす。はねた石ころが額を切り、血が眉間を伝う。
「僕は僕のものだ。ほかの誰でもない、たとえ君が誰であろうと、僕は僕でありたいんだ!」雄たけびを上げながらオーガに突っ込む。巨大な大木が振り下ろされる。もうよける力はない。それでも、僕が僕のままで死ぬのなら・・・・・・。
「うぬぼれるな、お前はたかが・・・・・・。」
街道にさしかかろうとしたその時、それまでひっきりなしに続いていた地鳴りが突然やんだ。皆の足が止まり、後にした村のほうを見やる。かすかだが、群れをなすオーガ達の姿が見えた。
誰も何も言おうとはしない。音がやんだということが、何を意味するのか。その答えは明確すぎるほどだったから。
「ねぇ、どうしてあの人だけ村に残ったの?」子供のこの言葉が沈黙を破った。それは子供にとってただの質問だったが、村人たちの心に深く突き刺さった。あわてて母親が小さい声で諭す。しんと静まり返った中で、親子の会話は筒抜けだったからだ。
「あの人は自分の身を呈して私たちを逃がしてくれたのよ。」
「どうしてあの人がそんなことをする必要があるの。村にはこんなに人がいるのに、戦えるのはあの人だけなの?」子供はさらに母親に尋ねた。そこには遠慮などなく、罪悪もない。ただの疑問があるだけだった。だが・・・・・・。
「それは・・・・・・。」答えに詰まる母親。二人の会話を聞いていた村人たちは、皆一様にうつむいてしまった。
「・・・・・・クリスさん!?どこにいくつもりなんですか?」マリアさんが驚きもあらわに言った。私はたまたま弓を持ってきていた人に、矢だけもらって矢筒におさめているところだった。
「私は戻る。その子の言うとおりだわ。イェリシェンだけ戦う必要なんてない。」私は矢筒のひもが緩んでないか確認し、走っても揺れないように体に密着させた。
「そんな。イェリシェンさんも言ってたじゃないですか!弓じゃやつらを倒すことはできないって。」
「そうね。でも、注意を引くことぐらいはできる。それだけでも時間稼ぎはできるわ。」私はそっけなく答え、村に戻ろうとした。
「クリスさん!」その手をマリアさんがつかんだ。
「イェリシェンさんを残してきたのがつらいのはわかります。でも、今あなたが行ったからって、何も・・・・・・。」
「そんなのわかってる!」私は思わず叫んだ。マリアさんが驚いて手を離す。
「そんなの分かってる。これは私の自己満足にしかならない。時間稼ぎすらできないかもしれない。でも・・・・・・。」
「それでも、何もしなかったことを・・・・・・、イェリシェンのそばにいなかったことを後悔したくない!」私は走り出し、村へと向かった。イェリシェンを置いてきてしまったその場所へと。
クリスが走り去るのを見つめていた村人の一人が言った。
「彼女の言う通りだ。私は村に戻って戦う。」
「私も」「おれも」「俺も」「俺もだ」次々と名乗り出る村人たち。
「どうして彼らばかり戦う?俺たちの村だ、俺たちが戦うべきだ!」最初に言った男が村長に申し出た。村長はしばらく思案顔で考え込んでいたが、やがて深々とため息をつき、そして言った。
「わしたちは、もしかしたら英雄に甘えるようになってしまったのかもしれんのう。困った時は英雄が助けてくれると、わしらがたたく必要はないと、どこかで思いこんでいたのかもしれん。」村長はくの字に曲がった体を起こし、朗々とした響きを込めて言った。
「わしらの村はわしらが守る。旅人ばかりにいいところを持っていかれるな!皆、いくぞ!」
「オオオオオー!」村人全員が、鬨の声を上げた。
「死ンダカ・・・・・・?」群れの中でひときわ大きなリーダーが棍棒代わりの木を振り下ろしたオーガに尋ねる。訊ねられたオーガは、振り下ろした巨木を持ち上げると、手首をひねってたたいた面を見ようとした。そこにはつぶれた肉がくっついて・・・・・・。
「!?」オーガは驚きのあまり固まった。つぶれた肉がくっついているはずのところには、小さな人間が、まったくの無傷でぶら下がっていたからだ。よく見ると、そいつは巨木に剣をを突き刺してぶら下がっている。
そいつは剣を引き抜き、まっすぐオーガの手首に飛び降り、落下の勢いを利用して剣を深々と突き立てた。
「!!!!!」オーガが断末魔の悲鳴を上げた。その声はあたりを満たし、仲間たちの鼓膜にびりびりと響いた。イェリシェンはそのまま傷口を広げるように剣を何度も突き立てた。動脈が切られ、噴水のように、いや間欠泉のように血が噴き出す。
「コ、コノ野郎!」仲間がいきり立って棍棒をイェリシェンめがけて振り下ろす。イェリシェンはにやりと笑うと、手首から飛び降りた。オーガの棍棒が仲間の手首に向かってたたきつけられ、オーガの硬い骨が折れる、岩が落ちたような音がした。折れた所から骨がむき出しになり、滝のような血が流れ出す。オーガは手首を抑えて必死に血を止めようとするが、血はとめどなく流れ、ついにふらついたと思うと膝をつき、そのまま地面に倒れた。
オーガ達は先ほどの余裕もうせ、仲間の死体をぼうぜんと見ている。
「くっくっくっく・・・・・・。」不意に、不敵な笑い声を耳にし、足元を見る。イェリシェンは、苦悶の表情を浮かべて死んでいるオーガをさもおかしそうに笑ってみつめている。それを見てオーガは怒り、一体がイェリシェンを踏みつぶす。もう一度、怒りのままに原形をとどめないほどぺしゃんこにしてやろうと勢いよく足を振り上げる。土煙の中から自分の足の甲があらわれる。
「!」そこには、つぶしたはずの相手がいた。足が腰辺りまで上がり切った瞬間、イェリシェンは飛びあがった。振りあげられた足の勢いは異常なほどのジャンプ力を彼に与え、イェリシェンは一気にオーガの肩へと飛び移った。オーガが思わず肩に乗った相手を見ようと首をめぐらすと、イェリシェンはオーガの太い、しかし柔らかい喉を、黒い何かで切り裂いた。オーガは叫ぼうとしたが、それは声にはならず、ぱっくりと開いた喉笛から大量の血とともに空気となって漏れだすだけだった。オーガは両手で喉を押さえたが、がっくりと膝をついた。今度こそ殺してやろうと仲間が巨木を振り上げると、既にイェリシェンの姿はなかった。
「ドコダ、ドコイッ・・・・・・ギャア!」近くにいた一体が悲鳴を上げた。ほかの仲間がそいつのほうを向いた瞬間、近くにいた一体も悲鳴を上げ、足を抑えた。足の甲には無数の切り傷がいつの間にかつけられていた。さらに連鎖するようにやられたオーガの近くの仲間から悲鳴や呻きが漏れ、一体がたまらず手で足の甲を抑えた。
「アアア!」足もとで待ち構えていたイェリシェンが、下ろされた手首を突き刺した。
「ギャアアアアアアア!」突き刺されたオーガは、剣がつきたてられているだけにもかかわらず、先ほどやられたオーガよりも凄まじい悲鳴を上げた。そいつはもう片方の手で手首を抑えようと動かすも、その手は鈍く、震えていた。何とかもう片方の手首を抑えたオーガは、さらに悲鳴を上げた。イェリシェンがもう一方の手首も切り裂いたのだ。オーガはどうすればいいか分からず、交互に片方の手首を抑えていたが、やがてまっすぐ倒れ伏した。もうもうと土煙が舞い、またしてもイェリシェンの姿を見失うオーガ達。
「オマエ、何者ダ?」族長が土煙に消えたイェリシェンを探しながら叫んだ。返事はなく、しばらく沈黙があたりを満たした。オーガは気持ちの悪い汗をかいていることに気付いた。そしてすごく気分が悪い、怒りとも、悲しみとも違う感情が、オーガ達の心を満たしていた。
「オマエ、オーガニ何ヂタ?キブンヨクナイ、スゴクヨクナイ!」オーガ達は初めて自分たちが経験する感情が分からずいら立ち始めた。
土煙の中から冷たい声が響いた。
「それは恐怖だ。お前たちは俺に対して死への恐怖を感じてるんだよ。」
「キョウフ?ソレハナンダ?オーガ、ソンナコトバナイ。」オーガはめくらめっぽう土煙が立ち込めているあたりを踏み荒らした。さらに土煙が舞う。だが声は続いた。
「俺にはいろんな二つ名があってな。魔剣士、暗国将軍、黒の鎧、闇衣・・・・・・。ほかにもたくさんあるが、おれが最も気に入ってる二つ名がある。」土煙がはれ、踏みつけられてぼこぼこの、ひびだらけの地面があらわになる。が、そこにイェリシェンの姿はない。
「冥土の土産だ、今からお前たちを殺す男の名前を教えてやる。」また声が聞こえ、オーガ達が驚いてあたりを見渡す。自分たちと同じ高さから声が聞こえたからだ。
最初に声の主を見つけたのは族長だった。そいつは、族長の耳元で言ったのだ。族長が首をめぐらすと、目の前には小さな人間が、族長のほうを見ようともせず、ぽかんとしてのオーガ達に向かって、まるで臆することなく悠然と突っ立っている。
「俺の名はグラム。死神グラムだ」男の腕が動き、黒いものが見えたかと思うと、族長の目に鋭い痛みが走り、それはさらに深く、脳まで達して、族長の思考は痛みに塗りつぶされた。
「うそ・・・・・・。」むらのはずれについた私は目を疑った。
巨大なオーガの躯がいくつも地面に転がっている。遠くに逃げ去ってゆくオーガ達の姿が見える。そしてその光景の中、夕日を受けて屍の上に立っている一人の男の姿。
イェリシェンでないのはすぐに分かった。顔を見ればすぐにわかる、優しさのかけらもない、無慈悲で、氷の刃のように冷たく相手を傷つけるような瞳。見た目で分かる自信と尊厳、そして人を見下すような態度。そして何より、右手に携えているあの、黒い何か。それが剣であるのは明らかだが、形状さえ定かではない。
彼は私に気付くと、骸から降りてゆっくりとこちらに向かってきた。
「あなた、イェリシェンじゃないんでしょ。」彼は返事をせず、まっすぐに向かってくる。
「イェリシェンを返して。その体は、あなたのものじゃない、イェリシェンの・・・・・・!」突然彼は私の首をつかみ、締め始めた。
「な、なにを・・・・・・。」私は首をつかんでいる手首を両手で引きはがそうとしたが、彼はさらに万力のように首を締める力を強くした。
「貴様、前にもいったろう、あいつから離れろと。おまえのせいで危険に巻き込まれると。それを聞かなかった結果がこれだ。見ろ、あいつは意地を張ってお前を守ろうとし、俺に変わることさえ抗って左腕をやられた。オーガの群れと闘ってるときでさえ、お前に危害を加えるよりはと死を選びやがった。貴様は危険だ、あいつにとって、おれにとって危険な存在だ。」彼は手を離したかと思うと、即座に黒い剣をどこからとも無く出して、のどに突きつけてくる。私は恐怖のためか、一歩も動けなかった。急に肌寒さを覚え、手足に力が入らなくなってゆく。
「どうだ、つらかろう。俺も無駄に殺して騒ぎを起こしたくはない。だが、拒むと言うなら・・・・・・。」
「ああああ!」それは異常な感覚だった。剣先が肌に触れ、小さな痛みが走った瞬間、先ほどよりもすごい勢いで力が抜けていく。まるで真冬のような寒さだ。血の気が一気に引き、手足が震える。急に意識が遠のき始める。
でも、
「・・・・・・いやよ・・・・・・。」
「・・・・・・なんだと?」
「嫌と言ったのよ!あなたみたいなやつがいるなら、なおさら離れるわけにはいかないわよ!」あらんかぎりの力をふりしぼったが、か細いささやき声を漏らしただけだった。
「仕方ない。」男はギュッと剣を握り、今度は剣を突き刺そうとした。
と、急に彼はもだえ始めた。咳こみながら彼の様子を見ていると、後ろから足音が聞こえた。
振り返ると、村人全員が何かしら武器になるものを携えてやってきていた。彼らは驚いてオーガ達の骸を見ていたが、すぐにもがく彼に気付いた。
男は今、何かと力比べをしているようにぶるぶると震えていた。
「貴様、おれに抗う気か・・・・・・?お前はたかが一部分にすぎないんだぞ・・・・・・!あの女はお前にとってもきけ・・・・・・。」
「クリスは殺させない!」突然、均衡が崩れたように体をのけぞらせ、イェリシェンが叫んだ。と、体がぐらっとふらつき、イェリシェンはそのまま後ろに倒れかかった。私はあわてて腕を伸ばし、彼の体を抱えようとしたが、支えきれずに一緒に倒れた。
「・・・・・・クリス?」腕の中で、イェリシェンがぼんやりとした表情を浮かべてつぶやく。
「イェリシェン、大丈夫?」
「ああ。それよりも、君を傷つけてしまった。すまない、絶対にこうならないようにと誓ったのに。」
「そんなことはどうでもいいわ、あなたが生きてくれてたんですもの。それより傷の手当てを・・・・・。」
「はい、すぐに。」と、いつの間にいたのかマリアさんがすぐそばにいた。かなり暗い顔をしている。
「腕以外にも細かなけががたくさんあります。とにかく治療しないと。」マリアさんが祈りの言葉を唱え始めた。やがて小さな傷がゆっくりとふさがっていき、イェリシェンの苦しそうな顔もだんだんと穏やかになっていく。しばらくして、マリアさんが詠唱をやめた。
「細かな傷は全部治しました。ですが、骨折は時間がかかります。どこか別な場所で・・・・・・。」
「だったら私の家を使ってくれ。」と、村長が申し出てきた。
「英雄のためにぜひとも使ってくれ。いいだろ、皆の衆。」村長はいい、村人は歓声でこたえた。
二日も遅れて申し訳ありません。終わりも力尽きてしまい、かなり適当になってしまいましたが、とにかく早く仕上げようと思い、こんな形になりました。
最近反省点ばかりです。しかも改善できてないorz
読者の皆様には大変なご迷惑をおかけしております。締め切り守るひとってすごいなぁ。